【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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天国と地獄

「…何? どういう事?」

 

「だからぁ、ヨシから私達の付き合いについて何か聞かれなかったですか…?」

 

 水澤の顔は真っ赤で、言いたい事はたくさんあるのだけど、その半分しか言えてない。みたいな、もどかしさを秘めた表情で俺を問い詰める。

 確かに「どちらから告白したのか?」とか「水澤は寂しがり屋だから仲良くしてやってくれ」とか言われているな、うん。

 

「あ〜、うん、聞かれたよ。『どっちから告白したのか?』とか… もしかして水澤(おまえ)とマッハドリルさんがトイレに行ってた時も…?」

 

「あー、やっぱり! 今頃あの子達キャーキャー言いながら答え合わせしてますよぉ… 私達の答えが食い違ってたらまた明日何を言われるやら… 先輩、変なこと言ってませんよね…?」

 

 悪い予感が当たったという事だろう。真っ赤だった水澤の顔が一気に青ざめる。

 

「おお。『変なこと』は言ってないぞ。そんな事もあろうかと、告白した順番などは後からどうとでも誤魔化せる様に適当に濁しておいたからな。俺の先見の明に感謝するがいい。それで、お前も『どっちから告白したのか』と聞かれたんだろ? 何て答えたんだ?」

 

 そこでまた水澤の顔が赤くなる。赤くなったり青くなったり忙しい奴だ。傍から見てるとマンガみたいでちょっと面白い。

 

「そ、それは… ✫❊✵からって…」

 

 途端に俯いて口籠る水澤。怪しい。

 

「聞こえないぞ、何だって?」

 

「せ、先輩の方から告られたって言いました! だって…」

 

 再び顔を赤くしたまま、口を尖らせてそっぽを向く水澤。帰り道、水澤を最寄り駅まで送って行ったが、結局この「だって」の先は教えてもらえなかった。

 

 ☆

 

 翌日、東京レース場、午前9時。

 

「ひぃやぁ! こげんたくさんの人がレースば見に来るっちゃねぇ!」

 

「天神と博多の人を集めても、ここまでの人数おらんやろねぇ…」

 

 マッハドリルさんとゴージャスパークさんは東京レース場の人出に当てられて()ぼせている様にも見受けられた。10万人もの観衆をその目で見た事は無いのだろうから無理もない。かくいう俺も実際に目の当たりにするのは初めてだし、俺自身『ダービーの熱気』に当てられて無駄に気分が高揚している自覚はある。

 

 そんな中、俺達は人混みを掻き分けながら、ゴージャスパークさんの予約してくれた指定席(メモリアルシート)に向かう。

 予約済みの指定席は思いの外広くて快適で、自由席でギュウギュウとひしめき合う観客を見下ろしながら『フッ、下民め…』などとふざける余裕も出てくる。まぁ上京組の力があってこその指定席なんだけどね。マジ感謝です。

 

「あ、もう第1レース、始まるとよ…」

 

 ゴージャスパークさんの言葉に導かれる様に、レースの開催時間となりパドックに第1レースの出走者12名が登場した。壇上でジャージの上着を颯爽と脱ぎ捨てるパフォーマンスが行われ、その全員から『勝たなきゃ殺される』と言わんばかりに、闘志と怯えを発散させているのが遠くからでも見て取れる。ここは既に戦場であり、『夢と希望のトゥインクルシリーズ』などという言葉は寝言にしか聞こえない……。

 

 俺はなにげにこの時期の未勝利戦って必死過ぎて見ているのが辛いんだよなぁ……。

 

 毎年ダービーが終われば、その翌週からジュニア級の新戦が開始される。今年のクラッシック級、すなわち去年の新達は今年の9月までに『初勝利』を得られないと、中央でのレース資格を失いトゥインクルシリーズで走る事が出来なくなる。

 

 学園を強制的に退学になる事こそ無いが、『脱落者』の烙印を押されたまま学園に残る者はまずいない。脱落者のほぼ全員が地方のトレセン学園や一般の学校へと転校し中央のトレセン学園を去っていく。

 

 今日のレースも第1〜第4レースまでが未勝利戦だが、裏を返せばそこで『初勝利』を飾れるウマ娘は4人しかいない。その4つしか無い椅子を賭けて50人以上が血眼(ちまなこ)になって争うのだ。

 

 皐月賞のブラックリリィや朝日杯のパッションオレンジ等、同期のトップランナー達が日本一を賭けた『日本ダービー』を走る同じ日に、未勝利戦を走らされるウマ娘の気持ちは如何な物であろうか?

 

 う〜ん、重いわ… 前述の通り『初勝利』の重さは、地方と中央とでは格段の差がある。上京組の2人は『初勝利からがスタート』という知識こそあるが、実感としては俺や水澤の方が出走選手らの切実なプレッシャーをひしひしと感じていると思われる。

 

 ちなみに過去、このダービーの日にようやく未勝利戦を勝って、そのままGⅠの菊花賞を獲ったヒシミラクルみたいな奇跡の娘もいるので、本当にウマ娘のドラマは侮れない。

 

 さて、上京組の2人はやはり同じアスリートとして、出走者の体つきや表情をよく観察して「あの娘が勝てそう」「あの娘は調子悪そう」などとあーだこーだと話し合っている。

 俺はレース予想に関しては全くの素人なので、誰の調子が良さそうだの何だのはほとんど分からない。なんなら俺より水澤の方が、上京組と普通に話せている分、その辺の鑑識眼に優れているみたいだった。

 

 レースは淡々と進行していき、その度に勝った負けたの悲喜こもごもが繰り返される。『初勝利』を迎えた娘は天にも昇る様な喜びを全身で表し、2着以下の娘は地獄に叩き落されたみたいな絶望感をオーラ全開で表している。

 

 そしてレースとレースの合間には、コース脇のライブ用の会場からさっきまで走っていた娘達の歌う定番の『Make Debut!(メイク デビュー)』が流れてくる。指定席にある観覧用モニターからライブの中継も見られるのだが、センター以外の地獄の絶望感を受けた娘達が、顔だけは精一杯の笑顔で歌い踊っていた。

 

 何でそんな明るい顔が出来るのだろう? ほんの十数分前に、自分を地獄に突き落とした相手の為にバックダンサーを務める気分とは如何ばかりな物か? ウマ娘ならぬ俺には全く理解できない。いや、きっと想像すら及ばないだろう。

 このシステムだけは本当に残酷だ。水澤がよく言っていた『ウマ娘レースの悪』の象徴だと俺も思うよ……。

 

 ☆

 

「次のレースは18人のフルゲートやって。凄かねぇ…」

「佐賀はフルゲートでも12人やけんね」

 

 無事に第3レースまでが終了し、続く第4レース。これだけ出走者数が妙に多い。何故かと言うと、本日開催される未勝利戦のうち、第4レースだけが『芝』で行われるレースだからだ。

 第3レースまでは『(ダート)』のレースだった為に、出走者がバラけて10〜12名でのレースになっていたが、本日行われる『芝』の『未勝利』はこの第4レースだけ。

 

 トゥインクルシリーズの主役は間違いなく『芝』のレースだ。今日のメインレースである『日本ダービー』も続く『目黒記念』も、春秋の天皇賞や年末の有記念といったGⅠレースも全て芝のコースで行われる。

 つまりトゥインクルシリーズで頂点を目指すなら、芝のレースで勝たなければならない。当然志望者は多くその門は狭い。

 

 もちろん『未勝利戦』なので、当然優勝者以外の17名は前述の通り地獄を味わう事になる。それでもダートに行かずに芝に拘る様は、そのウマ娘の覚悟の(あらわ)れだと思っている。そういったウマ娘の魂の気高さが、俺達みたいな奴らを引き付けるんだろうな……。

 

 ☆

 

 その後はプレオープンクラスのレースが続けて6戦行われた。こちらは未勝利戦ほどの緊張感は無かったものの、それぞれに盛り上がる良いレースを見させてもらった。

 

「いよいよやね…」

 

 第10レースのむらさき賞の後、水澤がポツリと呟いた。そう、次に控えるレースこそ本日のメインイベント、待ちに待った『東京優駿(日本ダービー)』である。

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