【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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バタバタとメール

「実は今度の夏休みに公演する舞台なんだけど、ウマ娘とヒト娘の友情物語なんだよね。『故障して走れなくなったウマ娘をヒト娘の陸上選手が勇気づける』っていう…」

 

 ほほぅ、夏休み用の舞台の用意は今 (初夏)のうちからやっておかないと駄目なんだな。そうだよな、大道具とか衣装とか手間も時間も掛かるし、芝居の練習だって1週間とかでは身に付かないもんな。

 

 しかし、構成の手間の省ける『手垢の付いた名作』や、勢いで誤魔化せる『奇をてらった一発ネタ』じゃなくて、正当なオリジナルストーリーで挑もうというのか。そういうチャレンジ精神は嫌いじゃないぞ。

 

「設定上、ウマ娘の方が後輩なんだけど、タカナチャンポン先輩やミノタウロス君ではどうにもイメージに合わなくてね… 水澤くんだっけ…? 彼女が来てくれたのはとても助かるよ」

 

 確かにグラマラスなタカチャン先輩では『後輩』のオーラは出しづらいだろうし、ミノタウロスの体型ではアスリート設定も苦しくなる。たかが高校の演劇でそこまで凝る必要も無い様な気もするのだが、その辺の拘りは男として譲れない部分なのだろう。その点は大いに理解できる。

 

「なるほどねぇ… えっと、星埜くんだっけ? 君の情熱の幾分かは理解できたと思う。ジャンルは違えど同好の士と感じたよ」

 

 そう返すと星埜はぎこちない笑顔を見せて右手を差し出してきた。その差し出された手を握り返す。傍目には男同士の熱い友情の絵面になっているだろう。

 

「良いね!」

「良いですよね!」

 

 そのシーンをタカチャン先輩とミノタウロスが、妙にニヤニヤした顔つきで見つめてくる。ハッ!! 俺は危険を感じ取り慌てて手を離す。急に手を離された星埜は怪訝な顔をしていたが、俺には分かる。あの演劇部のウマ娘2人は俺達を見て『良からぬ想像をしていた』のだと。

 それが何かは俺の口からは言えない、言いたくない。とにかく(よこしま)な気配を感じた事は確かだった。

 

 残念そうな表情のウマ娘達を無視して、俺は未だにギャルに絡まれている水澤に目を遣った。

 1年生同士という事もあってか、こちらはいつの間にか意気投合してる感じだ。キャイキャイと互いにオススメの甘味の話をしているらしかった。

 

 最初は演劇部との合流 (?)なんてとんでもないと考えていたが、いざ話をしてみれば悪い連中ではないと分かったし、俺の見聞の広がりにもつながるだろう。

 何よりここには俺の研究対象であるウマ娘が2人もいるのだ。タカチャン先輩やミノタウロスとの交流で、水澤とは違ったデータが取れれば研究の完成度も増す、という物だ。

 

 しばらく演劇部を通して、ウマ娘3人の生態を調査するのも悪くないかも知れない。それに演劇部ならあの口煩い三崎も顔を出せないはずだ。故事成語にも「人間万事塞翁がウマ」とあるが、まさにその通りになりつつあるな。

 

 ☆

 

 1週間後… って、えっ!? 1週間も演劇部に入り浸ってたのか俺? とにかく演劇部のバタバタに巻き込まれて息をつく暇も無かった気がする。一応俺は『演出補佐』とか言う役職で、星埜と一緒にシナリオの構成や演出についてああだこうだ激論を交わしていた。

 

 いや、最初は演劇とか全然興味無かったけど、自分も携わるとなったら半端な物は見せられないじゃん? しかもウマ娘が主役の話で、捏造込みで好き勝手なストーリーを語られるのも面白くないしな。

 

 ちなみに先週のトゥインクルシリーズはクラッシック級の頂点の一角、ティアラ路線の第2戦である『オークス』が東京レース場で行われた。前走の桜花賞は1600mなのにオークスは2400mのロングレースだ。

 

 ウマ娘には個々に『距離適性』というものがあり、速い遅いに関係なく走るのが得意な、或いは苦手な距離があるらしい。

 ヒトでも短距離走や長距離走では、筋肉のつき方やトレーニングの仕方がまるで変わってくるものだが、ウマ娘に関して言えそういった強い適性を生まれながらに持っているそうだ。

 

 当然子供の頃から実際に長距離を走らせたりはしないのだが、トレーナー資格を持つような見る人が見れば、小さいうちから『この子は短距離向き(スプリンター)』とか『この子は長距離向き(ステイヤー)』などと分かるらしい。

 

 何が言いたいのかと言うと、桜花賞とオークスでは走る距離が800mも違う。つまり『1600m(マイル)の適性』と『長距離の適性』の両方を併せ持つ類稀なる才能を持ったウマ娘でないと、ティアラレースの連勝は不可能という話なのだ。

 余談だが、10月に行われるティアラ最終戦の『秋華賞』は距離が2000mであり、こちらは『中距離』の適性が求められる。ティアラ3冠とは実に多彩な距離適性を持つスーパーウマ娘の証でもある。

 

 そして今年のオークスは、桜花賞覇者のオオエドカルチャーが最終直線で大外から華麗な5人抜きを見せて勝利を飾り、見事ティアラ2冠ウマ娘となった。

 その見事な勝ちっぷりと、勝ってなお「物足りない」と言わんばかりの()()()は昨年のクラッシック3冠ウマ娘で、デビュー以来いまだ不敗を維持するツキバミを連想させる。

 

 ツキバミは今、怪我で休養中だけど、秋のジャパンカップや有記念の頃には復活してくるという話だから、ツキバミ、オオエドカルチャー、そして昨年のホープフルステークスと皐月賞を獲って来週の日本ダービーでも最有力と目されるブラックリリィの3人が闘う姿が秋には見られるのだろう。今年から来年に掛けて凄い年になるぞ!

 

 ☆

 

 今日は演劇部は休みなのだが、約束通りというか何と言うか、比人研の部室に星埜とミノタウロスが遊びに来た。

 自然と三崎を加えた女3人と、俺と星埜の男2人でグループが出来てしまい、逆に分断されてしまった気がするのは気のせいだろうか? 確かに『男子部員が欲しい』とは考えていたが、現状『思ってたのと違う』のに少々戸惑っている。星埜と話していても俺のウマ娘知識は深まらないんだな。

 

 そんな中、談笑中の水澤のスマホがメールを受信した。それ自体は大した話では無いのだが、そのメールを見た水澤が顔を少し青くして俺の方へとやって来る。

 

「あの… 今度の日本ダービーに合わせて田舎の友達が『上京するから会わないか?』って言ってきたんですけど、どうしたら良いでしょう…?」

 

 いやなんでそれを俺に聞くの…?




ウマ娘アプリでは2400mは『中距離』ですが、リアル競馬事情を鑑みて本作での2400mは『長距離』とします。
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