【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「初めまして。ウチ、イッちゃんの友達のゴージャスパークって言います。イッちゃんがいつもお世話になってます」
「マッハドリルです。佐賀のトレセン学園ではC2クラスにいます!」
ええっと、地方のC2クラスって言うと中央で言うならプレオープンを抜けた辺りって事かな…?
地方の仕組みは今イチ詳しくないけど、基本的にABCにクラス分けされていて、場所ごとにA1とかA2とかに細分化されていたり、Cクラスが無かったりとかのローカルルールが運用がされており、俺は佐賀トレセン学園独自の特徴までは把握しきれていない。
1つ分かっているのは、地方のレースには『未勝利』という概念が無く、『初勝利』出来なくとも引退せずに済むし、勝ち数に関係なくファンの数で重賞レースの出走権が決められる、という事だ。
なので中にはレースやライブ以外の場所で過激なパフォーマンスを行ったり、ウマチューブやウマトック等の各種SNSを以てファン数を稼いでいる娘もいるらしい。
もちろんそういった行為はNAU(地方ウマ娘全国協会)の推奨する所では無いのだが、上位存在である中央所属のウマ娘が個人SNSで発信しまくって居るので、止めたくとも止められない、というのが現状らしい。
「もうちょい頑張れば九州ダービーにも行けたんやけどねぇ…」
「ウソ! ミヨのファン数を倍にしてもダービーには届かんやろ」
「それでもヨシの倍はありますぅ〜。未勝利の娘には負けませ〜ん」
「あ〜! それ言わん約束なのに〜っ! イッちゃん
「よく分からんけど東京来てまでケンカすんな。それより2人の予定を聞いて良かと? 私、何も聞いとらんちゃけど?」
初めて上京して浮かれる友人達に水澤がツッコミを入れて一旦は静かになる。楽しそうで何よりなのだが、目的も何も分からないでは俺等も困ってしまう。
3人の旧友であるスズシロナズナの出走する、明日の日本ダービーの応援がメインなのは分かってるけど、それ以外の予定とか宿の手配とか出来ているのか気になるし、何より引率者無しの女子高生2人だけの旅行というのも勇気があるなぁと思う。やっぱりウマ娘だからだよね。普通にヒト娘だと親御さんも心配するもんなぁ……。
「まずは明日のダービーでナズナの応援やね! 東京レース場の近くにホテルを予約してあるったい」
「そんで明後日は1日デゼニランドで遊ぶと! イチも来るとやろ?」
「は? あたしゃあ学校だよ。行けるわけねぇだろ」
「えー? つまらん! せっかくのデゼニやし、彼氏も一緒に来たらよかろーもん」
「か、彼氏って… 先輩、どうします…?」
顔を赤くした水澤が俺に聞いてきてた。何だ? 他人に決断を委ねようとでも言うのか? それなら答えは簡単だ。
「あー、俺無理。生徒会に部活のレポート提出しなきゃならないんだわ」
もちろん嘘だ。単に水澤1人でも手に余るウマ娘の世話を3人も、しかもバカンス気分で浮かれた田舎者の世話を1人でさせられるのは御免被りたい。なんなら今この場所からも逃げ出してしまいたいくらいだ。
「そ、そういうわけで私も無理。2人で楽しんで来て」
水澤も内心上京組の面倒を見たくないのだろう。俺の発言に乗っかって話を拒否してきた。まぁ受けたら受けたで学校サボりになるから良くない事ではあるわな。
「ぶー! そしたら今日は付き合ってくれるっちゃろ?」
現在の時間は午後12:30。18:00〜19:00くらいに解散するとして、まぁ軽く遊ぶ事は可能であるな……。
「う〜ん、あんまり遠くだと移動だけで時間潰れちゃうから、近場で何処か2人が行きたい所があるなら…」
水澤も色々考えてはきたみたいだが、やはり客の好みを優先したい気持ちがあるのか、自分の意見を出しては来なかった。
「府中にホテルを取ってるなら、一旦新宿で乗り換えるから新宿で遊ぶとか? でも最近の新宿はかなり物騒だから地方の娘はオススメしないかなぁ?」
水澤も首を傾げながら呟いている。確かにここ数年の新宿の荒みっぷりは異常と言える。ウマ娘とはいえオノボリさんは回避した方が良いと思う。
「うち、パンダ見たい」
「あたしスカイツリー見たいかも!」
あ、下町方面がお望みなのね。まぁ確かに今からならその2つをちょろっと見回せば良い感じに時間が過ぎてくれるかもね。羽田空港から上野や浅草方面なら浅草線に乗れば……。
「あー、モノレールがある〜。これ乗りた〜い。佐賀にもモノレール有ればいいのに〜」
水澤の友人のマッハドリルさんは「スカイツリーを見たい」と言った5秒後にモノレールの方へと歩いて行ってしまった。ゴージャスパークさんも「決まりだね」とばかりに無言で続く。
「自由か!!」
水澤1人がキレていた。
☆
まぁモノレールを使ったとしても、終点の浜松町から浅草線の大門駅までは徒歩3分ほどなので、大したタイムロスもなくパンダやらスカイツリーやらは見られると思う。なにより初めてのモノレールで楽しそうに興奮する2人を邪魔するのは野暮と言うものだろう。俺はフェミニストならぬウマニストなのだ、フフン。
「なんかスミマセン、無理矢理付き合わた上に2人とも興奮しちゃって…」
珍しく水澤がしおらしい態度で謝ってきた。さすがに自由人2人を案内しながら自分も自由に振る舞ったら、現場が纏まらない事を理解しているのだろう。たまにはこういう水澤も良いな。
「次は〜大井レース場前〜」
もうすぐ浜松町に着くというのに、この車内アナウンスに2人のウマ娘の目の色が変わった。
「イチ! レース場行こうっ!」
「イッちゃん、うちら東京のレース見たいと!」
2人揃って水澤に詰め寄った。さすがの水澤もグッタリしつつ「ハイハイ」と力なく頷いていた。
大井レース場のすぐ近くには大井トレセン学園があり、東京『地方』レースの主要拠点となっている。
マッハドリルさんとゴージャスパークさんも地方を走るウマ娘として、大井トレセン学園にライバル意識があるのかも知れない。
地方レースは大体午後からの開催が多く、大井も同様で後半のレースはライトアップされたナイトレースとなる。仕事帰りのサラリーマン等がフラリと寄って食事をしながらレースを見たり出来る訳だ。
「東京のレースが見られる!」と喜んでいる上京組の2人だが、俺にはどうしても彼女達に伝えなければならない事がある。
『今日、大井のレースは休みだよ』と……。