【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「コレ見て下さいよ!」
水澤に呼び出されたハンバーガーショップで、俺は奴のスマホを見せられた。
画面は募金を募るクラウドファンディングサイトで、そこには『富崎』と名乗る人物がスズシロナズナの治療費のカンパを呼びかけるメッセージが記されていた。
『ナズナ基金』と銘打たれたそのページのトップには、車椅子に乗った小学校低学年くらいの栗毛のウマ娘が、勝負服や体操着のスズシロナズナと楽しそうに笑って写っている写真が何枚か載っていた。
他の写真には今年のNHKマイルカップ(GⅠ)覇者のオカメハチモクや、青葉賞 (GⅡ)覇者のスターコロボックルも写っていた。
確かこの3人は同じチーム〈ポラリス〉に所属しているはずなので、同時に写真に写っていても何の不思議はない。
車椅子の小学生ウマ娘の方は目元が修正されていていたが、楽しそうな表情は口元だけでも判断できるし、そこに一緒に写っているジャージ姿のスズシロナズナは確かに本人の様に見える… 合成で無ければ、だが。
記事に曰く、車椅子のウマ娘は発案者の娘であり、スズシロナズナの大ファンという事だ。生まれた頃より脚が悪くて「ウマ娘として生まれたのに走りたくても走れない」為に塞ぎがちだったところを、ひょんな事からスズシロナズナのファンになり、推し活を経て本人と触れ合ったりで明るい性格に変わったらしい。
先日のブラックリリィのウマスタグラムでの発言を受けて、今回の募金を立ち上げたらしいのだが、例の『3000万』のネタの出所が未だ不明のままである事、ブラックリリィと富崎氏の関係が不明瞭な事等が気になる点ではある……。
「このサイト、昨日から立ち上がったんですが、一晩で800万以上の寄付が集まって、今までもう1000万円を超えてるんですよ!」
水澤の鼻息がいつにも増して荒い。これもう次の台詞は「先輩も募金しましょう」になるに決まってるよね。つまり俺の仕事は、単純で騙されやすい水澤君に「少し待ちなさい」と掣肘を加える事だと瞬時に理解した。
「それは凄いな。でもこれ信頼できる人なのか? クラファンなんて半分は詐欺だと聞くぞ?」
「そう、『そこ』なんですよ! 今の私じゃナズナの事を冷静に考えられないから、先輩の意見を聞きたくて…」
なるほど、この俺の冴えた判断が聞きたい、という事だな? よし分かった、協力してやろう。ふむ、どれどれ……。
サイトに上げられている写真は、いずれも今年のトレセン学園『春のファン感謝祭』にて撮られた物らしい。
自分のスマホでトレセン学園の公式サイトから今年の春ファンでの行事を調べてみると、『チーム対抗歌合戦』や、現役車椅子レースチャンピオンを招いて『車椅子レース』が催されたそうだ。しかもその車椅子レースの発案者にはスズシロナズナの名があった。
写真に関しては疑う余地は無さそうに思える。歌合戦は3人ひと組でのステージで、写真を見る限り多くの参加者が勝負服で歌っていたし、車椅子の観客へのサービスとして車椅子レースを行うのはとても理に適っている。
俺としても何とか否定的な証拠を見つけて「騙されるなよ水澤」と言ってやりたいのだが、今のところ否定的な証拠は見つからない。
ついでに発案者の『富崎氏』に関しても、ウマスタグラムやウマッター、ウマトックやウマチューブ等もまとめて調べてみた。
同一アカウントでやっているのは数ヶ月前から始めたウマスタグラムだけで、その内容も『娘さんがどれだけスズシロナズナのファンなのか』を、『応援グッズを買った』『弥生賞をテレビで応援した』といったほのぼの家族ニュースのみで、悪意のあるコメントは見られない。むしろ幸せオーラ全開で、見ている俺の方が当てられて辛くなってくる。
「ウマスタ開設も何ヶ月も前だし、記事も極めて穏当… 個人情報はほとんど上げられてないけど、奥さんや娘さんと幸せそうに暮らしているのは見て取れる… 詐欺を働くタイプには見えないな… それともよほど用意周到なのか…?」
現時点での俺の分析に水澤の顔が『ぱぁ』と明るくなる。まだだ、まだ喜ぶのは早いぞ水澤よ。
「ウマスタだけじゃ確実な判断は下せないな。別の名前で大型掲示板や他のSNSで悪趣味な発言を繰り返している可能性はある。そしてブラックリリィのウマスタグラムもまだ完全に信じられると確定した訳じゃない…」
「むー、それはさすがに邪推が過ぎませんか先輩?」
水澤がジト目で反論してくる。いや俺だって別に難癖つけたくて言ってるんじゃないんだよ? 確実に『善意の募金活動』である事を証明したいだけなんだ。その為に懐疑的になるのは仕方ない事なんだ。
「せめてスズシロナズナの所属するチーム〈ポラリス〉から何かの公式な発表があれば、判断材料にはなるんだけどなぁ…」
そんな事を呟きながら、俺はスマホで新たにチーム〈ポラリス〉に関する新情報を探していた。水澤も何かを調べたそうだったが、奴のスマホはナズナ基金のページを常時表示しておいてくれないと困るので、机の上に半没収状態だ。
「お、チーム〈ポラリス〉から公式発表出てるぞ。5分前の出来立てホヤホヤ記事だ」
俺の言葉に水澤も「おぉ〜」と俺の横にやってきて、2人でスマホを見つめる。接近した水澤の体臭? 香水? コロン? よく分からないが甘い匂いが俺の鼻を通り抜ける。べ、別にドキッとしたりはしてないからな? 「
記事の内容は『チームの内情が意図せずブラックリリィに漏れてしまい、公式発表より前に世間に流れてしまったが、漏洩の原因はポラリス側にも責任があり(詳細は書かれていなかった)、ブラックリリィに非は無いと考えている事』。
更に『チームとしてナズナ基金の事は承知しており、主催者の身分とスズシロナズナとの良好な関係も把握している。ただまだスズシロナズナが手術を受けるかどうかは未定であり、チームと募金は無関係である事、しかしながら数千万の費用捻出は容易ではなく、この募金を頼る可能性は否定できない』との事だった。
「先輩…」
記事を読んだ水澤が何かを決意した様な顔で俺を見つめる。これから言わんとしている事は薄々予想出来るけどな……。
「分かっている、皆まで言うな。どうせ『カンパに協力して欲しい』ってんだろ? 良いよ、俺もダービーでは非常に貴重な経験をさせてもらったし、メチャクチャ感動させてもらったからな…」
チーム〈ポラリス〉が身分保証してくれるなら、このクラウドファンディングは恐らく詐欺とかでは無いだろう。
高校生の