【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「ねぇ先輩、大勢の前で劇をするのが恥ずかしいのは分かりますけど、私だって同じなんですよ? 恥をかくなら一緒にかきましょうよ」
イヤだよ。「恥かくかも」程度なら考えないでもないけど、今回は恥をかくのが100%保証されているんだ。そんな誘いには乗らないぞ。
「恥とかそういうレベルじゃなくて、とにかく無理なんだよ。悪いけど他を当たってくれ」
「その『他』とやらが捕まらなくて困ってるんですよぉ。このままじゃ公演そのものが出来なくなっちゃうし、それは鷹山先輩だって本意じゃないでしょ?」
そりゃまぁ確かにそうなんだが、しかしなぁ……。
「だがしかし『演劇には出るな』という婆ちゃんの遺言があってだな…」
「なんでそんな秒でバレるウソをつくんですか?! …ひょっとして何か別の事情があるんじゃないですか?」
「そ、そそそそそそそんな事は無いぞぉ!」
もうムチャクチャだ。水澤の攻勢に耐えられずにまともな問答になっていない。ここから起死回生の一撃を放とうにも、俺には全く弾が無い。
もういっそ全部ぶち撒けて謝ってしまった方が楽になれるかも知れない……。
「実は…」
心が折れて真実を白状しようとした所で、水澤の電話口から「待って!」という大きな声が聞こえた。
水澤の声じゃない。今のは間違いなくタカチャン先輩の声だ。前述の様にウマ娘の通話はスピーカーモードが基本だから、周りにいる連中が乱入しやすい傾向があるのだろう。
しかしタカチャン先輩、やっぱり自分じゃ俺を説得出来ないと判断して、水澤にその役目をぶん投げて電話を掛けさせたんだな。全く、悪どい先輩だぜ……。
「鷹山くんに何か事情があるのは分かったわ…」
神妙な声色で語りかけてくるタカチャン先輩。事情を汲んで今回の話は『ナシ』という方向に持っていけるのであれば、それに越した事はない。そうすれば誰も不幸にならずに済むんだ……。
「だから今から皆でそれを当てるから、正解発表はちょっと待ってほしいの。ちなみに正解者は皆からジュースを奢ってもらえるシステムよ」
何が「システムよ」だよ、人の恥ずかしい思い出をエンタメ化して盛り上がってるんじゃねーよ! 少しでも温情がある思って期待した俺が
俺の沈黙を勝手に合意と受け取った演劇部の女どもは、キャイのキャイのと盛り上がって予想を立てている。1人1人が何を言っているのかまでは水澤のスマホからは拾い切れておらず、俺の電話からは
「なぁ水澤、俺もう電話切って良いか…?」
勝手に切ってしまっても良いのだが、そうしたら今度は「何故黙って電話を切ったのか?」と鬼詰めされるに決まっている。一応でも断りを入れておけば、そこまではされないだろうという想定だ。
「え? ダメですよ、いまミノちゃん先輩のターンなんですから。答えが出揃うまでもうちょっと待ってください…」
誰のターンとかどうでも良いわ! 何でここまで無体な真似をされて俺が耐え忍ばねばならんのだ…?
「お待たせしたわね鷹山くん。皆の予想が決まったから順次発表していくわ。んじゃ
「ういっす! そっすねぇ…
橘の声に後から水澤が「ちょっとユカリちゃん…」と慌てだす。なるほど、他所で俺の噂話をしている時は『真面目な男』という体で話しているのか。ちょっと嬉しいぞ。
「だから皆でお願いしてるのに、そこまで拒否るには『それなり』の理由があると思うんすよ…」
橘やミノタウロスに頼まれた覚えはないが、まぁそれは流そう。確かに『それなり』の理由はあるんだ。いい線行ってるぞ橘。
「ここは当てに行くっすよ… ズバリ、『あがり症で他大勢の前だと
うお、一発で当たりかよ。まぁそれだけ予想しやすい答えでもあった訳だけどな。自分からトラウマを告白するのは躊躇われるけど、他人の答えに乗っかるだけならまだダメージが少ない気がする。
ここで橘が正解者だと認めてしまえば、俺が星埜の代役をしても役に立たない事が分かって貰えるだろうか…?
俺が橘の回答に対して「正解です」と答えるべく口を開けた所で、またしてもタカチャン先輩が割り込んできた。
「無難な所を突いてきたわねユカリン。でもこれは
また変な事を言い出したぞこのウマシカ先輩は。即興劇どうこうなんて今まで言ってなかったのに、急に話のテーマを変えて来やがった。
「じゃあ次は水澤ちゃんね。お客さんがドッカンドッカン盛り上がる様なネタを頼むわ!」
「え〜っ?! 無茶振り過ぎですよタカチャン先輩ー! 私はエチュードなんてやった事無いのにぃ… んじゃですねぇ…」
ゴネるかと思ったらお前もやるんかい。
「鷹山先輩は結構口が達者な人なので、多分しゃべくり関係の問題じゃ無いんじゃないかと… あ! 自分だけ貸し出し衣装が無いから拗ねてるとか…?」
んな訳ねーだろ。せっかく橘が正解出してるんだから乗っかってこいよ。そうしたら俺も白状しやすいだろうがよ!
「なるほど… 鷹山くんは結構見栄っ張りな所があるから、まんざら却下も出来ないアイデアね… 次ミノ子!」
却下しろよ。もう大喜利の雰囲気じゃねえかよ。本当は俺を肴に騒ぎたいだけで、俺の事情なんかどうでもいいんだろ?
「う〜ん、鷹山くんは星埜くん以上に脚本を読み込んでいたから〜、台詞が覚えられないって事は無いと思うんですよ〜。ただ芝居となるとまるっと素人だから〜、下手な演技をしたら私達にマウント取れなくなるので〜、それが怖いんじゃないかな〜? と。んでタカチャン先輩が綺麗に締めてくれるんですよね〜?」
ミノタウロスが俺をどう見ているのかよく分かるコメントだったな。そこまで小さい男じゃないわい。
「みんなまだまだ若いわね! 考えても御覧なさい。芝居に不慣れな男の子が急な代役を振られて断る心理… 緊張や恐れももちろんあるでしょう。でもね、男が一番失いたくないのは『誇り』、プライドなの!」
自分もまだ未成年のくせに「若い」もへったくれも無いと思うが、まぁタカチャン先輩の考察は当たっている。
「セリフを忘れたり、動作を間違えたりは誰にでもあるわ。そしてその恥ずかしさも舞台経験者なら誰もが通る道…」
ここでタカチャン先輩は一旦溜める。そしてとんでもない事をぶち撒けてくれた。
「ただ素人が恥をかくだけなら、鷹山くんはあっさり割り切ってやってくれるはずだわ。今回それを断る理由、それは『好きな女の前で恥をかくたくないから』なのよ水澤ちゃん!!」