【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「そもそも何で『ウマ娘を滅ぼす』なんて物騒な思考に至ったんだ? そんな思想を持ってる奴は多分世界中でも5人も居ないと思うぞ…?」
水澤は考えをまとめる為か、俯いてしばらく動きを止める。彼女の耳だけが立ったり垂れたりとピョコピョコ動いているのが気になる。あの動き自覚しているのか無自覚なのか? 人間で言うならどこの筋肉を使って動かしているのか…?
「…あのですね、ウマ娘って走るじゃないですか?」
「うん… 走るね」
「走る時はいつもウマネームで呼ばれるじゃないですか?」
「あー、まぁそういうモンかもねぇ…」
「その時に変なウマネームで呼ばれたらその子が可哀想じゃないですか?」
「変な、とは…?」
「えっと… ネタに走ってたり、下品な名前だったり、ダジャレだったり、およそ女の子に付ける様な名前じゃなかったりするパターンですよ!」
「あぁ… 何となく分かるよ。例えば『オッペケポンポン』とか『ケツデカピンク』とかそんな感じ…?」
「そう! そんな感じです! 走るのは大好きなのに、レースの度にそんな忌まわしい名前で呼ばれるウマ娘って可哀想だと思いませんか?!」
段々話が読めてきた。この水澤イチっていうウマ娘は、きっと自分のウマネームが嫌いなんだ。だからさっき聞いた時に凄い顔して睨んできたんだ……。
「なるほど、君の言わんとする事は理解したよ。だがそれでも『ウマ娘を滅ぼす』ってのは些か短慮に過ぎないかい…?」
「話はまだあるんです… トレセン学園に行けなかったり、そもそも始めから行かなかったウマ娘ってどうなるか知ってますか?」
「え?
「そうです。そしてウマ娘は各クラスに分散させられてヒトに囲まれてクラスで孤立します… 『普通校に入学した「走り」の落ちこぼれ』が『教室で孤立』していたらどうなると思いますか?」
「え…? 考えた事も無いや… あまり良い事は無さそうだけど…?」
「はい、虐められます。特に女子に。男子ならまだ良いんですよ。からかわれても半分くらいの力で引っ叩けば大人しくなるし、後から『おめースゲーよなー』みたいに仲直り出来たりします。でも女の子相手じゃ殴るわけにもいかないし、気の利いた反論も出来ないし、もし反論しても余計に虐められます…」
水澤はここまで一気に喋って、息継ぎを兼ねてお茶を飲み干す。「ふぅ」と一息ついて再び俺の目を見て語りだした。
「仮に女子の仲間に入れてもらったとしても、それまで走ってばかりでファッションやトレンドの事は何も分からない… イジメとまではいかなくても、女子グループの中で荷物持ちなんかは普通にさせられます。正直人間扱いされてる気がしません…」
彼女の話は結構衝撃的だった。俺にとってはウマ娘は単に『凄い存在』だから、そんな風にウマ娘を無碍に扱う人がいるなんて、しかも女同士でそんな事をするなんて想像だにしていなかった。
「じゃ、じゃあ君ももしかして…?」
「いえ、私は幸いにしてまだ庇ってくれるヒトの友達が居たので、そこまで酷い目には遭っていませんけど、同級生の中にはイジメを苦にして転校した娘もいます。噂だけどその娘、精神を病んで入院したって…」
そこまで言って水澤は塞ぎ込んで口をつぐんでしまった。
だが言うまでもなく、レースの世界に進んだウマ娘だって皆がみんな幸せな訳じゃ無い。例えば府中にある中央トレセン学園は、日本中から町一番に脚の速い娘を選抜して入学させて互いに競わせる。
レースに勝ち抜いていかないと学園に残る事すら困難になる環境、そして東京近辺には他にも大井や船橋にもトレセン学園はあるのだが、それら地方校のトップクラスの実力でも、中央に出れば平均レベルの娘相手に手も足も出ないというのはよく聞く話だ。
そんな『切磋琢磨』を通り越して『共喰い』と言っても良いほどに、普通の人間から見たら異次元の世界に競走ウマ娘は住んでいる。
恐らくは水澤も競走ウマ娘として走りに挑戦して夢破れた口なのだろう。彼女からすれば妙な名前を付けられて走る事に嫌気が差し、尚且つ楽しそうにトゥインクルシリーズを走っているエリートウマ娘が妬ましいといった所か。
それらの怨念が凝り固まって「ウマ娘を滅ぼしたい」などと言わしめていたのでは無いかと分析するのだが……。
「今、日本には赤ちゃんからお婆ちゃんまで、800万から1000万のウマ娘が居ると言われています。その中で本当に幸せになれるのは… GⅠレースに勝てるのは年間30人に満たないんです。ウマ娘はそんな悲しい運命を背負っているんですよ! それにレースに出られても
うーん、気持ちは分かるけど普通の人間だってプロスポーツで優勝したりなんてのは年間何十人も居ないし、女性なら更に減るだろう。
その『
スポーツに限らなくても、GⅠレースに例えられる様な成功を収められる人はかなり限られると思うんだけど…?
「つまり、そんな不公平な扱いばかりを受けるウマ娘は可哀想だから無くしてしまいたい、って話なのかな…?」
「まぁ大体そんな感じです。表には出て来ないウマ娘差別やイジメはまだまだ存在するんです。せめてウマ娘とヒト娘との距離がもっと近くなれば、お互い仲良くなれると思うんです。ホントそういうのは無くして欲しい。同じ女子ですし…」
「うーん、逆にウマ娘の凄い所を見せつけて、差別してくる奴を黙らせる、みたいな考えは無いの…?」
「そりゃ去年三冠穫ったツキバミさんみたいな『特別な個体』は尊敬されますけど、ウマ娘全体ににそのリスペクトは広がりません。男はともかく、その手法は女子には通用しないんですよ…」
その辺になってくるとウマ娘どうこう関係なく男女論になってくる。あいにく俺は男なので、彼女に反論出来るほど女社会に詳しくない。
「でもそこまで来るともう社会問題だし、俺ら高校生の身分でどうにか出来ると思う…?」
「その知恵を借りたくてここに来たんですよ… その為に私も
2人して黙り込む。正直彼女の悩みはスケールが大きすぎる。いち高校生の領分を遥かに超えていると思う。
「…じゃあさ、その為にまず『ウマ娘には何が出来て、何が出来ないのか?』をざっと検証していかないか? ヒトとウマ娘の差を実証して、そのデータを元に『これから』の指針を考えてみるとか?」
「そうですね… 分かりました。あの、私頭良くなくて作戦とか全然分からないので、その辺先輩にお任せしちゃっても良いですか?」
「あぁいいとも、任せてくれ!」
これ絶対に俺が卒業するまでに決着つくような話じゃないから、卒業まで適当にはぐらかせながら、水澤を使ってウマ娘の各種データを取らせて貰うとしよう……。