【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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走りと急病

 〜水澤視点

 

「やっばり水澤ちゃんは速いねぇ〜。何年もブランクあるとかウソでしょ?」

 

 私は今日、タカチャン先輩とミノちゃん先輩に連れられて、2人がよく遊びに来ているというフリーランニングスペースにやって来た。

 

 一周約1000m、手入れの関係か芝ではなくウレタンで舗装されたコースと、その内側に結構質の良いダートで整備されたコースがある。

 

 そこに集まった市井のウマ娘が1人でのんびり走ったり、たまたま集まったメンツで、持ち寄ったお菓子やお弁当のおかずを賭けて偶発的にステークス(レース)をしたりしている。

 

 ちなみに当然ながら現金や有価証券を賭けるのはこういった草レースでもご法度とされている。噂ではオーディエンスが多額のお金を賭けてウマ娘を走らせる『闇競』なるギャンブルの存在も耳にするが、実際にやっている人を見たり聞いたりしないので、まぁ都市伝説の類いだと思われる。

 

 私自身、こういった本格的なコースで走るのは、地元の大会以来なので少し緊張する。それと同時にワクワクした物も感じていたのは、ウマ娘の本能のなせる技なのかも知れない。

 

 少し前までの私なら、走る事そのものに嫌悪感を抱いて、今日の様に楽しんで走る事など出来はしなかっただろう。

 鷹山先輩との買い物の際に感じた楽しさは、敢えて言うなら「この人の横でなら、この人に見てて貰えるなら、『辛い』と感じていた走りも『楽しい』と思えるかも知れない」という物だった。

 

 鷹山先輩となら『アビスビースト』を名乗っても生きていけそうだと思えた。こんな気持ちは初めてだった……。

 

 私が鷹山先輩に抱いている感情は「恋愛」なのか「友情」なのか「尊敬」なのか「親愛」なのか、自分でも全く分からない。

 

 初めて会った時は「ウマ娘を滅ぼしたい」とする私の話を莫迦(ばか)にする事無くちゃんと聞いてくれた。もちろん反対意見が返ってきたけど、それは頭から拒絶する物ではなく、キチンと考えて反論してくれた。

 

『恋人』みたいな甘い関係じゃなくて、『兄妹』みたいな言いたいことを気安く何でもズケズケ言い合える関係。それが一番私達を現すに相応しい言葉だと思う。

 

 鷹山先輩の事は好きだと思うけど、無理に『恋愛』に持っていこうとすると、私達2人だけでなく演劇部の皆もぎこちない雰囲気になってしまう。それだけは避けたかった。

 

 もう、変に意識すると、気持ちがどんどんドツボにハマって訳が分からなくなってくるので、今みたいに頭を空っぽにして走る環境があるのはとても助かる。

 

 実はこの日の為に靴を新調した。「先輩に誘われて久しぶりに走るんだ」と母親に報告したところ大層喜んで、その日のうちに蹄鉄とセットでそれなりのグレードのランニングシューズを買ってくれたのだ。

 

 私の母も元競走ウマ娘で、佐賀トレセン学園のOGだ。重賞は勝てなかったが、それなりの結果を出したそうで、父は当時の母のファンのうちの1人だったらしい。

 母は父以上に私の走りを期待して、アレコレ世話を焼いてくれていたのだが、ご存知の通り私は母の期待に背を向け砂を掛けてしまった。

 

 それが理由で、母は私が中学に入ってからの1年くらいは機嫌が悪くて、細かい事で親子で衝突を繰り返していた。

 その後、母も諦めがついたのか不機嫌も治まり、今まで割合と平穏に暮らしてきたのだ。

 

 すっかり走りを諦めたと思っていた娘が「走りに行く」と言い出した時の(あのひと)の顔は過去イチ輝いていた… まぁ本格的に走りに復帰する訳じゃないけど、今まで不義理を働いてごめんなさい、お母さん……。

 

 タカチャン先輩らと軽く流す程度の併走を2回ほどやって一休みしていた頃、携帯をチェックしていたタカチャン先輩が急に素っ頓狂な声を出した。

 

「ウッソヤバ… 星埜くん盲腸で入院だって。劇に出られないみたい、え〜、どうしよう…?」

 

 うわマジですか… 星埜先輩は今回のお芝居では私の演じるサウザンドウイングのトレーナー役として出演する予定だった。出番は多くないけどウイングがトレセン学園のウマ娘として出る以上、トレーナーという存在を無視する事は出来ない。

 

「困りましたねぇ〜。そしたらわたしかタカチャン先輩のライバルを片方減らして、どちらかがトレーナー役やりますかぁ〜?」

 

 ミノちゃん先輩が代案を出してくるがタカチャン先輩の表情は固い。

 

「いや、ライバルの2人は『2人』居るから構成が成り立っているのよ。そこを1人にしたら『ライバル』じゃなくて『単なる嫌なヤツ』になっちゃって劇の印象が変わっちゃう…」

 

「でもあと演劇部はウイング役の水澤ちゃんか、ユイ役のユカリちゃんだけですよ〜? さすがに主役の2人は動かせませんよぉ〜…」

 

 ミノちゃん先輩の指摘も確かだ。今のメンツでは劇が成り立たない。それはつまりここまで皆でやって来た事が全部無駄になってしまう、という事。

 

 それは、イヤだな… とっても……。

 

「いや、もう1人居るわ…」

 

 タカチャン先輩が絞るような声を出す。その『1人』には私も心当たりがある。

 

「鷹山くんですかぁ〜? 彼お芝居出来るんですかねぇ〜…?」

 

 ミノちゃん先輩の返答は完全に私の心とシンクロしていた。事ここに至っては鷹山先輩に代演して貰うしか手段は無い。それは分かるが、果たして彼に芝居が出来るのか? がまるで未知数なのだ。

 

 本番の日までの日数の猶予も殆ど無い。点数を競う様な()し物では無いが、あまりに完成度の低い物はお客さんに見せられない。困ったねぇ……。

 

「と、とにかく鷹山くんにLANEしてみる。いざとなったら『お色気攻撃』でも何でもして彼を引っ張り出すしか無いわ!」

 

「懲りないですねぇタカチャン先輩〜。その際のお色気攻撃は先輩がやって下さいね〜?」

 

 全くだ。合宿の時にも私を使ってイタズラしていたの、まだ少し怒ってるんですからね?

 

 タカチャン先輩はLANEで鷹山先輩に何か書いて送っている。その間、少し手の空いた私もLANEやウマッターのチェックをさせてもらおう。

 

「うそ…」

 

 思わず声が出た。タイムラインに流れてきた()()をにわかには信じられずに、私は何度も画面の文字を読み返した。

 3度目の読み返しで目に涙が溢れてこぼれ出した。そこには……。

 

「手術が成功しました。これからまたレースに向けて頑張って行きます」

 

 というナズナの言葉が綴られていた……。

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