【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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聖騎士と戦艦

 メジロ家のウマ娘がここ何年も勝ち星に恵まれていないのは既述だが、前回の会長との会談から俺もメジロについて少し調べてみた。

 

 やはりここ10年はオープンクラスに上がるのが精一杯で、直近では5年前にメジロスティングというウマ娘がデビューしたが、21戦3勝という成績でなんとかオープンクラスには上がれたものの、特に歴史に絡む事無く2年前に学園を円満卒業している。

 それでも全国級のエリート揃いであるトレセン学園で何勝も出来ているのは十分に凄いのだが……。

 

 やはり世間の声は「もうメジロは駄目なのか…?」という雰囲気になってしまっている。

 このタイミングで新たにウマ娘がデビューするとは、やはり名家の矜持(プライド)なのだろう。デビューする本人への圧力(プレッシャー)は、他人事(ひとごと)ながら想像するだけで胃が痛くなる

 

 ちなみにソエ(管骨骨膜炎)とはトレーナーが付いて本格的なトレーニングを始めたばかりの娘がなりやすい病気だ。

 専属トレーナーが付くと、町のコーチや学園の教官ではやらない様なハードな、或いは特殊なトレーニングを課される事がよくあるのだが、そこで急激な環境の変化に体が追い付かずに、主に足首等に痛みの症状が出て、一時的に走れなくなる。

 

 一般的には本格化を迎える頃には自然に痛みも引いてくるらしく、あまり長患いになるケースは多くない。きっとその娘も年末か年明けくらいには無事にデビュー出来るはずだ。

 

「ほぉ、そうですか。久々のメジロウマ娘なら活躍に期待出来そうですね」

 

 俺も少し興奮してきた。やはりメジロ家と言えば名家中の名家だ。普段なら俺みたいな奴は、いちファンとして遠くから「ほへ〜」と眺めているしか出来ないメジロのウマ娘が、北野会長を通して間接的ながらも凄く身近な存在に変わっている。

 しかもデビュー前の有力ウマ娘の情報までゲットさせてもらえるなんて、その辺のマスコミよりも恵まれているんじゃなかろうか?

 

 加えて言うなら水澤を通じて、今年の『ダービーウマ娘』との繋がりまで出来てしまっている。今までの人生でここまでウマ娘に深く結びついた事はない。あぁ、本当に比人研を立ち上げて良かった……。

 

「ええ、パラディン(あのこ)は本当に頑張り屋さんで、しかも可愛いんですよ。写真見ます?」

 

 普段は表情を崩さない会長が、何かのスイッチが入ったのか、まるで別人みたいに嬉しそうにスマホから写真を見せてきた。なんだろう? 『自慢のペットを褒めて欲しい』みたいなノリだな。

 

 そこには栗毛をショートカットにした、元気そうな美少女ウマ娘が誇らしげな表情で写っていた。ほぉ、この娘が次代のメジロの救世主候補か… よし、来年はこの娘を推すとしよう。

 

 久々のウマ娘トークにご満悦な俺様の腕を横に座っているミノタウロスがつついてきた。

 

「ねぇ、用事も済んだしわたしもう帰っても良いかな〜?」

 

 うん? 用事って何だっけ…? あぁ、演劇部の話か。メジロ家のレア情報が聞けてすっかり本題を見失っていたわ。

 しかしいくら競走から身を引いた身だとしても、同じウマ娘なのだから、ここまで無関心なのはいただけないなミノタウロスよ。

 

「あらごめんなさい。(わたくし)ったら柄にもなく浮かれてしまいましたわ。どうぞお気をつけてお帰り下さい」

 

 ほらもう余計なことを言うから会長が『親バカモード』から『仕事モード』に戻ってしまったじゃないか。仕方ないが今日はここまでだな……。

 

 ☆

 

 さて週が明けて日曜日。本日のメインレースは東京レース場で行われる(ダート)1600mのGⅢ『ユニコーンステークス』だ。

 

 かつては『クラッシック級ダート3冠』の一角とされた権威あるレースだが、『ダート3冠』という概念が無くなってしまった現代では、7月のGⅠ『ジャパンダートダービー』の前哨戦(トライアル)として機能している印象だ。

 

 注目は昨年の『全日本ジュニア優駿 (GⅠ)』覇者、ダートのジュニア王者であるスピンストームと、ウマ娘としては目を疑うような巨体ながらも、華麗な逃げ脚と後続を巧みなステップでブロックするレース巧者、ドキュウセンカンの一騎打ちだろう。

 

 このドキュウセンカンというウマ娘、芝もダートも走れる類まれな才能の持ち主で、元は北海道の門別トレセン学園に在籍していたが、現トレーナーに見初められて中央へと転校してきた変わり種だ。

 

 中央で戦績が振るわずに、都落ちして地方に転校する娘は毎年山ほどいるが、地方から中央への上昇転校もそう珍しい事では無いらしい。地方に見合わぬ高い実力を持て余し、中央へと挑戦したウマ娘は枚挙に暇がない。

 

 ただ残念ながら地方からの『挑戦』に成功したウマ娘は驚くほど少ない。元より中央と地方の差はウマ娘、トレーナー、設備等、諸々全てが『異次元レベル』に掛け離れているらしい。

 

 それこそ「水澤(アビスビースト)、スズシロナズナ、マッハドリル、ゴージャスパークの4人組の中で、中央へ進学できたのがスズシロナズナだけだった」という点で見ても、厳しい選抜が行われているのは理解できる。

 

 そのせいか、地方から中央に移って結果を出せたウマ娘というと、数多の挑戦者の中でも十指に余る数しか居ないのが実情だ。

 

 地方から中央に転校してきたウマ娘というとオグリキャップやイナリワンが有名だが、そのオグリキャップの笠松時代のライバルとして名高いフジマサマーチですら、中央挑戦時の戦績は4戦全敗、しかも全て大差で最下位という惨憺たる有り様で、彼女は失意のまま程なく元の笠松トレセン学園(ちほうこう)へと帰っている。

 

 それ程までに『中央』の壁は厚いのだが、件のドキュウセンカンは中央、しかも芝のレースで勝ってきており、GⅠである『阪神ジュベナイルフィリーズ』にも出走している。

 

 今回ドキュウセンカンは久しぶりのレース、しかも中央では初めてのダートレースだ。ダートそのものは地方で走っていたので得手不得手は関係ないだろうが、ここに来て場の路線変更は少し不自然ではある。

 まぁ芝のレースでは未勝利戦の1勝しか出来ていないので、ダートに戻っただけかもしれないが……。

 

 レースが始まった。『逃げ』るドキュウセンカンを追って11人のウマ娘が駆ける。一番人気のスピンストームは中段後方で控える形。

 

 いつもなら体格のせいかトップスピードの遅いドキュウセンカンを抜こうとする後続に対して、ドキュウセンカンは巧みなブロック術で進路を塞いでくるのだが、今日はそうさせる暇も与えずにドキュウセンカンは『大逃げ』態勢で飛ばしている。

 

 結果、スピンストームの末脚も及ばずに、ドキュウセンカンは2身差で勝利をもぎ取り、見事な重賞初勝利を飾った。

 

 ブロック技の炸裂する予想していた展開とまるで違っていて驚いたが、新鮮な気持ちでレース観戦出来た。普通の走り方も出来るんだね……。

 

 来週はいよいよ春レースの締めくくり『宝塚記念』、そしてその後は我々学徒の恐れる『期末テスト』が待ち構えているのだ……。

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