【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
暗い舞台にナレーションの声だけが響く。
ナレーション「府中にある『ウマ娘トレーニングセンター学園』、通称『中央トレセン学園』。この学園に通うウマ娘達は『最速』『最強』を目指して日々切磋琢磨している。そしてまた、とあるレース場で新たなウマ娘の物語が語られようとしていた…」
舞台が明るくなり、2人のウマ娘が横に並んで走り競っている。
2人「はっ、はっ、はっ…!」
抜きつ抜かれつの2人、やがて1人が一歩前に出て勝利戦を踏み越える。その胸のゼッケンには枠順番号と並んで『フォーシー』と名前が書かれている。
フォーシー(タカナチャンポン)「やったぁーっ! 初勝利だわ! 最高のメイクデビューになったわ!!」
跳ねて喜ぶウマ娘の横で、負けたウマ娘は絶望に打ちひしがれている表情を見せる。そして肩で息をしている負けたウマ娘にスポットが当たりモノローグが入る。
負けたウマ娘(水澤 イチ)「私の名前は『サウザンドウイング』、トレセン学園で日々トレーニングに勤しむウマ娘だ。今日は私のデビュー戦の日、必勝を胸に勇んで臨んだが、結果は2着… ここ中央では『初勝利』を上げないと次のステップには進めない。そして来年の秋までに一度も勝てないウマ娘は、ほぼ全員が退学する事になる…」
照明が戻り、ウイングの横には男性が立っていた。
男性(鷹山 留吉)「惜しかったなウイング。だがデビュー戦で全てが決まるわけじゃない。次の勝利目指してまた2人で頑張って行こう!」
再びウイングにスポットが当たる。
ウイング「この人は私のトレーナーの『
再び舞台が暗くなり、舞台端の『めくり台』がめくられ「1ヶ月後、未勝利戦」の文字が現れる。
明るくなり再びレースシーン、舞台の上はウイングだけで、他のウマ娘はライトによるシルエットのみで演出。そして未勝利戦で力走するも敗れるウイング。
打ちひしがれ膝をつくウイングにスポットが当てられ、めくり台が「3ヶ月後」「5ヶ月後」「7ヶ月後」と、無慈悲な時間経過を客に知らせる。
立ち上がれないまま時間だけが過ぎていく。志藤トレーナーの「次こそ頑張れ!」の声だけがウイングの脳内に響く様に会場に流れていく。
ウイング「頑張ってるよ! 一生懸命走ってるよ! 他の皆も私と同じで、勝ち残る為に必死だもん。勝てないよ、悔しいよ…」
地面に拳を叩きつけるウイング、その場でうずくまり嗚咽を上げた所でフェードアウト。
☆
場面が変わり学園のクラス風景、女子の喋り声を背景に机に突っ伏して眠っているウイング。
そこに近寄るウマ娘のフォーシー、ニヤニヤと意地の悪そうな顔をしている。
フォーシー「ねぇウイング、アンタ大丈夫なの? 学園残れそう?」
すでにウイングに勝っているフォーシー、余裕と嫌味をたっぷりと効かせて絡んでくる。
「もう1学期も終わりだよ〜? 夏休み中に1勝も出来なかったら引退だね〜、可哀想〜」
顔を合わせてキャハハと笑うフォーシー。明らかに『可哀想』ではなく『ザマァ見ろ』という態度。
突っ伏していたウイングが『バン』と大きく机を叩いて起き上がる。険しい顔でフォーシーを睨みつけて走り去るが、その際に涙を拭う仕草を見せる。
いじめっ子フォーシーはフェードアウト、スポットはウイングに。
ウイング「何よ何よ! 言われなくたって分かってるわよ。今からだと、もう走れるレースは2つか無理して3つ、そこで勝てば良いんでしょ?! やってやるわよ!」
暗くなる舞台、その隙に制服から体操着へと早着替えして場所をグラウンドに切り替える。
志藤トレーナー「よーし、今日はこれで上がりだ! 焦らず臨めばお前は絶対レースに勝てる! 無理せず着実に強くなって行こう!」
ウイング「はい、お疲れ様でした…」
走り込みの疲労から肩で息をしているウイング、去っていく志藤トレーナーの背中を睨みつけている。
ウイング(モノローグ)「はぁ、はぁ… 焦るなとか無理に決まってるでしょ…
そこで何かを否定するかの様に首を振るウイング、トレーナーの去った方とは逆方向に目を向ける。
ウイング「ここで終われない… まだだ、まだ走らなきゃ… もっと自分を追い込んで少しでも速くならなきゃ…」
逆方向の学園の外に走り出すウイング、そして場面が変わり河原でランニングするウイング。オーバーワークのせいかフォームがふらついている。
ウイングの少し後ろで走っている女子高生『
ウイング「あっ!」
何かに躓いて転ぶウイング、足首を押さえて苦しむウイングに駆け寄る唯。
唯「ちょっと貴女大丈夫? さっきからふらついていたから心配で見ていたけど… 貴女トレセン学園の娘でしょ? 救急車呼ぼうか…?」
ウイングは足首を押さえながらも首を振る。
ウイング(モノローグ)「痛っ… 転んだ拍子に足首を捻っちゃった… 次のレースも近いのに怪我なんかしてたら出走を取り消されちゃうよ。トレーナーさんには絶対バレない様にしないと…」
ウイング「いえ、大丈夫です。どうか気にせず… あっ!」
立ち上がろうとしてバランスを崩すウイング。それを素早く察知してウイングを助ける唯。
唯「もぉ、傍目から全然大丈夫じゃないから! ちょっとそこ座って。湿布と包帯くらいなら常備してるからさ」
ウイングを支えながらベンチに腰を下ろす唯。腰のポーチから湿布と包帯を取り出してウイングの手当てを始める。
ウイング「あ… ありがとうございます。あの、用意良いんですね…」
ウイングの言葉に吹き出す唯。
唯「まぁあたしもオッチョコチョイでよく転んでるから、元々は自分用なんだけどね。まぁ
唯の自己紹介に表情を緩めるウイング。
ウイング「私はサウザンドウイング、高1です。ご覧の通りトレセン学園のウマ娘です。
ウイングの含みを理解できずに首を捻る唯。顔はウイングの方を向きつつも手は要領よくウイングの脚を介抱している。
唯「ウマ娘って脚が速くて力も強いんだよね? 良いなぁ。ね、速く走るコツとかあったら教えてよ? あたしも結構切実なんだ…」
唯の無邪気な言葉に顔をしかめるウイング。
ウイング「周り全部ウマ娘だし、私なんか速くも何とも無いですよ… そんなコツがあるなら私の方こそ…」
不意に涙と共に激情が溢れて泣き出してしまうウイング。状況を察した唯も慌てながらウイングのフォローに入る。
唯「あ… ゴ、ゴメンね。トレセン学園のウマ娘ちゃんだもんね、そりゃ大変だよね…」
唯の言葉にうつむきながら首を振るウイング。顔を上げて唯の方を向く。
ウイング「いえ、私の方こそゴメンなさい… こんな所で泣いても何にもならないのに…」
おもむろに泣いているウイングの手を取る唯。
唯「ね、またこうやって会わない? お互い行き詰まってるみたいだし、愚痴でも言い合えれば気晴らしくらいにはなるんじゃない?」
しばらく呆けて唯を見つめるウイング、やがて微笑みながら強く頷いた。