【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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諦念と対策

「え… あ、その… 何と言って良いのか…」

 

 タカチャン先輩に変な事を言われた水澤が狼狽えて口ごもる。それを受けて(たちばな)とミノタウロスが水澤をヒューヒューと囃し立てる。

 いや、向こうで勝手に『それが正解!』みたいな雰囲気出されると俺も困るんだけどな……。

 

 まぁ水澤にカッコ悪い所を見せたくない、という気持ちもゼロでは無いから否定はしないよ? というか、橘とタカチャン先輩の答えの合わせ技で、俺の理由をほぼ言い当てている。

 

 ただたとえ正解だとしても、水澤に関しての部分をここで安易に認める訳には行かない。それこそ『男のプライド』として断固否定させてもらおう。

 

「あの、盛り上がってるところ悪いけど、今回の理由に水澤はあんま関係無いです。もう橘案が正解で良いので、諦めて俺を解放して下さい」

 

 実際、橘の答えでほぼほぼ正解なのだ。しかもそれは演劇部(やつら)にしてみれば面白くも何とも無い駄作回答扱いを受けていた。

 

 これはこれで人のトラウマを軽く扱われて面白くは無いのだが、この様に身内のエンタメとして消費出来る程度の些事なのだと理解してしまえば、1人で気に病むのも莫迦莫迦しくなってくるのも確かだ。

 

 だからこの場の最適解は「はいはいそーっすね」と適度に流して会話を終わらせてしまう事だ。

 

「何言ってんの、諦める訳無いでしょー? 橘ちゃんが言ってたレベルの理由なら、簡単に対応出来るわ!」

 

 自信満々に宣言するタカチャン先輩だが、開演日まであと1週間を切っている。生半可な演技指導や(ども)り矯正でどうにかなる代物では無いと思うぞ?

 

「今回はそれなりに大きい舞台(はこ)()るから、ピンマイクを装着して役者の声を壁のスピーカーから流すのよ」

 

「はぁ…」

 

 だから何だと言うのだろう? そんな物を使ったからと言って、まともに演技が出来る様になるとは到底思えない。

 しかし電話口の向こうでミノタウロスが「あ、なるほど〜」と相槌を打っている声が聞こえる。何だ? 今の話に何か得心出来る部分があったのか…?

 

「基本的に役者の生声は観客席には聞こえないの。まぁ最前列とかは別だけど、そこは何とでも誤魔化せるわ」

 

「あ! 私も分かりました!」

 

 水澤も何か分かったらしい。ここで俺が分からないと、水澤やミノタウロスより頭が悪い感じがして面白くないんだが… いやさっぱり分からんな……。

 

「つまり事前にちゃんと演技した声を録音して、現場でアテレコ出来るって事なのよ!」

 

 え〜と、つまりどういう事だ…? あらかじめセリフを録音しておいて、舞台で俺がセリフを言うシーンにその声を流す、という事なのか?

 確かにそれなら俺が舞台の上で一切口を利かなくても、観客には俺がセリフを喋っているみたいに聞こえるだろう。でもそれって…?

 

「でもアテレコ(それ)ってやってOKなんスか? なんか禁じ手っぽいスけど…?」

 

 俺の疑問を橘が代弁してくれる。確かにそれって結構、いやかなり邪道なやり方なんじゃないのか?

 

「そりゃ本当はダメよ。でも今回は緊急事態だし、それ以外に道は無いわ。という訳で鷹山くん、改めて『お願い』するわ。私達の大切な舞台、そして私の最後の仕事、手伝って下さい。お願い…」

 

 ここまで言われて断ると、この後タカチャン先輩から七代祟られそうだ… 相変わらず気は乗らないが、もうこの場で「分かりました」以外の選択肢は選べ無いように思えた……。

 

 ☆

 

「ふ〜ん、私達の前なら普通にセリフ言えるのね。もっとデロデロなセリフ回しになると思ったけど… なんならそのまま舞台てもイケるんじゃない?」

 

「いやマジで勘弁して下さい…」

 

 という訳で俺も稽古に呼ばれて、本来星埜(ほしの)が演じるはずだったサウザンドウイングのトレーナー役のセリフ練習を台本片手に行っていた。

 

 セリフそのものは大体頭の中に入っていたとは言え、それを感情込めて出力するのは全く別ベクトルの能力が必要になる。

 

 なんとか演劇部の面々といった顔見知りの前なら、吃らずに『演技の3歩手前』くらいなレベルの喋くりは出来るみたいだ。

 

 だが問題はまだある。観衆を前にして口は吃らずに居られるかも知れない。だが緊張からくる全体的な体の動きのぎこちなさは如何ともし難いのではないか?

 例えば録音された音声と口や体の動きが合わなかったら、アテレコを看破され酷評を受ける事になるだろう。

 

 正直、俺は籍こそ置いているが演劇部と自分は『別々の物』という認識だった。俺はあくまでも『比人研』の部長であり、演劇部にはただの人数合わせで居るだけで、脚本や演出の手伝いをするのはあくまで『片手間』のはずだった。

 

 俺にとっての演劇部も、演劇部にとっての俺も、共にそれ以上でもそれ以下でも無い関係の存在だと思っていた。

 

 だから舞台で経験も覚悟も無い演技をするなんて想定外だったし、今の状況にとてもじゃないが頭が追いついていない。更にそう考えると、余計に頭に邪念が入り込み、全く集中出来なくなる。

 

「鷹山くん、緊張しすぎ。身内の練習なんだからもっとリラックスしなよ。それじゃ本番の舞台で倒れちゃうよ?」

 

「今まさに倒れそうだよ! 第一ただでさえ人の視線とか苦手なのに、何十人だかの視線に晒されるなんてマジで息が止まりそうだわ!」

 

 未経験者がぶっつけ本番で強敵を倒せるアニメや漫画とは違うんだぞ。俺の武器である『思考力』が奪われてまともに行動出来るはずがないだろ。

 

「ん〜、お客さんが苦手なら〜、よくある手として『客席はカボチャやジャガイモと思え』ってのあるけど〜、鷹山くんはそういう自己暗示系苦手そうだよね〜」

 

 おうよ、自慢じゃないが苦手だぞ? 大体人間はどうやったって『人間』だし、野菜に変わる訳が無い。

 

「フッフッフ… そんな事もあろうかと、このタカナチャンポン、秘密兵器を用意してあるわ!」

 

 今度は何じゃい? と少々うんざりした気分でタカチャン先輩を見ると、何やら可視光線透過率の低そうな真っ黒なサングラスを取り出して、こちらに得意げな顔を見せてきた。

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