【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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おんぶと疾走

〜水澤視点

 

「な、なんだよ? 急に変な声出すなよ…」

 

 私の声に反応して鷹山先輩が慌てふためいている。無理もない、声を出した私自身『何でそんな事になったのか?』が分かっていないのだ。

 

「ちょ、ちょっとくすぐったかっただけですよ! 先輩が変な所を触るから…」

 

 これもウソではない。普段よりも肌感覚が敏感になっていて、くすぐられた様な感触ではあったのだ。尤も先輩に触られたのは肩なので『変な所』というのは完全に言いがかりだ。自分でも分かっている。

 

「そ、そんな… 肩でダメならどこを触れば良いんだよ…?」

 

 鷹山先輩は完全に混乱してしまっている。予想外の状況に被せて無茶な言いがかりをつけられては、まぁ無理もないとは思う。

 

 ここで感じたのは『私は今、発情しているの?』という疑問だ。抑制剤(ピル)は朝にタカチャン先輩らと飲んでいるはずなのに、その薬の効き目が切れたのか、或いは効かなかったのか、今の私は恥ずかしい程に男の人を欲している。

 

 頭は熱に浮かされた様に、ボーッとしてうまく考えられない。体は妙に心臓がドキドキして、全身の神経が敏感になっているのが分かる。今の私は多分体のどこを触られても変な声を出してしまいそうだ。

 

 今まで生きてきてこんな事態になった事は無い。しかも『絶対にありえない』と思っていた、()()鷹山先輩にときめいてしまっているのだ。自分で自分が『訳が分からない』。

 

 …困ったなぁ、どうすれば良いんだろう? 自分から言い出した手前「やっぱり降りて下さい」とも言いづらいし、先輩を歩かせている時間も無い。

 かと言って先輩を背負って、密着した状態で走った際の振動する体で刺激されて、正気のまま何キロも走れる自信もない。

 

 ええぃ、考えている時間も惜しい。何より私が発情してしまっている事を鷹山先輩には絶対に悟られたくない……。

 

 私は意を決して先輩の脚に両腕を回し、彼の膝を後ろから私の両肘でロックする。加えて私の肩に置かれていた彼の手を力で強引に外し下に垂らさせて、その手首を私の両手でガッチリと掴んだ。

 

 これは災害や急病の時に使われる、救助活動用のプロの移送のやり方だ… ウマ娘は緊急時の輸送力としても期待されているので、誰でもこういった搬送のやり方を習得しているのだ。

 

 この結果、私の背中と先輩の胸が密着する事になるが、私の腕力で固定されたぶん変な擦れ方をせずに済む。

 

「おい、そんなガッツリ持たなくても良いんじゃないか…?」

 

 鷹山先輩も何か言いたい事があるとは思うが、今は非常事態なのだ。そして繰り返すが、『非常事態(それ)』を先輩に悟らせる訳にはいかない。

 

「普通のおんぶじゃ振り落とされたりして危ないから、私達ウマ娘はこういう持ち方を習うんですよ。じゃあかっ飛ばしますからね!」

 

 先輩の質問を遮って私は道路の脇、ウマ娘専用レーンを全力で走った。そりゃもう一刻も早く到着して体を離したかったからだ。

 そうでないと頭がおかしくなって、先輩に抱きついて口に出すのも(はばか)られる様なイヤらしい事をしてしまいそうになる。

 

 本当に私はどうしてしまったんだろう…?

 

 ☆

 

「いやぁ、まさかこんなタイミングでウマ娘の見ているスピードの世界を垣間見るとは思わなかったな… 昔、事故った時にウマ娘のお姉さんに抱えられて病院に連れて行ってもらった事があるんだが、その時の事を思い出したよ」

 

 スーパーに到着して、私の背中から降りて自由になった鷹山先輩は、『ウマ娘の見ているスピードの世界』とやらを実体験して感激もひとしおらしい。

 

 一方で約2kmを『駈歩(キャンター)以上全力走(ギャロップ)未満』で走りきった私は、肩で息する程に全精力を出し切っていた。

 余計な体力を残してしまうと、性欲に転化されてしまう恐れがあったので、問題を起こさない様に力を使い切る必要があったのだ。必死だった。

 

 現役を離れて久しい、そしてその間のトレーニングをほとんどしていない私の脚でも、鷹山先輩は子供の様に喜んでくれた。

 やっぱり自分の走りで誰かが喜んでくれると嬉しいものだよね。この感覚は、舞台の上でウイングの気持ちを表現する上でとても有益だと思う。

 

 そして今、かつて無いほどに疲労困憊してゼェゼェと息を切らせているのに、「やっぱり走るのって楽しいな」と思ってしまっている自分が、自分でもとても不思議に感じていた。

 

 ☆

 

「おい水澤、大丈夫か? かなり無理させちゃったんじゃ無いのか…?」

 

 ゼェゼェからハァハァ程度に呼吸が回復してきた辺りで、鷹山先輩がようやく私への気遣いを見せた。遅いっつーの。

 

「私だって、たまにはウマ娘らしい所を見せないとね…」

 

 まだ少し息が苦しい。それでも普通に話せるくらいには回復した。

 

「お、おぅ… でも何か今日のお前おかしいぞ…? 何か変なモノでも… って昨日から俺ら同じ物を食ってるしなぁ…」

 

 鷹山先輩は本気で悩み始めた。昨日までは至って普通だった私が今日になって体調が変わったのは、紛れもない事実でありその理由にも心当たりは無い。

 

 …敢えて言うなら『薬が効いていない』事だが、朝に薬はしっかり飲んだはずだし、用量も間違えていない。

 考えられるとしたら、薬が別の物に差し替えられたとか…? でも色も形もいつもの薬だったし… 本当に訳が分からない。

 

 鷹山先輩は長考に入ると周りが目に入らないタイプの人だから、私の変化や心境も彼には認識できていないと思う。逆に助かるけどね。

 先輩は何やら固まったままブツブツと独り言を始めて「これはレポートに使えるな…」等と言っている。

 

「そうそう、そのレポートの為に協力してあげたんですよ。さ、みんな待ってるからさっさと買い物を済ませますよ!」

 

 私は彼の手を取って、売り場へと引っ張って行った。

 

 まさか抑制剤を無効化するほどに、私が鷹山先輩の事を好きになっちゃったとか…? なんてありえないよね……。

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