【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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ライバルと日本ダービー

 〜水澤視点

 

 スズシロナズナ。かつての私のライバル… ってのは烏滸(おこ)がましいかな? 私とナズナ(あのこ)は福岡のランニングクラブで初めて出逢った小学2年生から小学校卒業までの4年間、ミヨやヨシも含めてずっと4人で一緒にトレーニングしてきた。

 

 4人で走って大体いつも1番はナズナだった。その後ナズナだけが中央のトレセン学園に進学し、今私達の目の前で日本一を賭けたダービーの場に立っている。 

 ナズナはずっと「夢は日本ダービー優勝!」と高らかに宣言していた。それこそ『日本ダービー』の意味が分からない小さな頃から言っていた。そしてあの娘は遂にその夢にあと一歩の所まで辿り着いた。その純粋さがとても眩しい。

 

 同郷で幼馴染みの誇らしさはある。しかしそれと同時に友達がもう『手の届かない場所』に行ってしまった寂しさも大きく感じている。 

 更には『走り』を辞めた自分へのモヤモヤ感も湧き上がってくる。『水澤イチ』ではなく『アビスビースト』としての私が、ウマ娘の本能が「このままで良いのか?」と囁いてくる。

 今日のナズナの走りを見せてもらって、私も何かしらの結論を出さなければいけない。そんな気になっていた。

 

 

 私がナズナのデビューを知ったのは昨年の秋、彼女のデビュー戦ではなく2戦目の未勝利戦だった。そこで彼女はレース中に他のウマ娘と接触、大きく転倒し、それでも怪我を押して徒歩で自力ゴールして見せた事が少しニュースになったのだ。

 当時走りを辞めて一般人になっていた私は、ナズナはおろかミヨやヨシとも連絡を取り合っていなかったし、何なら彼女らの存在すら半ば忘れていた。だからあの娘達のレースデビューの時期とかをいちいち調べたりしなかったのだ。

 

 後から動画で確認したナズナの未勝利戦は壮絶だった。動画に付けられていたコメントも総じて「あれだけ派手に転んで軽傷で済んで奇跡」といったもので、ナズナの幸運とその後のガッツを称える物がほとんどだった。

 ただその中で1件、私の心を掴んで離さないコメントがあった。曰く、「この娘だけじゃ無いけど、ウマ娘って走る為に頑張ってきたのに、もしこれで骨折でもしたら人生台無しになっちゃうよね」という物だ。

 

 私達ウマ娘は走る事に無上の喜びを見出す。時速50kmで風を切るのは適切な例えが出てこないくらい気持ちが良い。

 でもそれは大怪我と背中合わせな危険な行為なのだ。防具やヘルメットを着けずに時速50kmで転倒したらどうなるか、考えるまでもない。

 

 ウマ娘は走る。危険を背負って。ミドルティーンの女の子が命を懸けて走らなければならないって状況はやはり何かが間違っている。

 ウマ娘の『走りたい』という本能を、こういった大規模なレースに昇華させたヒトの考えも分からなくは無いけど、犠牲になるのはいつも私達無垢なウマ娘だ。

 

 ナズナは皐月賞でも謎の斜行でコースを外れて失格になっている。あの娘はふざけてそんな真似をする娘じゃないから、何か大きなトラブルが有ったに違いない。心配の種は尽きない。

 

 正直、去年から傷だらけのナズナを見ているだけでも我が事の様に辛いのだ。

 

 でもウマ娘は脚を止めない。『それでも走りたい』となるのがウマ娘なのだと分かりきっている。私自身がウマ娘なのだから……。

 ウマ娘の側にも精神的に大きな問題がある以上、世間に「危険なレースを止めろ」と言っても通用しない。

 

 望まぬ名前で呼ばれる事と併せて、私の中で「もうウマ娘ごと居なくなった方が良いのでは無かろうか?」という気持ちの萌芽はこの時に生まれ始めていたのだと思う……。

 

 ☆

 

 さて、思いをレース場に戻そう。世紀の大レースを控えたパドックで、当代の最精鋭たるウマ娘達が観客に思い思いのアピールをする。

 

「勝負服良いよね〜、羨ましか〜」

「ウチらもGⅠ出られるように頑張ろう!」

 

 ミヨとヨシがGⅠウマ娘達に羨望の眼差しを送っている。

 そう、中央も地方もGⅠレースではウマ娘は各々独自の勝負服を着用する。1番人気のブラックリリィは大きな鍔広帽子に黒い布を全身に巻き付けただけみたいな前衛的なドレス、2番人気のクリスタルセイバーは名前の水晶(クリスタル)を彷彿させる様な鋭角的なデザインのドレス、3番人気のスメラギレインボーは和装の『女武者』みたいなデザイン。 

 

 ちなみに我らがスズシロナズナの人気は全18人中15位。これは彼女の実力どうこうではなくて、『青葉賞から進んだウマ娘は絶対にダービーに勝てない』というジンクスのせいだろう。

 このダービーの場にいるのが凄い娘ばかりなのは分かってるけど、ナズナが人気15位とか同郷の私達まで軽く見られている気がして気分が宜しくない。

 

 さて気を取り直して、ナズナの勝負服はデニム生地のジャンパーとミニスカート、オレンジ色のチューブトップがアクセントとなっている。

 ショートカットで目元の凛々しいナズナみたいな娘がミニスカートってちょっと意外なんだけど、逆に何ともナズナらしい『可愛いカッコいい』デザインだとも言えるだろう。

 

 惜しむらくはパドックでのお披露目が始まった辺りで空色が急変し、ゲリラ豪雨が現場を襲った事だ。

 そのせいでナズナやリリィといった枠番後半5〜6人のウマ娘がずぶ濡れになってしまった。一張羅の勝負服を濡らすのは辛いだろうなぁ……。

 まぁナズナは昔から雨女だったから不思議はない。昔も皆で泥だらけになりながら競争したなぁ……。

 

 雨は割とすぐに止んだけど、激しい雨に晒された場は泥濘(ぬかる)んだままで、レースにも小さくない影響があるだろう。また『滑って転倒』なんて事件が起きなければ良いけど……。

 

 ☆

 

 天候トラブルによる若干の混乱はあったが、3分ほどの遅れでレースは通常通りに開催される。芦毛で背の高いとても綺麗な『誘導ウマ娘』さんに連れられて、選手達がスターティングゲートへと収まっていく。

 ちなみにこの誘導ウマ娘というお仕事は、美人で長身、更には9割以上が芦毛か白毛のウマ娘にしか就けないという、超難関の職業だったりする。

 

「そう言えばお正月に帰省したナズナに聞いたんやけど、あの娘のトレーナーさんも芦毛でバリ美人げなウマ娘って言うとったよ」

 

 へぇ、正月に会ってたのか。連絡を断っていた自分が言うのもナンだけど、そんな席があったなら誘ってほしかったなぁと今なら思う。あ、もし連絡先交換してても私はナズナに嫌われてるから無理か……。

 

 雨が上がり、先程の土砂降りが嘘のように太陽が輝き出した。ナズナやブラックリリィは着替える暇も与えられずにそのまま走るみたいだ。

 

 ナズナ… 頑張って欲しい。勝って子供の頃からの夢を叶えてほしい。滑りやすいコースだけど転倒したりせずに無事に走りきって欲しい。

 

 ナズナの速さや強さはここに居る私達が一番良く知っている。そして知っているが故に冷静に見れる部分もある。

 ナズナは確かに速い… それでも私の見立てではブラックリリィやスメラギレインボーの方が総合的なレベルではやや上だと思う。

 

 青葉賞のジンクスの件もある。きっとナズナは勝てないだろう。良くて入着出来るかどうかの瀬戸際かな…? もちろん勝ってほしいし応援もしている。それでもナズナに『これ以上遠くに行かないでくれ』と浅ましい願いをしている自分がとても恥ずかしかった……。




 先日9/28、シンコウウインディ号の30歳での訃報が届きました。昨年のタイキシャトル号から始まったウマ娘モチーフ達の死はいつも悲しい気持ちにさせられます。
 まぁ皆さん歳が歳なので仕方ない面も否めませんが、少しでも元気に長生きして欲しいものです。
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