【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
とりあえず期末テストは滞り無く全教科を終了した。俺の手応えとしてはそうそう悪い点にはならないと思う。
水澤と三崎の勉強を見てやったのも復習になったし、そもそも三崎の苦手な部分だけ俺がカバーすれば、水澤の苦手な部分は三崎がほとんどカバー出来るのだから、俺が水澤に教えた事はほとんど無いんだよな。
何にせよ補習にでもなったら演劇の練習にも支障が出るし、強化合宿に参加しない水澤は余計に他のメンバーとの連携が難しくなる。
なにはともあれ、これでようやく合宿に突入出来るという物だ。とはいえ俺もしがない高校2年生。受験に向けて悠長に遊んでばかりもいられない。
一応8月からは大学入試に向けた夏期講習の予定が入っているので、部活動で使える時間は実質7月いっぱい。その間に演劇部の演目を完全体にしておきたい。
って… 水澤が参加しない以上、どうやっても完全体にはならないのがもどかしいところではあるんだが……。
まぁ、それ以前に俺には地獄の様な問題が発生し、ぶっちゃけ演劇部の心配なんてしていられる状況では無くなってしまったのだけれども……。
☆
「失礼します…」
事の次第は期末テストの最終日、比人研部室で資料の整理をしていた所に北野会長がやって来た事から始まった。水澤達は多分後からやって来る筈だ。
「おぉ、会長さん。どうしました? 演劇の件でまた何か? それなら
「いいえ、本日は純粋に鷹山くんに用事があって参りました」
いつもの様に涼やかな笑顔を見せてくれる北野会長。どこかはにかんでいる様子で、少し違った印象も与えてくる。
俺に用事? 個人的に? 明日からテスト休みのこのタイミングで? 何か言い出しづらい事を言おうとしているのは外からも分かる……。
これってもしかして、北野会長から俺に『告白』でもしてこようとしているのだろうか…? それはちょっと心の準備が出来ていないぞ? それにこんな所を水澤に見られたら… って、何で水澤が出てくるんだ? 俺と
「あの、申し上げにくいのですが…」
ホラ来た。何だ? 何を言おうとしている? もし本当に告白だったら少し考えさせて欲しいぞ。いやまぁ会長さんは美人で上品で理知的で、なかなかポイント高いと思う。美人でウマ娘ではあるが、粗暴な水澤と比較しても決して劣る事は……。
「『比較人類研究部』の部活動としての活動実績レポートが出ていません。一応受付は9月まで大丈夫ですが、夏休みは夏休みで忙しい生徒さんが多いので、今のうちに忘れていないかを確かめに回っているんです」
活動実績レポート、だと…? そんな話は聞いてないぞ? いや聞いたかも知れない… いややっぱり聞いてない。何にしても今からそんな事を言われても困る。何もやってない。
いや、全くやっていない訳では無い。これまでも水澤のデータを使って考証だの検証だのをやってきた。それらを雑にまとめて発表すればあるいは……。
「あ… あははは、やだなぁ、忘れる訳ないじゃないですか。夏休みの間にバッチリ学者も唸る様なレポートを上げて見せますよ!」
「それは良かったです。私も楽しみにしていますね」
冷や汗ダラッだらで北野会長に笑顔を返すのが精一杯だった……。
マジやべぇ… こうなりゃ演劇部合宿で無理やり形だけでも整えなければ……。
☆
「じゃあ皆、忘れ物は無い? 特に急遽参加の決まったお二人さんは大丈夫?」
「「は〜い」」
駅の改札口、タカチャン先輩の確認に続いて水澤と三崎が元気に返事する。これから比人研と演劇部との合同強化合宿の始まりである。
…まず幾つかの説明が必要だろう。
北野会長の宣告後、俺は部に顔を出した水澤と三崎に活動実績レポートとやらについての相談を持ちかけた。
彼女らも紛れもなく比人研のメンバーなのだから、その作成においていくばくかの責任があるはずだ。
少なくとも水澤は我々ヒトと比較する存在としての『ウマ娘』なのだから、最低でも何らかのデータ提供を追加してもらう必要がある。
「え〜? そんなの急に言われたって知りませんよ。試験休みもナノちゃんに勉強を見てもらう約束してるんですから。大体比人研にはミノちゃん先輩も入ったのだから、ミノちゃん先輩でデータ取れば良いじゃないですかぁ?」
「対象を変えたら
そこまで説明してやったのに水澤は「そんなこと言ったって〜」とかまだグズグズ言ってやがる。
いつもならここで三崎が水澤を援護する為にガヤガヤと俺に突っ込み攻撃をしてくる所なのだが、今日は大人しく口元に手を当てて何かを考え込んでいる様子だ。何か別の良いアイデアでもあるのかな…?
「ねぇイッチー、私の家に泊まって勉強する約束だったけど、『私も同行する』ってなったら演劇部の合宿にイッチーも行けないかな…?」
「え…?」
三崎の提案に水澤は理解が追いついていない様子で、凄く間の抜けた返事が返ってきた。
「あ、いや… イッチーは合宿に凄く行きたがってたけど、親御さんの反対でダメになったでしょ? でも私の家に泊まるのはOKしてもらえたなら、私がそこに居ればイッチーも合宿行けるんじゃないかなー? って思ったんだけど…」
おお、三崎もただ口煩いだけの奴かと思ってたら、ちゃんと友達思いの発想が出来る子なんじゃないか。ちょっと見直したぞ。
「鷹山先輩、何か失礼なこと考えてません?」
急に視線をこちらに向けて鋭い事を言うな、ビックリするだろ。
「ナノちゃん…」
水澤はようやく三崎の作戦を理解したらしい。水澤自身が合宿に行きたがっていたのは間違いないのだ。少なくとも「三崎の方法なら或いは」と希望が持てると思う。
「正直私も他人に教えるほど勉強に自信ないから、私も演劇部の先輩達から勉強教えてもらえたらな、とも思うし、演劇部にも1人ヒトの女の子が居るんですよね? 周りがウマ娘と男性ばかりだとリラックス出来ないんじゃないかなぁ? って…」
「私だけじゃなくてユカリちゃんの事まで心配してくれるなんて… やっぱりナノちゃんは良い子だなぁ!」
そこからわずか1日たらずで水澤の家族に話を通し、2名様追加の連絡をして水澤の合宿参加を実現させた女傑の行動力は俺でさえ目を見張るほどであった。