【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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懇願と特典

「えーっ? レースって土日にやるモンやないと?」

 

「うちもそう思うとった…」

 

「私も…」 

 

 上京組に加えて水澤までもが口を合わせて呆然としていた。

 

 まぁ俺もあまり詳しくないんだけど、地方のレース場のレース開催日は結構まちまちだ。 

 中央は基本的に土日がレース開催日になる。おそらく彼女らの所属する佐賀トレセン学園の使用する佐賀レース場も、中央同様に土日開催なのだろう。

 

 一方ここ大井レース場や近隣の川崎や船橋のレースは平日開催がメインになる。その辺の事情も前述のランク分けの様に、地方ごとの特色として現れているのだろうと思われる。

 

「えー、つまらーん、せっかく東京の娘の走りば見て偵察しちゃろうと思ぉとったのに〜」

 

「まぁしょんなか(しょうがない)よミヨ。諦めてパンダ見に行こ」

 

「そうそう、レースは明日のダービー見ればそれで良かろー? 今日レース見とったらもうパンダ見られんよ?」

 

 ゴージャスパークさんと水澤の執り成しでマッハドリルさんも気を取り直し、皆で上野の動物園やスカイツリーのソラマチを堪能したのだった。

 彼女らの下町観光はそれなりに盛り上がったのだが、基本的に水澤含む女子3名がキャーキャー騒いでいただけで、特筆する様な大きなイベントは起きなかった為に割愛させていただく。

 

 ☆

 

「ねぇねぇ、鷹山さんはどうやってイッちゃんと知り合ったと? 告白はどっちからしたと?」

 

 押上(スカイツリー)観光も終わり、後は上京組を府中方面に送り出すだけになった。一応新宿まで送れば「後は大丈夫」との事だったので、新宿で解散する運びとなる。

 そして解散直前に水澤とマッハドリルさんが揃ってトイレに向かった後に、残されたゴージャスパークさんに俺が絡まれた、というのが今の状況説明だ。

 

 水澤よりもやや幼さの残る顔つきのゴージャスパークさんが、ニンマリとした表情で興味津津に問い詰めてくる。女子3人で揃って連れションに行かなかったのは、ここで俺に質問するつもりだったのだろう。

 

「あ、えっと… 元々は『比較人類研究部』って部活の先輩後輩です… 告白は… どっちだったかなぁ…? 忘れちゃったかなぁ…?」

 

 出会いの経緯はともかく、告白がどうのは敢えて濁して答えた。初めは堂々と「水澤から告ってきた」と答えるつもりだったが、後で俺の居ない場所でゴージャスパークさんが水澤に質問した時に(絶対するよね?)、答えに齟齬が出ないようにしなければならないからだ。

 

 ここでボロが出て、俺達の『ニセコイ作戦』が失敗してしまったら、旧友を前に劣等感を抱いている水澤の立場をさらに悪くしてしまうだろう。そしてそれは水澤の八つ当たりの矛先が俺に向く可能性が極めて高くなる事を意味し、最悪命の危険がある。ミッションの失敗は許されないのだ。

 

「ふ〜ん、なんか難しそうな部活しよぅねぇ…」

 

 部活に関してはあまり突っ込まれた事は聞かれたくなかったので敢えてスルーした。短時間でうまく説明できる自信がないし、部活の水澤の事を聞かれても、普段ケンカばかりなので水澤評は悪口しか思いつかない。

 

「まぁイッちゃん、あれで結構寂しがり屋やけん、1人で東京行って上手くやれとるか心配しとったと。でも鷹山さんみたいな優しそうな彼氏がおるとなら安心しました。どうかこれからもイッちゃんと仲良くして上げてください。ちょっと気難しいけど、根は優しくて良い娘ですから」

 

 ゴージャスパークさんは真面目な顔で深く頭を下げ、俺に水澤の後事を懇願した。彼女、本気で水澤の事を心配してくれていたのだろう。良い友達だよな。

 

「は、はぁ… まぁその、頑張ります…」

 

 逆に俺はゴージャスパークさんの真摯な瞳にどう答えて良いものか分からずに、何とも曖昧な返事を返してしまった。後日『我ながら格好悪かったなぁ』と思い返し反省の嵐である。

 

 ☆

 

 その後、トイレから帰ってきた2人と再合流し、明日の予定を打ち合わせる。

 上京組の本命である日本ダービーは、言うまでもなく明日の東京レース場のメインレースであり、前日から多数の徹夜組が出るほど大人数が詰めかける。

 一般の観覧席は朝のラッシュアワーの如く人が溢れかえり、トイレ等で一旦場所を離れたら同じ場所に戻ってくるのはほぼ絶望的だ。

 

 正直レースを見るだけなら、見通しの悪い現地よりもテレビ中継の方がよほど分かりやすいのだが、ここで「テレビで見ます」と言うのも不粋の極みである。不本意ながら付き合うしかあるまい……。

 

「うち等なら『トレセン割』が使えるけん、もう指定席(メモリアルシート)で予約しとうとよ」

 

 ゴージャスパークさんのこの言葉で『人混みはイヤだなぁ』という気持ちが吹き飛んだ。素晴らしい、是非ご相伴させていだきます!

 

 ちなみに『トレセン割』というのは、トレセン学園の生徒がトゥインクルシリーズのレースを観戦する際に利用できる割引サービスだ。

 通常の指定席料金3000円という高校生にはかなり敷居の高い値段から、中央地方を問わずトレセン学園の生徒は大きく割引きが適用される。その上各々随行者を1名まで伴える、というシステムだ。

 それによってゴージャスパークさんとマッハドリルさん、それぞれに随行者として俺と水澤が入場出来るわけだな。

 

 しかも指定席は屋根付き、明日の東京地方の天気予報は『雨』となっている。レースの熱気を雨で冷ますのも悪くないが、ずぶ濡れで体調を崩してしまう事も考えられる。俺はどちらかと言えば濡れたくない。

 年に一度の日本ダービーを生で且つ指定席で見られるのなら、今回の茶番劇(ニセコイ)の出演料としては大満足である。

 

 彼女らの応援するスズシロナズナが出走するダービーは開始予定時間が15:40なのだが、上京組は佐賀のトレセン学園から「見に行くからにはしっかり中央のレベルを目に焼き付けて来い」と言われているそうで、第1レースの未勝利戦(ダート、1600m)から観戦する気マンマンらしい。

 この時期の未勝利戦って色々と『重い』から、俺はあまり気が進まないんだけど、今回はゲストの意向だから仕方ないね。

 

 そんなこんなで上京組の2人を京王線の改札まで送っていき、無事に府中へ送り出して本日のミッションは終了した。

 

 ☆

 

「あの、鷹山先輩… 今日はありがとうございました。あの娘たちも楽しんでいたみたいで助かりました」

 

 ゲストも送り出せたし俺たちもそろそろ帰るべぇ、と考えていた所に水澤が話しかけてきた。

 

「はいよお疲れ様。元々俺は水澤(おまえ)のアクセサリー的な存在意義しか無かったからほとんど置物に徹していて何もしてないけどな」

 

 本当に大した事はしていない。それでも水澤は嬉しそうな顔をして俺を見つめてくる。くそっ、顔は可愛いんだよな… 笑顔は特に……。

  

「でも先輩が居なかったら、やっぱり私は2人とまともに話せなかった気がします… あ、そうなると凄いのはミノちゃん先輩なのか… むしろ鷹山先輩は女子、しかも大好きなウマ娘3人に囲まれてハーレム状態だったんだから逆に感謝して欲しいくらいですよね!」

 

 よぉし、よく言った。それでこそ水澤だぜこの野郎。危うくお前相手に胸キュン展開に陥りかけたが、ギリギリ持ち直したぜ! あぶねーあぶねー。

 

「あの… それで、なんですけど… 先輩、ヨシに何か変なこと聞かれませんでした…?」

 

 ニヤつき顔から一転、水澤は顔を真っ赤にして俺に新たな問いを投げかけてきた。

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