【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
演劇部合宿前日の夕方、部室には2つの人影… もといウマ影が、差し込んだ西日に晒されて壁に映っていた。
「なぁなぁミノ子さんや…」
「何ですかタカチャン先輩〜?」
「鷹山くんと水澤ちゃんてさ… 付き合ってるの…?」
「さぁ〜…? ウマは合ってる感じですけど、男女交際と言われると怪しいですね〜」
「ふむ… あたしの見立てだとあの2人、お互いに憎からず思っている様に感じるのよねぇ…」
「う〜ん、どうなんでしょう〜? わたしはあの2人のボケツッコミ芸とか割と好きですけど〜…」
「まだお互いに自分の気持ちに気がついていないアオハルな印象なのよね。だからせっかく水澤ちゃんも来れる様になった今回の合宿で、いい感じになれば心が動くと思うの!」
「でも鷹山くんって割と常識派… というかコンプライアンスを気にする
「もう何ていうかさぁ、あの2人横で見てて落ち着かないから『付き合っちゃえよ!』とかって思わない?」
「…まぁ分からなくも無いですが〜、外野が口を出してあの2人が動くとも考えにくいかなぁ〜…?」
「フッフッフ…」
「あ、何か悪い事を考えている顔だ…」
「そこで取り出しましたるは、こちらの
「なんだか見覚えのある薬ですね〜」
「ちょうど時期なんで『これ』を使って一芝居打とうと思ってね… あたしも今度の舞台で引退だからさ、最後に先輩としてちょっと『善行』を積んでおきたいのよ。ミノ子お願い、協力して!」
「ん〜、手を合わせて懇願する前に、明確な説明を要求します〜」
「フフン、聞いたらもう後には戻れないぜ。良いんだな…?」
「それ、初めからわたしに選択権無いですよね…?」
☆
合宿所、という形でお借りしているタカチャン先輩のご実家にて歓迎会が行われていた。夏場は浜茶屋的な商売もされているそうで、客の扱いには慣れている、そんな感じだった。
演劇部の合宿という
実際の舞台進行の上で「気になる所があれば言ってくれ」と言われている程度だ。
という訳で、俺と三崎は比人研のレポート作成が今回の主なミッションとなる予定だ。演劇部の練習を通じて、水澤ら3人のウマ娘から有用な情報を吸い出せれば完成度の高いレポートが作れるだろうと期待している。
「どうぞごゆっくりしてらして下さいな。由美の後輩なら我々も頑張っておもてなししないとね!」
ご主人 (タカチャン先輩のお父さん)の高井さんが嬉しそうに俺達を迎えてくれた。タカチャン先輩の和名が『高井 由美』というのは既出だが、久々過ぎて俺もすっかり忘れていた。タカチャン先輩はもう『タカチャン先輩』なんだよね。
水澤は自分の中で『アビスビースト』という名前にまだ戸惑いや拒絶感があるのだろうか? この辺の話も一度じっくり話し合うべきなのだと思うが、タイミングを上手く見図らないと、また下手な事を言って暴力を振るわれるパターンになる。それは避けたい所だな。
まだ本格的なシーズン前で、どうやら俺達以外の客は居なさそうだ。
通された広い客間は女子専用で、俺と星埜の男子組は四畳半ほどの小部屋を割り当てられた。男2人と荷物を考えると少し手狭に思える。
「まぁ漫画みたいによくある『離れの物置き』とかじゃなくて、普通に部屋があるだけマシだよ…」
そう言って星埜が力なく微笑む。確かに人数比を考えても男2人が割りを食うのは致し方ないとは思う。そもそも部屋割りに文句を言える立場でも無い。
まぁ男2人で横になる程度には十分すぎるスペースがあるだけで
現在時刻は午後の1時、今後のスケジュールを打ち合わせるので、荷物を置いたら一旦ロビーに集合せよ、という指令を受けている。
ロビーは打ち合わせというよりも簡易のパーティー会場の様に飾られている。水澤、三崎、橘の1年生トリオが既に集まっていて食器や料理の運搬作業を行っているところだった。どういう状況?
「あーほら、鷹山先輩もボーッとしてないで手伝って下さいよ。星埜先輩も」
水澤に言われて、俺達は事情が分からないままにパーティーの準備をさせられる。三崎によると、タカチャン先輩とミノタウロスはまだ部屋でゴソゴソしているらしい。あの2人は後輩だけ働かせて何しとんねん?
「お待たせ、ミノ子はもうちょっとかかるみたいだから、先に始めちゃいましょう〜」
そうこうしてきるうちに、タカチャン先輩がのんびりとやって来た。ここが実家のせいか、姿勢から声調から緊張感がまるで無い。
タカチャン先輩に数分遅れてミノタウロスも合流し、皆でパーティーの準備を行った。後にして思えば、この瞬間に2人を問い詰めていたら事件は防げたのかも知れないな……。
☆
「まずは我々演劇部と比較人類研究部の合流による、双方の部員確保及び部の存続を祝して、ここに壮行会を開きまーす! ではカンパーイ!」
タカチャン先輩の音頭で皆がグラスを合わせて乾杯する。確かに部員集めという面倒なミッションが存外簡単に片付いたのは、演劇部と合流出来たからに他ならない。
今のところ水澤が主演女優になったり、俺がアドバイザーとして脚本と演出を補強したりで、比人研がまるごと演劇部に飲み込まれた様な印象を受けるが、
生徒会から言われた活動レポートも、サンプル数が増えた分だけ多様性かつ確実性を増した物に出来るだろう。間違いなくWin-Winの関係と言える。
「どうしたんですか鷹山先輩? ニヤニヤしちゃって。私やナノちゃんが可愛いから浮かれてるんですか?」
水澤が俺の幸せな回想シーンを下卑た冷やかしでぶち壊しに来やがる。『可愛い』って言ったって、俺等全員学校のジャージだし、色気も何も……。
そこでハッとした。眼の前の水澤が今までと違って見えたのだ。
人相や仕草が以前と変わった訳では無い。強いて言うならその雰囲気がこれまでと少し違っている。
俺も上手く言える自信が無いのだが、何と言うか『優しい』とか『温かい』と感じられる
いや、変なのは俺の方なのかも知れないが、とにかく水澤が『変』だ。これはどういう事だ…?
「……? ホントにどうしちゃったんですか先輩? 熱でもあるんですか…?」
怪訝に思った水澤が不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。顔も表情もいつもの水澤だ。だが『何か』が違っている。それを理解して表現できないのが、自分でもとてももどかしくて口惜しかった……。