【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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疑惑と推理

 水澤が変だ……。

 

 いやまぁあいつはいつもどこかしら変だし、いつぞやも今と同様に『変だな』と感じた事はあるのだが、今日は本当に特におかしい。

 

 急に「おんぶしてやる」とか言い出して車道をかっ飛ばして見せてくれたり、肩を触ったくらいで「あん」なんて、今まで聞いたこともない様な艶めかしい声を出したりしていたのだ。

 

 何かのネタでやっている風にも見えないし、もちろんふざけている訳でも無さそうだ。

 まぁ俺としては、7年ぶりにウマ娘に担がれてハイスピードを体感出来た事は、喜び以外の何物でもないのだが、いかんせん水澤の考えが全く読めないので逆に怖くもある。後で金とか請求されたらどうしよう…?

 

 それに水澤に担がれている間、俺の両腕がロックされていたのだが、何と言うか、肘あたりに水澤の胸が当たってたんだよなぁ… 小学生の時には事故直後だったし気にもしてなかったけど、 

 

 終いには店に到着後、「さっさと買い物を済ませましょう」と、水澤の方から俺の手を握って店内へと進んでいったりしている。普段の水澤ならいくら急いでいてもそこまでのスキンシップはしてこないはずだ。

 

 明らかに何かがおかしい……。

 

 とりあえずは肉だの野菜だの米だのを買い込んで、俺の背負っていた空っぽのバックパックに詰めていく。

 外から見る限り水澤の機嫌は良い様に見える。顔はほんのり上気して、妙な色っぽさすら感じさせる。熱っぽい訳では無さそうだが、いつもとは明らかに雰囲気が違う。

 

「な、なぁ水澤… 」

 

「何ですか?」

 

 恐る恐る声をかけた俺に振り向いた水澤はメッチャ笑顔だった。笑顔の理由が分からない分、俺としては逆に怖い。

 

「お前やっぱり今日ちょっとおかしいぞ? 何かあったのか…?」

 

 水澤の機嫌が良いなら良いままに、このままスルーしておいた方が俺の安全面も含めて都合が良いのだが、やはり気になる事は解明せずには居られない、悲しい研究者の(サガ)が俺を衝き動かしていた。

 

 水澤は俺の言葉にハッとした表情を見せる。自分の変調に気がついて無かったのか、買い物途中で忘れてしまったのか?

 

「あ… 先輩の目から見ても、私やっぱりおかしいですか…? アハハ…」

 

 目を逸らして力無く笑う水澤。『自分が今変だ』という自覚はあったらしい。このまま普通に高井家への帰途について、フラフラしている水澤に交通事故でも起こされたら俺の寝覚めが悪くなる。

 

「何か体調でも悪いのか? 俺で何か出来るか? まぁ荷物を半分持ってやるくらいしか出来んと思うが…」

 

 水澤は呆けた様な顔で俺を見つめる。悪かったな、そんなに意外かよ? 俺だって人並みの心は持ってんだぞ。

 

「鷹山先輩、やさしぃ〜。スキ…」

 

 オイ、水澤のやつ今何か口走らなかったか…?

 

「何だって…?」

 

 空耳の可能性もある。加えて今の水澤は少しおかしい。自分の耳が捉えた声を半信半疑で俺は水澤に質問をした。

 

 途端に水澤は顔を真っ赤に染めて手で口を塞いだ。まるで自分の意に反して言葉が出てきた様なリアクションだ。もうこれどうすりゃ良いんだよ…?

 

「あ… あの、その、何でもないです気にしないで下さい。ちょっと薬が効いてなくて…」

 

 口を押さえたままなので口調は不明瞭だが、確実に意思は伝わった。薬がどうとか言ってたな……。

 

「薬って朝飲んでたアレか? 何か聞いたらセクハラ呼ばわりされたんだが…」

 

 あれはあれで不本意な扱いだよな。改めて水澤らウマ娘3人には謝罪を要求したい。

 

 水澤は相変わらず口を押さえたまま赤面している。変わった事と言えば、その視線が俺を非難する様な上目遣いになった事だ。

 そしてそのまま数秒、互いに言葉を交わさぬまま、やがて水澤は手を外し溜息をついた。

 

「はぁ〜、ヒトで男性の先輩にこういう事を言うのも変なんですが、朝飲んでた薬は『発情期を抑える』為の(ピル)だったんです」

 

 ほぉほぉなるほど。噂には聞いていたが()()がそうなのか。また1つ利口になったぞ。

 

「でも何故か私だけ薬が効いてないみたいで、そのせいかずっと夢を見ている様な、変にフワフワした気持ちになって、その… なんて言うか… 『男の人と居ると楽しいな』とか思っちゃってるんです。鷹山先輩なのに…」

 

 最後の一言は余計だぞ?

 

 だがしかし、事態は思っていたよりも深刻なのかも知れない。水澤達が薬を飲んでいたのは俺もこの目で目撃しているから、『何らかの理由で薬が効いていない』のか、或いは『別な薬を誤って飲んでしまった』可能性もある。

 

「なぁ、『別な薬を誤って飲んでしまった』という事は無いのか? 薬を複数持ち歩いていて、間違えてしまったとか…?」

 

 俺も一介の学徒なので薬学に長じている訳では無い。ただ、「いつもと違う何か」が起きたのは間違いないのだ。その辺を考察して推理する事は出来る。

 

「それは無いですねぇ。他の薬を持ち歩く事も無いので、薬を間違う事自体があり得ないです」

 

 だそうだ。となると『薬の効果が出なかった』のか、或いは『そもそも効果の無い偽薬を飲まされたのか』も知れない。

 

 そう言えば昨日の昼、合宿初めのパーティーの際にミノタウロスは不自然に遅れて会場に姿を現した。

 タカチャン先輩、ミノタウロス、水澤の3人は基本的にずっと一緒に居たから、もし(ミノタウロス)が水澤の荷物に細工をするとしたら、この時間を置いて他にあるまい。

 

「薬が効かない… というか、偽物の可能性は無いか?」

 

「はぁ? 変な事言いますね先輩も。いつも通ってる病院で貰ってきた同じ薬なので、偽物渡したら大問題になっちゃいますよ」

 

 だよなぁ。それに仮にミノタウロスが薬を別の物に差し替えたとして、何が目的なのかがさっぱり分からない。ただのイタズラなのか、何か別の意図があるのか…?

 

「薬の件については俺も気になる事がある。戻ったら少し調べてみよう。まずはこの大量の荷物を持って帰らないとな…」

 

「そうですね。では出発しましょう〜!」

 

 まだ何となくご機嫌な水澤と共に、俺は高井家を目指して来た道を遡って行った。

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