【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
本格的に夏休みが始まった。俺達がかねてから練習していた演劇は、都が今から1週間後に主催する『東京都高校生文化発表会』とやらで上演され、それを以てタカチャン先輩はめでたく部活動引退となる。
劇の進行は合宿でも確認した通り、ストーリー的には現状ベストな状態だと言えるだろう。あとは役者の力量次第だな。一応明日、皆で集まって何回か稽古をしておこう、という話にはなっている。
まぁ演劇部における俺の仕事は既に終了しているので不参加予定だが。俺は俺で夏休み明けに生徒会に提出する為のレポート作成を急がなければならない。
俺も8月から進学に向けての夏期講習が始まるので、演劇部やら比人研やらの部活動が出来るのは、手の空いている7月中のみ、という事になるだろう。真に
しかしそれらの前に大きな問題がある。水澤イチについてだ。
俺は自分が「水澤に好意を抱いている」と気が付いてしまった。長年憧れ続けていた『車に撥ねられた俺を病院まで運んでくれたウマ娘のお姉さん』よりも、今は水澤の事が気になっている。
これが本当の『恋』なのか…? 今まで俺が『恋』だと思っていたアレコレは単なる好意や好奇心でしか無かったみたいだ。それくらい頭の中で水澤の占める割合が増えてきている。
比人研として学校に提出するレポートも、未だ項目だけが箇条書きされている段階で、執筆は遅々として進んでいない。その内容は当然ウマ娘に関するレポートのため、自然と頭に水澤が浮き上がり、全く集中出来ない。
ただ、水澤の事が『好き』なのは良いとして、水澤に告白して男女交際がしたいか? というとすんなり首肯出来ない気持ちもある。
今更言うまでもなくウマ娘は成人男性の数倍の筋力を持つ。特に鍛えていない、ただの女子高生である水澤やタカチャン先輩らも含めてだ。
ヒトの男女であれば、一般的に男の方が力が強く、自然と「か弱い女性を守ってやろう」という規範が生まれてくるのだが、ウマ娘相手ではパワーバランス的に
実際極東から欧州までの地域を征服したモンゴル帝国の主力は、機動力と突撃力に長けたウマ娘を駆使した部隊であったし、第二次世界大戦開始時までは各国に普通に突撃用のウマ娘部隊が存在していた。
如何にウマ娘が屈強であっても、さすがに戦車や飛行機相手に抵抗できる訳はなく、徐々に主戦場からは消えていったが、その後も伝令や補給品の輸送等でウマ娘は『戦場の華』として活躍し続けていたのは間違いない。
余談だが第二次大戦中、ドイツ軍がイギリスのロンドンを空爆した時、とある英軍人のウマ娘が、通常据え付けで運用し、間違っても持ち歩いたりしない『大型の機関銃を小脇に抱えて、乱射しながら戦闘機を撃墜した』という伝説が残っている。
…話が逸れた。男と同等、或いは男以上に勇猛果敢なウマ娘と日常的に接するにあたり、どの様に接すれば良いのかの判断がまるでつかないのだ。
現在の様な先輩/後輩の関係であれば、先輩側のこちらとしては多少強めに出ても構わないのだろうが、彼氏/彼女という対等の関係となると、また微妙に話が変わってくるだろう。
その辺の塩梅がまるで分からない。誰か経験者に話を聞こうにも、俺にはウマ娘と結ばれた男性に知り合いがいない。
タカチャン先輩の両親は共にヒトであるし、水澤の母親はウマ娘らしいが、水澤の父親に「ウマ娘と付き合う秘訣を教えて下さい」などと聞こうものなら、確実にその場で張り倒されるだろう。
ウマ娘に限った心理を説いた書籍はトレーニング読本以外に無いし、ウマッター等のSNSでも『奥さんがウマ娘』系のアカウントは真偽の怪しい物しか見つけられず、まるで参考にならない。
やはり他人の意見に振り回される事無く、自分でウマ娘との付き合いを切り拓いていかなければならないのだろうか? かなり厄介な上に面倒くさいのだが、こればかりは是非もないな。俺自身が
さて、俺の気持ちはともかく、水澤の気持ちはどうなんだろう? いくら俺でもここでいきなり電話やらLANEやらで水澤本人に問い質せる程の胆力は無い。
それに前回の水澤は「(今の部の)雰囲気を壊したくないです… だから今日のアレコレはまとめて忘れてくれると嬉しいなぁ」と言っていた。
この言葉の真意も恐らくは奥深い。水澤が発情期で浮かれていた事や俺との距離が近付いた事で、部活の雰囲気に支障をきたすと水澤が考えている、という意味だ。
これは俺と水澤が交際する事で、部の雰囲気が損なわれるという意味ならば、水澤の中で「俺と水澤が交際している」図式が出来ているはずだ。
仮に俺が始めから水澤の眼中に無いのなら、交際を前提とした仮定の状況は語られるはずもない。
水澤も間違いなく俺を意識している。問題はそれが水澤の本心なのか、発情期の効果で偶然浮き上がってきた感情なのかの判別がつかない事だ。恐らくは水澤本人の心の中でも判然としていないと思われる。
これ当面は様子見だよなぁ… 今焦って水澤に何らかのアクションを掛けるのは、どう考えても悪手だ。
水澤の気持ちが固まりきって無かった場合、下手に刺激する事で過剰な拒絶反応を出されては意味が無い。
何より来年に受験を控えている身分で、女遊びにうつつを抜かしている場合では無いのだ。
かと言って何の保険も無いまま水澤を放置して、他のポっと出の男に取られたりするのは俺としても耐えられない。
まぁ何度も言うように、ウマ娘を暴力でどうこう出来る男は単独では存在し得ないので、ヒトの女子と比べれば
だが如何に屈強なウマ娘とて、複数人掛かりで襲われたり、気の弱い娘だと
この様に「水澤が心配だから手元に置いておきたい」という気持ちは何なのだろう? 恋心とは違う気もするが、親心とも違うよな……。
「はぁ〜、色々勉強してきたつもりだが全然分からんな…」
自室の天井を仰いで溜息と共に己の無力さを痛感する。ウマ娘の、いや男女の問題とはこれほどに難解で面倒な物だったのか……。
「どうすりゃ良いんだろうなぁ…」
再びボヤきが口をつく。今はとにかく水澤に会いたい。顔を見るだけでも良い、そう思っている… 俺の知っている俺って、こんなキャラじゃなかったはずなんだけどなぁ……。
明日の最終確認、当然主役の水澤は来るだろうから、俺もそこに行けば水澤に会える。会ってただ挨拶するだけでも良い、水澤ニウムを補給したい。
ただ、これまた何度も言うように、今回の演劇での俺の役割はとっくに終わっている。
そんな俺がのこのこ出向いて、演出家気取りで臨席しても嫌味なだけではないか? 水澤に嫌われないか? そんな事ばかり考えてしまう。
全てにおいて二進も三進も行かずに途方に暮れていたら机上の携帯がLANEを着信した。
『鷹山くん急にゴメン。実は星埜くんが急性虫垂炎で入院しちゃったらしいの。鷹山くん、劇のトレーナー役って出来ないかな…?』
タカチャン先輩からのメッセージはとても衝撃的な物だった……。