【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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謝罪と自覚

「偽薬ってどういう事ですか?!」

 

 俺達の会話が聞こえていたのだろう。水澤が勢いよく篭城していたトイレから飛び出してきた。

 水澤としては一服盛られた怒りをタカチャン先輩らにぶつけるべく登場したのであろうが、タカチャン先輩はその怒りを受け止めるつもりは無さそうだった。

 

「あ、水澤ちゃんお帰り。トイレは済んだ?」

 

 これである。どうにも俺との会話も含めて、タカチャン先輩とミノタウロスは『悪い事をした』という意識が低そうである。人として最低だと思うぞ。

 

「あ、ハイ。トイレは全然問題なく… じゃなくて!」

 

 水澤も一瞬雰囲気に呑まれかけて日常会話に取り込まれそうになるが、ギリギリ踏み止まった。話題を逸らし損ねたタカチャン先輩は、星埜や三崎らヒト族の白い目線にも気が付いた様だ。

 

「わ… 分かったわよ。イタズラのつもりで水澤ちゃんの薬を入れ替えました、ゴメンナサイ…」

 

 タカチャン先輩が水澤に頭を下げる。その際、横にいたミノタウロスにチラと視線を投げる。

 

「もぉ〜、あたしはタカチャン先輩に強要されただけなのに〜」

 

 などと言いつつ、ミノタウロスも不承不承ながら一緒に頭を下げていた。

 

「でわでわ、謝ったついでに2人に何があったのか教えてよぉ〜。偽薬でかなり乱れちゃったのは知ってるけど、鷹山くんからは最初と最後の展開しか聞いてないから、一番大事な『途中』が知りたいなぁ…」

 

 謝っている(てい)でまだ食らいついてくるぞこの先輩。本当にメンタル強いな……。

 

 対して水澤は、自分でも買い物途中のアレコレを色々思い出してしまったのだろう。瞬時にトマトの様な真っ赤な顔になる。

 

「そ、そんなの… 先輩達には関係ないじゃないですかっ!」

 

 水澤の声も大きくなる。そりゃそうだ、もっと言って良いぞ水澤。 

 

「ふぅむ、そっかぁ… まぁその反応で大体分かったわ。じゃあこの話はそれくらいにして、時間も押してるし最後のバーベキューやっちゃいましょう!」

 

 いや『それくらいにして』良い訳ないだろ、ちゃんと謝罪して再発防止に努めろよ、とは思ったのだが、俺を含めた腹を空かせた高校生7人は、色気よりも食い気に惹かれつつあったのは否定出来なかった……。

 

 ☆

 

 買ってきた食材等々でたらふく腹を膨らませた俺達は、程なく帰宅されたタカチャン先輩のお父上の車で駅まで送って貰えた。これで電車に乗って俺達の利根川区まで帰れば、無事に合宿全工程の終了となる。

 

 俺はこの後更に生徒会に提出するレポートの執筆に入らなくてはならないのだが、まぁそれなりにネタは集められたし、誤解の解けた三崎から水澤の新情報がもらえる可能性も高い。

 

 演劇部の活動に関しては、現状俺に出来る事はもう無い。なので比較的ノンビリとレポートに臨む事が出来る訳だ。いい傾向だな。

 

 ☆

 

「鷹山先輩…」

 

 部員各々の自宅に近い駅で1人、また1人と降りていき、日の暮れた電車内に残された部員は俺と水澤だけになった。そして次の駅で水澤も降りるはずだ。

 

 そんな中途半端なタイミングで水澤が声を掛けてきた。今日は色んな事があったから、水澤と2人きりだと少し気まずいものがある。

 そして恐らく水澤も言いたいことを上手く言えない口の重さを感じている様だ。

 

「今日はタカチャン先輩のせいで何か色々変な事になっちゃってゴメンナサイ… 私、今の比人研や演劇部が好きです。雰囲気を壊したくないです… だから今日のアレコレはまとめて忘れてくれると嬉しいなぁ、って…」

 

 水澤は水澤で色々考える事があるのだろう。ひょっとして俺が今日の水澤を見て勘違いし、色恋に舵を切るみたいな変化を恐れているのだろうか?

 

 これはこれで勘違い甚だしい。俺は水澤を『女』として見てはいない。なので水澤が心配している様な『雰囲気を壊す』事などありえない。全くもって杞憂である!

 

 …本当にそうだろうか? 確かに俺は今日1日水澤に振り回された。奴の背に乗って走ったり、手を繋いで走らされたりした。その度に水澤は屈託の無い笑顔で俺を見つめてくれた。

 

 …本当に可愛かった。

 

 今にして振り返ってみれば、水澤と出会ってから4ヶ月、色んな事があった。共に笑いあったし喧嘩もした。この4ヶ月で俺に一番近い存在は水澤だった。

 

 確かに水澤は危険思想で暴力肯定の『ヤバイ奴』だ。近くに居たら身が幾つあっても足りない状況になるだろう。きっと… いや絶対に水澤と共に居ると、苦労は絶えないだろうと断言できる。

 

 それでも……。

 

 それでも俺は水澤の隣に居たいと思ってしまった。「このダメ女は俺が監督しないとアカン」という気持ちと、「その笑顔を独り占めしたい」という気持ちが合わさり、俺の中で1つになった。

 

 なんだかんだ言って、俺は水澤の事が『好き』なんだな… 今になってようやく気が付いた。

 

 自分の気持ちがこれほど複雑だったとは知らなかった。自分ではもっと好きとか嫌いとかストレートに表明できるキャラだと思っていたが、割とグズグズ考えるタイプだったみたいだ。

 

「嫌だ…」

 

 俺はそうハッキリと答えて、予想外の返答に水澤は驚いた顔をする。

 

「俺は今日、水澤といて楽しかった。これが『飾らない本当の水澤』なんだなって思えたから地味に感動しているんだ。水澤(おまえ)の事をもっとよく知りたいって思えたからな… だから絶対に忘れないぞ」

 

 水澤はこの答えにどう反応して良いのか分からなかった様子で、数秒間俺から目を逸らし視線を泳がせていた。

 

 やがて何か言う事を思いついたのか再度俺に視線を向ける。

 

「そ、そうやってまた私を研究材料にして弄ぼうとしているんでしょっ…? そ、その手には乗りませんからね!」

 

 妙に吃ってそれだけ言った水澤は、丁度目的の駅に着いたタイミングで、逃げる様に車両から飛び出して階段に隠れて、すぐに見えなくなってしまった……。

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