【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
高井家に戻ると、予報通り騒然としていた。
「あ、鷹山くん。水澤ちゃんがトイレに篭って出てこないの。このままトイレを占拠されたままじゃ別の大惨事が起きそうだし、ちょっと困ってるのよ… 買い物中に何かあったの?」
「イッちゃん、ずいぶん思い詰めた顔してトイレに入っていったから、鷹山先輩を置いてくるほどお腹が痛かっのかと思ったけど、少し違うみたいだし…」
タカチャン先輩と三崎が俺を迎えてくれたが、確かにのっぴきならない事件に発展しているみたいだな……。
水澤と『何か』あったのは事実だが、公序良俗に反する事はしていないし、何なら水澤を怒らせる様な言動をした覚えも無い。だって俺が「レースに復帰しないのか?」と聞くまでは、あいつは気味が悪いくらいにニコニコして機嫌が良かったじゃないか。
確かに水澤がレースを辞めたのは断腸の思いではあったろう。彼女が『アビスビースト』という名前で無ければ、きっとレースから離れる事もなく未だに走っていたかも知れない。
それこそブラックリリィやスズシロナズナ、スメラギレインボーといった輝かしい面子と共にトゥインクルシリーズを盛り上げていた可能性だってある。
そう、今の様に普通科の高校で、目一杯走りを楽しむ事も出来ずに社会に埋もれていく生活が、
ウマ娘の人生は「走ってこそナンボ」なのでは無いのか? それはレースのみに限らない。街中でも郵便配達や宅配業務に就いているウマ娘は普通に見かける。
もちろんトレセン学園に入学できるレベルのエリートでも、怪我や病気に冒されて「走り」そのものが出来なくなったパターンは枚挙に暇がない。
でも俺は水澤に『走ってほしい』と思った。普段から『美少女』である水澤だが、先程の「走るのって楽しい」と言っていた顔は、全体から幸福感が滲み出ていて、輝いていた。眩しかった。
水澤には水澤の事情があって、考え抜いた結果
俺の言葉はあいつの選んだ人生に、その傷口に無神経に塩を塗り込む様な行為だったのかも知れない……。
「
俺も無言で俯いてしまったのを見てタカチャン先輩が心配そうに声をかけてくる。
だが待てよ…? 水澤の様子が変だったのは、先輩ウマ娘2人が絶対に余計な事をしたせいだ。さも心配そうな顔をしているが、彼女らは『役者』だ。その顔が本気かどうかは分からない。
「いや、『何があった』って言うか、それ以前にアンタら水澤に一服盛っただろ? そのせいで
俺の糾弾に一瞬呆けるタカチャン先輩。そして数秒置いて『あ、ヤベ…』という表情になり目を逸らしてきた。よし、これは『クロ』だな。
「俺が予想するに、水澤が朝飲んだ薬は
どこぞの名探偵ばりにどど〜んと推理シーンを入れた俺だったが、タカチャン先輩とミノタウロスの反応は薄い。2人してチベットスナギツネみたいなスンとした顔で俺を見つめてきた。あれ? 俺ひょっとして間違えた…?
「…だぁって、鷹山くんと水澤ちゃんって見てて凄いモヤモヤするんだもん。お互い憎からず思ってるくせに、なかなか最初の一歩を踏み出せない。そんな初々しい2人の背中を少しでも押して上げられたら、と思ってさぁ…」
一瞬空振りの気まずい空気が流れたが、その直後にタカチャン先輩は口を尖らせて反論してきた。とりあえずハズレ推理で恥をかかずに済んだぜ。
なるほど『そういう事』か… 発情期の水澤を敢えて抑えさせずに俺と2人きりにさせて、済し崩しにカップル成立を狙っていた訳なんだな。
全く… そんな浅知恵かつ杜撰な計画が上手くいく訳が無いだろう。第一俺は水澤の事なんか何とも思って… いや果たしてそうだろうか…? 少し心を落ち着けて内省してみる。
「ウマ娘にブスは居ない」よく言われる言葉だが、実際当たっていると思う。水澤は文句無く美少女だと思うし、他にもタカチャン先輩、ミノタウロス、ハンブルグヒーロー… 水澤の友人のマッハドリルさんやゴージャスパークさんも一様に整った顔つきをしていて、『平均以下』というべきウマ娘には会った事が無い。
水澤は間違いなく美少女で、何なら俺の好みの顔つきですらある。俺が敢えて水澤と距離を置いていたのは、その危険思想から来るガサツな性格と、ヒトを遥かに凌駕する
今日の水澤… 子供の様に屈託なく「楽しい」と笑う彼女は実際とても愛らしかった。発情期でフェロモン的な物が分泌されていた可能性もあるが、間近いなく俺はそんな彼女に『魅せられていた』。
え〜と、これはつまりどういう事だ…? 俺は本当は水澤の事が好きなのか…? 好きだからこそ今の関係を壊すまいと「思想がどう」とか「性格がどう」とか言って一歩踏み出せずにいた言い訳にしていたのか…?
自分でも気がついていなかった気持ちが上に現れてきて、心臓の動悸が激しくなる。顔が紅潮するのを感じる。
「ねぇ、何があったのか教えてよ。まさか水澤ちゃんが立て籠もるほどのショックを受けて帰って来るとは想定外でさ… もしや色気に負けてついつい
「んなことするわけねーだろ! …まぁ失言があったのは認めるけどさ…」
俺は先輩達に買い物の時の水澤とのやり取りを簡潔に話した。
「なるほどなるほど〜、それは鷹山くんにデリカシーが無いよね〜」
「ストレートすぎますよ先輩。イッちゃんだってまだ吹っ切れてないだろうに…」
「男子ってそういうとこダメっスよねぇ…」
「気持ちは分かるけど、言い方ってあるよね…」
上からミノタウロス、三崎、橘、星埜のセリフだ。もうフルボッコじゃんか。俺はそこまで罪深いのか…?
そしてタカチャン先輩にトドメを刺された。
「走りを引退したウマ娘に『それ』ってかなーりキツイよ鷹山くん。あたしやミノ子ですら『天の岩戸』しちゃうかも…」
マジかよ、これ一体どうすれば良いんだ…?