【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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先輩と食欲

 時間は放課後、しかも水澤や響子先生とダラダラ話していたおかげで、それなりの時間になってしまっている。

 件のウマ娘の先輩が、まだ教室どころか校内に居るのかどうかすら掴めていないのに、俺と水澤は何も考えずに3年C組までやって来た。

 

「じゃあ鷹山先輩、新戦士の勧誘お願いします!」

 

「え?! 俺がやるの? 『行きたい』って言ったの水澤だし、ウマ娘はウマ娘同士の方が説得しやすくない?」

 

「いやいやいやいや、部長は鷹山先輩じゃないですかぁ。こんな所で日和らないで下さいよぉ」

 

 何とか相手に面倒くさい仕事を押し付けようと、俺達は互いに脂汗の浮いた引き攣った笑顔で醜い譲り合いをしていた。

 

 そして今、唐突に俺と水澤の視線が交錯し心が通じ合った。俺達は何の打ち合わせも無いままに互いの心を読んで、2人同じタイミングで右手を後ろに引いた。

 

「最初はグー! ジャンケンショイ!!」

 

 心で繋がった俺と水澤の一世一代の真剣勝負。結果は俺が『グー』で水澤が『チョキ』だった。

 

「っしゃあーっ!!」

「くぁーっ! 負けたぁ、悔しいーっ!」

 

 互いの意地と意地の激突、ヒトとウマ娘との魂とプライドを賭けた大勝負は、なんとかヒトである俺の勝利に終わった。

 

 ウーと恨めしげに俺を見上げる水澤を3-Cの入り口へと誘導してやる。その際ちらりと教室の中を覗き込んだ時に見えたのは、雑談していた女子生徒が3人で、そのうちの1人は頭に大きな耳があり、ウマ娘に間違いないだろう。

 

 彼女らは水澤の怨嗟に満ちた大声に驚いて、雑談を中止して俺達を注視している(なんちゃって)。

 やがてその中から1人、優しくて面倒見の良さそうな人がこちらへ歩いてきた。

 

 水澤の挙動不審ぶりに警戒しているのか、口元は微笑んでいるのだが、眉毛が『ハ』の字の困り笑顔になっており、「出来れば関わり合いになりたくない」という気持ちが俺からでも察せられる程の雰囲気を醸していた。

 

「えーと、何かな? 3-C(うち)に御用かしら…?」

 

 引き気味のリアクションを取る先輩を前に、水澤も恥ずかしそうにモジモジしている。テロリストのくせにこういう所は若い女子っぽいんだよなぁ。

 

「あ、あの… 高井(たかい)先輩って人居ますか…?」

 

 教室の入り口で恥ずかしそうに口を開いた水澤に、迎えに出た先輩も「襲われる訳では無い」事に少し安心した表情を見せる。

 

「あぁ、うん。ちょっと待ってて。タカチャーン! 1年生の娘が何か用事だって。ウマ娘の娘だよー」

 

 先輩は後ろを向いて呼びかけてくれた。それに応えて立ち上がったのは、栗毛(ちゃいろ)い髪を肩口まで伸ばした、可愛いと言うよりも大人っぽくて凛々しい感じの背の高いウマ娘さんだった。

 

「あたしに用事…? 1年のウマ娘が? 何だろ…?」

 

 首を捻りながらこちらへと歩いていくるタカチャンこと高井先輩。興味深そうな笑顔で俺達2人を見比べながら「何?」と廊下まで出てきてくれた。

 ウマ娘生来の戦闘力の高さからくる自信なのか、先程の先輩の様に異様な警戒態勢は見せていない。

 

「あ、あのっ… 私、1年B組の水澤イチって言います。高井先輩とウマ娘の人生の在り方と存在意義について語り合いたいと思って…」

 

「ちげーだろ」

 

 水澤に任せていたら新たなテロリストを再生産しかねない。俺はすかさず水澤のポニーテールの生え際に空手チョップをかまして、会話の主導権を奪取してやった。

 

「いたーい! 何するんですかセクハラ部長!」

 

「やかましい! 今のは2歳児に当てても笑って許される優しいチョップだったろが。あとナチュラルにセクハラ冤罪きせてくんな。情報量多すぎて先輩がリアクション困ってんだろうが!」

 

 当の高井先輩は笑っていいのか困っていいのか判断が付かないといった感じの顔をしている。

 

「えと、何か宗教とか難しい話…? だったらあたしはちょっと…」

 

「「違います!」」

 

 深く関わり合いになる前に退散しようとしていた高井先輩の動きを、俺達2人の合体攻撃で止める。あまりにキレイにハモった俺達の声に、時間が止まった様に全員が動きを止めてしまった。

 その一瞬の隙を突いて俺は来訪目的を切り出した。

 

「あー、えーと… 俺達は『比較人類研究部』っていう部活動やってまして、今学術書などでは知り得ない『ウマ娘』の実態を、実地で色々調査しているんですよ。数分で構わないので少しお話しさせてもらえたらなぁ、と思いまして…」

 

 俺はかねてから用意していた調査依頼の文言を高井先輩の前で開陳した。水澤はその辺のトークを全く考えていなかったらしく、俺の横でフンフンと鼻息荒く頷いている。

 

「あぁそう…? まぁ、女の子もいるなら変な話じゃなさそうだし、ちょっとだけなら良いよ…」

 

 呆気に取られていた高井先輩も、正気に戻って調査を快諾してくれた。

 うん、やはり水澤(ウマ娘)を同行させていると強いな。水澤は危険な奴だが、俺の目の届く範囲に居るならば大変に利用価値の高い奴だと再認識させてもらった。

 

 ☆

 

「そっかぁ、名前ねぇ… 確かに『ウマ娘ってそういう物だ』とあまり深く考えてこなかったけど、嫌な娘は嫌だろうねぇ…」

 

 改めて紹介しよう。彼女は高井(たかい) 由美(ゆみ)先輩。ウマネームは『タカナチャンポン』。とっても食欲を刺激する名前であるが、レースに勝てそうな名前か? と言えばかなり疑問に思われる。

 彼女は級友から『タカチャン』と呼ばれていたが、それは和名からではなくウマネームから付けられたニックネームであった訳だ。

 

 せっかくの機会だからと、先程高井先輩と雑談をしていた2人の先輩女子生徒を交えて教室の中で話をさせて貰う流れになった。

 一応、女4と男1という美味しい構成で話をさせてもらっているのだが、全くモテ波動を感じないのは結構寂しくもある。

 

 この流れというのも、普段友達付き合いをしている友人でもヒトとウマ娘とでは色々と齟齬が生じるらしく、自然と「ウマ娘って○○だよね」という話題になっていったのだ。

 

 曰く、「遊びに出た時のスタミナ半端ない」とか「普段の歩くスピードもウマ娘は速い」とか「フードファイター並みに食べてるのに太らないのは卑怯」とか「家族にウマ娘いたら食費は大変そうだよね」とか「ニンジン生で齧り付いてるけど美味しいの?」とか大から小まで色々な話が聞けた。

 

 水澤は「ヒトの女子からは虐められる」なんて言ってたけど、ヒト娘もウマ娘と同じ女子同士として近くにいるならば、互いの為にも『違い』は熟知しておきたいはずだ。

 

 そう考えるのが自然だろうし、そういう『一線を引いた付き合い』になるのも致し方無い面があるとは思う。

 それを『虐め』や『差別』と受け取ってしまうと、表面には出て来ない悲劇が生まれてしまう訳なのだろう。

 

「でもタカチャンと居るといつも高菜チャンポン食べたくなるんだよね。あたしらあのチャンポン屋で何回くらい食べたっけ? あたしらで結構経済回してるよね?」

 

 なんて言いながら笑って話している先輩達が、変に眩しく見えたのは俺だけでは無かったと思いたい。

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