【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
〜水澤視点
衣装を着ての練習も終わって、着替えるのも億劫なので皆で食堂に出てきたら、鷹山先輩とナノちゃんが仲良くお勉強をしていた。
私も一応この合宿は勉強の為だという建前で参加しているので、後でキチンと勉強しとかないといけないなぁ。演劇部とわちゃわちゃしているだけでは親に怒られそうだ。
「「おぉ〜…」」
鷹山先輩とナノちゃんが声を揃える。何事かな?
「なんか3人とも以前見た時よりも『着こなし感』が上がってるな。前よりかなり自然にトレセン学園の生徒に見えるよ」
お、そうなのかな? 鷹山先輩の横でナノちゃんも目を輝かせてフンスと頷いているので、間違いは無いのだろう。
でもまだこのトレセン学園の制服を身に纏うのは少し恥ずかしさ… というか申し訳無さがある。
中央の試験に落ちて地方レースに進んだミヨとヨシが、着る事が叶わなかった服に私が袖を通しているという不思議。
私が自分の名前に嫌悪感を持っていなかったら、この制服を着てトゥインクルシリーズを走っていた未来があったかも知れない、という錯覚を抱かせてくれる服。
そして断ち切ったはずの未練をまだ捨てきれていない事を再認識させられた服……。
私みたいな中途半端なウマ娘が着て良い服じゃないのは十分に理解しているけど、憧れの制服を着て、その上で『違和感が無い』と思ってもらえるのは普通に嬉しかった。
私は舞台上で架空のウマ娘『サウザンドウイング』として走る。もちろん狭い舞台では走る真似だけだが、ウイングはその舞台の上で、走る楽しさと勝利の喜びを高々と歌い上げるのだ。その辺の台詞は鷹山先輩が考えたそうだ。
走りを辞めた私はどう転んでもウイングにはなれない。でもウイングの心情は痛いほど理解できる。他人とは思えない近さを含め、私はこの『サウザンドウイング』というウマ娘が大好きになっていた。
☆
とりあえずまだ体が火照っている様なので水を1杯飲み干す。まだ稽古の興奮が体に残っているのだろう。
発情期特有の『
「さて、後は最終日お楽しみのバーベキューなんですが、ちょっと悲しいお知らせがありまーす…」
唐突にタカチャン先輩が何かの告知を始める。『悲しいお知らせ』とは何だろうか…?
「実はうちの親が昨晩張り切りすぎて、バーベキュー用の食材が足りなくなってしまっていたのですよ、シクシク…」
ううん…? 何かまた寸劇が始まったのか? セリフ回しが妙にわざとらしいんですけど…?
「という訳で買い出し班と準備班で分かれてバーベキューの用意をしたいと思いまーす。という訳で買い出しは水澤ちゃん頼んだ!」
「えっ?! あ、はい…」
これまた唐突にタカチャン先輩が私を指名する。まぁ私は1年生なのだから、部活動に於いて雑用に回されるのは致し方ない事だ。買い出しなら力仕事になるだろうし、ヒョロガリな男の先輩2人よりも私1人の方が輸送力がある。
ただそれ以前に頭がまだ少しボーッとしている様な気がする。寝不足なのかな? 稽古が終わって気が抜けちゃったのかな? 半分寝惚けているみたいな感覚で、少しフワフワしているみたいだ……。
これで買い物行けるのかな…?
「んで水澤ちゃん1人だと危ないし心配だからもう1人、鷹山くん頼んだ!」
これまた唐突に指示されて鷹山先輩が「はぁ?」と驚いた顔をする。
確かに私も買い出しでの荷物持ち要員ならば、私とミノタウロス先輩とかウマ娘同士で行った方が良いんじゃね? とは思う。
そう思ってミノちゃん先輩の方を見ると、彼女はゆっくりと首を振ってきた。
「わたしはこの辺の事を知らないから〜、絶対に迷子になると思うんだぁ〜」
あ〜、それを言われると確かに、私もこの辺の地理は全然分からないな……。
「私も迷子になりそうなので怖いな… 私が荷物持ちますから、鷹山先輩はナビして下さいよ。ナビって男の人の方が得意っぽいし…」
何を隠そう私は方向音痴だ。初めての場所に向かう際に一発で着けた試しがない。今回もきっとそうなる。
怖いからって鷹山先輩を頼るのも何だか自分らしくない気もするんだけど、星埜先輩はコミュニケーション能力があまり高くないし、絡み慣れている鷹山先輩の方が安心できる気がした。
いつもの私ならあまり言わないお願いだったけど、今回は不思議とものすごくナチュラルに上の言葉が出てきた。今日の私、ちょっと変だね……。
それに鷹山先輩どうせする事なくて暇でしょ? 働かざる者食うべからずですよ。
☆
「店までは往復5kmって所か… しかも自動車や自転車も無い。歩くとなると結構ダルいな…」
頼まれた肉と野菜は、7人の高校生 (しかも内3名はウマ娘だ)の胃袋を満たすべくそれなりの量となっている。なのでその食材を入れるべく鷹山先輩は登山用の大きなリュックサックを背負っていた。
なぜ私ではなくて先輩が背負っているかと言うと、「帰りは私が持つので行きは先輩が背負って下さい」と押し付けたからだ。
だってキャンプでもないのに女の子が、キャンプ用の大っきなリュックを背負って歩くのってあまり『可愛くない』じゃないですか。
「外もかなり暑いから、あまりタラタラ歩いていたら熱中症の危険性がある。それにノンビリしている時間も無い。5キロ歩いて買い物して、で2時間で帰ってくれるかどうか… あまり遅くなるとバーベキュー自体が出来なくなる… 急ぐぞ」
なんだか悲壮な覚悟を抱いて歩き出した鷹山先輩。気が乗らなくても託された使命には懸命に向き合う、基本すごく真面目な人なんだよね……。
そっかぁ、たった5キロでもヒトの足だとそれだけ歩くのって重労働なんだなぁ……。
おっ、ピーンと来たぞ。
「あ、じゃあ私が先輩をおんぶして走って上げます。ナビさえしてくれれば、往路は10分から15分くらいで行けると思いますよ」
私の言葉に鷹山先輩は、信じられない物を見るような顔でこちらを見返してきた。
私とて鷹山先輩はとはそれなりの付き合いだ。先輩の考えくらい手に取る様に分かる。『どうした急に?
でも時間も無いし、荷物持って往復する体力は鷹山先輩には無いだろうし、いい感じに道路も空いているしで、たまには『ウマ娘の見ている景色』ってのを鷹山先輩にも見せてあげたいな、って思っただけですよ。
「え…? い、良いのか…?」
「はいどうぞ!」
予想外の展開に珍しくしどろもどろになる鷹山先輩。『少し可愛いな』とか思ったりする。
彼に背を向けてしゃがみ込む。ほれ、ちゃっちゃと進めないと時間が無いですよ?
「そ、それじゃぁ失礼して…」
私の後ろから鷹山先輩の両手が肩にかかる。その際に触れられた私の肩から電流の様な変な感覚が走った。
それは痛みとか気持ち悪さではない。むしろ心地よい感触で、私の神経自体が物凄く敏感になっていたのだろう。
「あっ…」
と、思わず変な声が出てしまった……。