【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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濡れ衣と女教師

「うっぎゃああああっ!!」

 

 ウマ娘の握力で握られた俺の右手は、その瞬間『ミシッ』という音を立てて粉砕された… 様に思えた。

 

「もぉ、大袈裟ですねぇ。先輩が『握力知りたい』って言ってたから、ちょっと力込めただけなのにぃ…」

 

「ちょっとで『ミシッ』って言うわけ無いだろ『ミシッ』って! 謝って! ウマ娘がひ弱な人間男性に暴力振るったこと謝って!!」

 

 水澤は頬を膨らませてそっぽを向いたまま不満げな顔をしている。本気で『自分は悪くない』と思い込んでいる様だ。

 

「一体何事ですかっ!? 今叫び声が聞こえましたけど?!」

 

 ノックも無しに教室の引き戸が荒々しく開かれて、慌てた感じの白衣を来た妙齢の女性が飛び込んで来た。

 

 この人は(いずみ) 響子(きょうこ)先生。「江戸城高校」の保健教諭で、美人で優しい上にオッパイが大きい、俺達男子生徒の憧れの的なのである。

 テロリズム危険思想でデリカシーの無い水澤の100倍くらい好感度の高いキャラクターだ。

 

 響子先生は状況を理解しようと、右手を痛そうに押さえる俺と、突然の闖入者に驚いて体を硬直させる水澤を交互に見比べている。

 

 普通に考えれば、男女2人だけの教室から響く悲鳴は女子のものであり、性暴行の現場を押さえたぞ! という事になるだろうが、今回は一般人男性と男より力の強いウマ娘の組み合わせ、しかも悲鳴は俺の喉から発生しているのだ。

 

「あ… この先輩が私にイヤらしい事をしようとしたからちょっと『懲らしめて』上げただけなんです…」

 

 おいコラ水澤! しれっと嘘付くな! 何で咄嗟に誤魔化そうとするシナリオから、お前が被害者しぐさしてんの?! おかしいだろ色々と!!

 

「まぁ、なんて事… ちょっとそこのキミ、すぐ職員室に来なさい!」

 

「違ぇから! まず話し合うのが筋だろ!!」

 

 さすがにキレた。ここはキレて良い場面だと思う。

 

「まず水澤! お前、部員だろ! 入って早々嘘ついて部長の俺を陥れようとするんじゃねぇよ! 何の恨みがあるんだよ?! あと響子先生! 俺今まさに右手を握り潰された被害者! 今も右手チョー痛いの! 骨折しているかも知れないの! ドゥー・ユー・アンダースタン?!」

 

 一気に捲し立てた。痴漢冤罪は黙っていたら即座に負ける。無実の罪ならば常に大声で「無実」を叫び続けなければならないのだ。

 

 俺の渾身のツッコミに、響子先生はハッとして正気を取り戻してくれたようだ。「ちょっと手を見せて…」と保健教諭のプライドを思い出したかの様に俺の手を取って調べだした。

 水澤は知らん顔して目を逸らし、口笛吹く真似をしてやがる。決めた、コイツいつか泣かす。

 

「…骨折はしていないみたいね。多分軽い捻挫。後で湿布薬を出してあげるから、しばらく無理に動かさないで。あと痛みが続くならちゃんと病院行くのよ?」

 

 俺の手を調べながら響子先生が診断してくれる。大人の女性の柔らかい手にアレコレされてしまって、俺の右手も大満足… いやいやそうじゃない。

 

「それは分かりましたけど、俺と水澤(この子)はさっき知り合ったばかりで、疚しい関係じゃ無いですからね? 第一、勝てないのにウマ娘を襲う男なんか居るわけ無いでしょう?」

 

 俺の必死の説得に、響子先生も落ち着きを取り戻してくれたらしく、今度は水澤の方へ視線を向ける。

 

「まぁ、そうよね… ウマ娘を襲うとか、自動車に体当たりするのと同じですものねぇ… えっと貴女は確か1年のアb…」

 

「わぁーっ!! 水澤です! 水澤イチです! ウマネームはNGでお願いします!」

 

 今『アなんとか』って聞こえたな。それが水澤のウマ娘としてのソウルネームか。今度暇な時に調べて反撃する時のネタにしてやろう。

 

「あぁ、了解したわ。ウマ娘で自分のウマネームを嫌う娘って結構多いのよねぇ。確か3年生にも1人居たわね…」

 

「ホントですかっ? そんな人がいるなら是非同志に迎えたいですね!」

 

 水澤が食い付いた。『同志に迎えたい』とかテロリスト予備軍を増やす真似は控えて欲しいぞ?

 

 江戸城高校(うち)は全校で20人程のウマ娘生徒がいる。俺も1年生の間に校内のウマ娘の名前や特徴を記した名簿を作成しようとしたのだが、やはり女子生徒のデータを探るには難易度が高かった。

 同学年のウマ娘はクラスと名前くらいをまとめたノートは作れたのだが、学年が違うとなるとまるで手が回らずにいた経緯がある。

 

 3年生の先輩が水澤の悪意に染められる前に、俺が身を挺して助ける必要があるのでは無かろうか?

 

「確かC組の高井(たかい)さんだったと思ったけど、違ったらごめんなさい…」

 

 伝えんで良い情報をわざわざ水澤に教えて響子先生は、「湿布薬を用意しておくから後で保健室に来なさいね。ケンカしちゃ駄目よ?」と部室を出て行った。

 

 再び2人きりになった部室。文句のひとつでも言ってやろうと口を開けた瞬間に水澤が先制攻撃してきやがった。

 

「聞きましたか先輩?! 3年生に新たな戦士の予感だそうですよ!」

 

 その『戦士』ってのやめろ。テロリストのお前が言うと洒落になってねぇ。

 

「いや聞いたけどさ、3年生はこれから進学だ何だって大変な時期になるから、お前の遊びに巻き込むのは止めた方が良いと思うよ…? しかも3年生は入部じゃなくて、そろそろ部活を引退する時期だからね?」

 

「別に話を聞きに行くくらいなら良いじゃないですか。先輩だってウマ娘とお話ししたいでしょ? 男子1人じゃ不審者になっちゃいますよ…?」

 

 ニヤニヤと勝ち誇った顔でこちらを睥睨する水澤。殴りたい、この笑顔。

 まぁ確かに比較人類研究部としてはサンプルが多いに越したことは無いので、出来るだけ多くのウマ娘と対話をしたいと思っている。これは偽りのない気持ちだ。

 

 それに男1人で女子に会いに行く事を考えたら、例え莫迦(バカ)でも水澤(ウマ娘)が居てくれると大変に助かるのは事実だ。俺は意を決して腰を上げた。

 

「まぁ… 確かに3年生に話を聞くには早ければ早い方が良いのはあるな。響子先生はC組って言ってたな… んじゃあちょっくら行ってくるか…」

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