【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
着替えタイムと雑談タイムが一段落ついたようすなので、追い出されていた俺と星埜は演劇部の部室に戻ってきた。
それにしても演劇部ウマ娘3人組の新衣装はなかなか壮観だった。特にミノタウロスは競走ウマ娘としては規格外に横幅のある体型なのに、サイズピッタリの制服が送られてきたのは正直驚いた。
まぁドキュウセンカンみたいな長身ムキムキマッチョなウマ娘も日常のでは普通に学園のセーラー服を着ているのだろう(ちょっと想像つかないが…)から、本当に大小様々なサイズの制服が網羅されているのは間違いないだろう。
そして前述のミノタウロスや、大人っぽい雰囲気の持ち主の為に、衣装を変えても何かのコスプレにしか見えないと思われたタカチャン先輩も、トレセン学園の制服を着たらしっかりトレセン学園の生徒に見えるのだから大したものだ。更に……。
「へぇ、水澤はさすがに違和感が無いな。その格好で走ってたら俺でもトレセン学園の生徒さんだと思うぞ」
そう、水澤は『元ランナー』だ。前線を退いて数年経ってはいるが、リタイアの早かったタカチャン先輩やミノタウロスとは、何と言うかオーラが違う。
そう言えばダービーを観戦した日に、走りを辞めた事を後悔している台詞があったが、その辺の真意もまだ詳しく聞いていない。そのうち聞いてみたいものだ。
「あ、あんまり見ないで下さい… 先輩のエッチ…」
水澤は顔を赤らめて俺を睨みつける。そしてこの言い草だ。傷つくよなぁ、俺が何をしたというのか?
その場にはウマ娘3人と橘の女子計4人が居たのだが、誰も俺を庇ってくれない。むしろ楽しそうにニヤニヤしながら俺と水澤を交互に見ている。マジで何なの、この人たち…?
「まぁ水澤ちゃんもこれで気合いマックスみたいだから、芝居のお稽古頑張りましょう! 星埜くんも問い合わせの結果から脚本の直しは出来たんでしょ?」
「あ、ええ。ほとんど直す場所は無かったですね。鷹山くんの考察はそれだけ素晴らしかったです。僕だけだったら今の段階で8割書き直しでしたよ…」
星埜が苦笑いで答えながら俺を讃えてくれる。誇らしい限りだ。
「みんなの気分がノッた所で、もう一度頭から読み合わせしてみましょうか」
タカチャン先輩の言葉に、全員が気合を入れ直した様に台本を手に取った。
☆
本日の稽古も終了し、ダラダラと片付けをしていた頃、俺の頭は週明けのGⅠ『宝塚記念』で一杯になっていた。
春の天皇賞でのツキバミ、ダービーでのスズシロナズナと有力選手が次々とリタイアしていった波乱の春レースではあったが、それでもまだまだ注目選手は例年以上に揃っている。
前年の宝塚記念覇者ケイヨウブロンコ、秋の天皇賞覇者トウザイブレイカー、桜花賞&オークスのダブルティアラを成し遂げたオオエドカルチャー、皐月賞ウマ娘のブラックリリィ、ジュニア女王のクリスタルセイバーといった、とにかく『薄味とは言わせない』とばかりに集った実力者集団だ。
今年のクラッシック級は特に粒ぞろいで、先日のこの上なく白熱したダービーを見れば、上記以外にもスメラギレインボーやトッカンクイーン、パッションオレンジやイーグルダイブ等々、いずれも一騎当千のウマ娘が実力伯仲で群雄割拠している様が容易に想像出来る。う〜む、楽しみだ……。
「先輩っ!!」
物思いに耽っていた所に不意討ちで水澤に背中を叩かれ激しくむせた。ウマ娘の力でぶっ叩かれたら普通に暴行事件だと何度もだな……。
「コレ見てください! ナズナが…」
水澤に文句を言ってやろうと口を開いた面前に水澤のスマホが突きつけられる。何やらまたどこかのニュースサイトみたいだが……。
『ファンの願い結実、スズシロナズナ渡米決定! 手術は7月中旬か?』
……おぉ! 遂に手術の段取りが決まったのか、そりゃ良かったなぁ。
スマホを受け取って記事を読むと、俺も協力した例のクラウドファンディングが大成功を収めたらしく、現段階で既に当初の目標額に倍する金額が集まったそうだ。
その費用を以て、スズシロナズナは日本では難易度が高すぎて実施困難とされる、脳神経系の手術をアメリカで受ける事が正式に決定したらしい。
記事には手術の成功率についての記述は無かったが、脳だの神経だのの手術だ、「何かの手違いで」って事も有り得るとは思うのだが、ここで余計な情報を水澤に与えるのは得策ではないな……。
「そっか… スズシロナズナ、また復帰して元気な姿を見せて欲しいよな…」
「ハイッ!
このニュースが心底嬉しかったのか、水澤は子供の様な笑顔で大きく頷いた。
こうしてずっと無邪気な顔で笑っていれば、顔は可愛い奴なんだけどなぁ……。
☆
演劇の準備も順調、スズシロナズナの吉報も入ってきた。差し当たっては順風満帆に思える。そんな訳で何の憂いもなく宝塚記念の観戦に勤しめるのは、幸せな人生だと痛感する。まぁ『好事魔多し』とも言うから気を付けるに越した事は無いな。
今年の春レースの締めくくり『宝塚記念』が定刻通りにスタートする。
レースはいつも通りクリスタルセイバーが逃げて、各員がそれを追う展開になる。今レース、ブラックリリィやオオエドカルチャー、ケイヨウブロンコといった人気上位陣は脚質が『差し』のウマ娘が多い。前半はじっくり控えて後半の爆発に備えたのか、先頭クリスタルセイバーが突出し、大きく開いてトウザイブレイカーとスメラギレインボーの2人、更に2馬身程離れて後続が団子になっている。
最終コーナー直前から各員が一斉に速度を上げる。未だ先頭はクリスタルセイバー、しかしトウザイブレイカーとスメラギレインボーが競り合いながら前に出る。3人の激しい先頭争いだったが、後ろで脚を溜めていたブラックリリィが飛ぶ様な走りで一気に差し切って『グランプリウマ娘』の称号を奪い取った。
2着以下、イーグルダイブ、トウザイブレイカー、ケイヨウブロンコ、スメラギレインボーの順で掲示板に表示される。この2着のイーグルダイブって娘も重賞こそ獲れていないが、デビューしてからの6戦、3着以下になった事が無い。無名だが凄い娘だよね。
しかしシニア級も交えたレースなのに、クラッシック級の娘がワンツーパンチを決めるとは、本当に今年のクラッシック級は先が楽しみな逸材揃いだ。
☆
良いレースを見られて上機嫌な月曜日を迎えた俺だったが、放課後『比人研』部室で頭を抱える水澤と三崎を見つけてしまった。
「私の期末テストがちょっとヤバいんですよぉ… ナズナの件とか演劇とか色々あって、全然勉強に身が入らなくて…」
「2人で勉強していたんですが、
ふーん、大変だな。まぁ俺には関係ない話だから……。
「鷹山先輩、私達に勉強教えて下さいよ〜。たまには先輩らしいカッコいい所を見たいな〜」
おねだりしてきやがった……。