【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
〜水澤視点
ゲートが開きレースが始まった。全員が綺麗に横一線でスタートする。昔からゲート難の兆候のあるナズナは、無事出遅れる事無く良いスタートを切れたみたいだ。
「まず先頭はクリスタルセイバーか。彼女は昨年の阪神ジュベナイルフィリーズの優勝者で今回のダービーでも2番人気。優勝候補の一角だ…」
頼んでもいないのに鷹山先輩の解説が始まった。「どうした急に?」と聞き返そうかと思ったが、別に私に聞かせようとして話しかけたのではなく、視線がレースに固定されている。恐らくは単なる独り言で、本人は声を出している自覚も無いだろう。
クリスタルセイバーを追う様に2番手にバブルギンザが付く。続いてリンカイパワフル、スメラギレインボー、ナズナは5番手。
「スズシロナズナは良い位置に付けているな。だがすぐ後方には朝日杯のパッションオレンジ、皐月賞のブラックリリィが居る。GⅠホルダーに挟まれて走るプレッシャーって凄えんだろうなぁ…」
鷹山先輩の
「さっきの雨でコースが湿ったせいやろね。もう何人か泥まみれになっとぉよ…」
「うわぁ、せっかくの勝負服を汚すのキツかねぇ…」
ミヨとヨシの言葉通り先頭の2人から後続は、前の者の跳ねた泥を被って真っ黒だ。ナズナも同様に泥にまみれて、素肌を晒している二の腕やお腹、顔すら泥だらけになって走っている。
「不良馬場で走りにくそうだな… 転倒者とか出ないと良いけど…」
鷹山先輩の呟きにミヨとヨシも力強く頷く。どうしてもナズナの未勝利戦での転倒事故が思い起こされる。
別にナズナに限った話じゃない、世代最高峰たるダービーの出走者は全員がトレセン学園の、いや日本の至宝だ。みんな無事に事故無く走り切って欲しい。
レースはそのまま大きな順位変動も無く、東京レース場の名物である第3コーナーの大
「来た!」
「うん!」
ミヨとヨシの言葉が合図になったかの様に、コース上のウマ娘が一斉に仕掛けだした。さすが現役アスリート、現場の空気の変わり目を肌で感じ取って即座に反応した。
私には残念ながらその『空気』は感じ取れなかった。レースから身を引いて久しいからか、前線の感覚が鈍っているみたいだ。
私はもうレースとは無関係なのだから別に残念がる必要は無いのだが、幼馴染み4人のうち自分だけが取り残された様な寂しさは強く感じていた……。
おっと、レースに集中だ。後方集団が速度を上げ、隊列が短くなる。ナズナも加速して1人抜き、4番手に上がる。
全体が団子状態のまま、第4コーナーを抜けて最後の直線に入った。ここで観客席も一気にヒートアップする。
ブラックリリィへの声援、パッションオレンジへの声援、クリスタルセイバーへの声援、スメラギレインボーへの声援… 10余万の応援の力で東京レース場全体が震えるかの様な大歓声に包まれて、日本ダービーはいよいよ終幕に入った。
日本最高峰のウマ娘達が『ダービー』の栄冠を賭けて全身全霊の走りを披露する。この瞬間は泥だらけの彼女達が、まるで磨き抜かれた宝石の様に輝いて見えるのだ。
直線に入って早々にナズナはブラックリリィに抜かれてしまった。まだナズナの体力は尽きてはいないはずなのに、それとも単純にブラックリリィが『速い』のか……。
「ナズナっ! 夢のダービーぞっ!」
「お願い… お願い…」
ミヨは拳を握り締めて声を上げているし、ヨシは目を閉じて懸命に祈っている。
「やはり苦しいか… 青葉賞のジンクスなのか…」
鷹山先輩の呟きも焦りが浮き出ている。本来ナズナとは縁もゆかりも無い鷹山先輩がナズナを応援してくれているのは、私達に義理立てしているからだろうけど素直に嬉しい。
「スズシロナズナーっ! 意地を見せろーっ!」
客席から若い男性の声が響いた。特段に大きな声ではなかったので普通の人には聞こえなかっただろう。でも私のウマ娘イヤーはなぜかその声を明確に捉えた。
客席に集中すると決して数は多くないが、それでも数百かそれ以上の声がナズナを応援しているのが分かる。
私達の様な昔馴染みだけでなく、東京のGⅠレースで大きな声援を受けるナズナがとても眩しく感じられる。もう『地元の誇り』とか『幼馴染みの友情』とかいう小さいレベルの話を飛び越えて、スズシロナズナというウマ娘は全国区の存在になったのだと改めて認識した。
私達だけじゃない。ナズナは客席に居るたくさんのファンや、今日会場に来られない更にたくさんのファンの『想い』に支えられているのだ。
だったらもっと頑張れよ! 私達を置き去りにしてきたアンタの鋭い走りを、ここでギア全開で見せてくれよ!!
「ナズナーっ!! 行けーっ!!!」
今日は声を出す気は無かった。でも目の前で旧友が日本一を決めるレースを走っている。渦巻く気持ちが体を飛び越えて外に出たのが先程の叫びだ。
…今、ハッキリと分かった。私はナズナが『嫌い』だ。あの娘はずっと私の前を走って、私に屈辱ばかりを与えてきた。正直『目の上のたんこぶ』だった。トレセン学園への入試に落ちて、「もうナズナと競わなくて良い」となった時には心底安心したものだ。
でももう一つハッキリした。私はナズナの『大ファン』だ。あの娘の走りを常に一番近い所で見てきたのは私だ。あの娘は私の目標であり、そして『憧れ』だった……。
ナズナが負ける所なんて見たくない! アンタは常に一番である事を私に見せつけ続ける義務があるんだ! アンタは私の中でずっと『最強』でいて欲しいんだよ!!
私の声が引き金になった訳でないが、ここからナズナが別人の様に再加速して巻き返してきた。
「並んだっ?!」
鷹山先輩も驚きの声を上げる。最終直線、残り200mでナズナが先頭集団に再び追いついた。完全に横並びで6〜7人のウマ娘が
残り150m… 100m… 誰も一歩も譲らない。天下の日本ダービーに出る様なウマ娘達だ。その実力に大きな開きは無いはずだ。つまりここから誰が勝っても不思議ではない。ナズナにだってきっとチャンスがある。
そして一瞬だけナズナが前に出る。ナズナが『掛かる』のが外から見ても感じられる。だがしかし、ラスト直線での『掛かり』は『末脚』と名を変えるのだ。
最後の一片まで力を出し切るべき場面、スタミナの残量など気にせずに突進する場面でナズナは根性を見せた。
残り20mでナズナは横並びの一団から半歩前に出た。それが『底力』なのか『掛かり』なのか、或いは『魔法』なのかすら私には分からない。
でも確かに奇跡は起きた……。
ゼロコンマ数秒の間で7人のウマ娘が瞬く間にゴールする。そして私達の目の前で、
今回のイチの『嫌いだけど好き』というくだりですが、アニメウマ娘3期の放送前に投稿しており、決してシュヴァルグランの台詞のパクリではありません。悪しからず。