【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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千の翼:後編

 めくり台が「それから1週間」と表示する。楽しそうにベンチで談笑するウイングと唯。

 

唯「なるほどねぇ、ウマ娘とヒトとでは腕の振り方から変わってくるのかぁ…」

 

ウイング「いや、大きな違いは無いと思いますよ? 唯さんの走り方にクセがあるからかと…」

 

唯「うっそ、マジー? 凹むなぁ… あ、そうだ! この間のケガはどう? 腫れてなかった?」

 

ウイング「あ… はい、なんとか…」

 

 弱々しく微笑むウイング。しかし、

 

ウイング(モノローグ)「あの時の傷、痛みはほとんど無いんだけど、違和感がずっと消えない。悪化はしてないけど良くもなっていない… 来週にはまたレースだから、今になってトレーナーさんにも言えないよね…」

 

 場面が暗転し、めくり台が『更に1週間後』と表示され三たびレースシーン。影絵と走るウイング。

 

ウイング(モノローグ)「この前捻った足首は、あの後あまり痛みが出なかったから、トレーナーさんには秘密にした。怪我がバレたら残り少ないレースの機会が更に減らされると思ったから…」

 

 しかしウイングは苦しそうに顔を歪める。

 

ウイング(モノローグ)「痛くはない、でも動きが鈍い… 自分の体じゃないみたいに踏み込みに力が入らない…」

 

 結局そのままウイングはまたしても惨敗する。暗転し、舞台はレース場の控え室。

 

志藤「走りにキレが全く見られなかったぞ? どこか具合でも悪いんじゃ無いのか…?」

 

ウイング「いえ、大丈夫です。次のレースの予定組んで下さい… ライブの準備してきます」

 

 志藤の前から去るウイング。追うように手を伸ばす志藤、だがウイングは止められなかった。

 

志藤「おいウイング!? …くそっ、俺はどうすればあいつを救ってやれるんだ…?」

 

 悔しそうに両手を打ち合わせる志藤。

 

 暗転、再びベンチで話すウイングと唯、深刻な雰囲気。

 

唯「レース見たよ。やっぱり怪我の具合が良くなかったみたいだね… どうしてトレーナーさんに言わなかったのさ…?」

 

ウイング「だって… 強制引退までもう間がないのに、走る機会を減らされたら何もかもお終いだから… 唯さんには分からないよ…」

 

 言い捨てて席を立つウイング。唯に背を向け離れていく。

 

唯「ウイング… ダメだよこのままじゃ…」

 

 唯も意を決した様に席を立ち、ウイングとは逆方向に走り去る。

 

 暗転、トレセン学園正門前。歩く志藤に駆け寄る唯。

 

唯「あのっ! トレセン学園の志藤トレーナーさんですよね? あたしウイングの友達の野座間 唯って言います!」

 

志藤「ウイングの…? 分かった、緊急の用件みたいだね、近くの店で話を聞くよ」

 

 暗転、喫茶店で座って話す志藤と唯。スポットライトで2人だけを照らし、周りは暗いまま。

 

志藤「そうか、やはり怪我していたのか… ウイング(あいつ)め、そんな大事な事を…」

 

唯「ウイングを怒らないで上げて下さい。あの娘『もう後が無い』事を異常に気にしてましたから…」

 

志藤「だからって怪我を拗らせて走れなくなったら元も子もない。今後の一生に関わってくるのに…」

 

唯「でもウイング(あのこ)の気持ちも分かります。トレーナーさん、ウイングはあと何回レースが出来るんですか?」

 

志藤「スケジュール的にあと1回、無理して2回って所だな… 出走自体は何度も出来るが、まず間違いなく故障して再起不能になる。それは許可できない…」

 

唯「じゃあレース最初の1回は治療に充てて棄権して、2回目の日程に合わせて調整出来ませんか?」

 

志藤「それしか無いだろうな… 分かった、それで行こう。ウイングの怪我の事、教えてくれてありがとう」

 

唯「とんでもないです。あたしもウイングの勝つ所を見たいので!」

 

 話が終わりその場を離れる志藤と唯。その後、空いたテーブルの隣にライトが移る。そこには神妙な顔つきのウイングが1人座っていた。

 

ウイング(モノローグ)「学園に無関係の唯さんが私の練習に口を出してくるのは明らかにおかしいし、素人の意見をあっさり受け入れるトレーナーもおかしいよ! でも、でもさ… 2人とも私を心配して言ってくれているんだよね… 闇雲に走るより、怪我を治してラストランに賭けよう…」

 

 テーブルの上で決意を新たに強く拳を握りしめるウイング。

 

 めくり台が「1ヶ月後」を告げる。志藤とウイングのトレーニング風景。

 

ウイング(モノローグ)「レースを1戦諦めて治療とリハビリに専念した。もし怪我のまま走っていたら、更に大事になっていた可能性だってあった… 私1人のワガママで親や友達、トレーナーさんも悲しませる所だった。2人には感謝しかない…」

 

志藤「よし、OK! 大分調子が戻ってきたな。次のレース、絶対勝つぞ!」

 

ウイング「はい!」

 

 暗転、めくり台には『レース当日』。場面は本馬場入場から。

 

 舞台袖に近い所で観客席を模した衝立(ついた)てがあり、そこに志藤と唯が応援のために来ていた。

 

唯「ウイング、勝てますよね? 何だかあたしまでドキドキしてきました…」

 

志藤「やれる事は全てやった。後はウイングの気持ち次第、『絶対に負けない』という強い気持ち次第だ…」

  

 舞台中央では緊張した面持ちのウイングに近寄るウマ娘、ゼッケンには『アマゾンセル』と書かれてある。

 

アマゾンセル(ミノタウロス)「ねぇ、アンタ脚を怪我してたんだって? もうみんな後の無い天王山なんだから、怪我人は大人しく退学しとけば良かったんじゃないのぉ?」

 

 アマゾンセルの挑発にも軽く一瞥しただけで無視するウイング、大きく深呼吸し出走態勢になる。

 

 ゲートの開く『ガタン』という音と共に走り出すウイングとアマゾンセル、そして多数の影絵のウマ娘達。

 アマゾンセルが先行し、その後ろで脚を溜めるウイング。

 

ウイング(モノローグ)「体が軽い。ここまでトレーナーさんと唯さんと3人で頑張って来た。今日の私は過去イチベストコンディションだ。これで負けても悔いは… ううん、負ける事は考えない! 絶対に勝つんだ!」

 

 走るウイングに「頑張れ!」と声援を送る唯。志藤も応援している風だが無言のまま。

 

ウイング(モノローグ)「第3コーナーから第4コーナー、ここで仕掛ける!」

 

 先行するアマゾンセルに迫るウイング。だがなかなか追いつけない。

 

 唯の応援、志藤はなぜか舞台袖をちらちらと気にしている。

 

ウイング(モノローグ)「ここで… ここで負けたら全てが終わっちゃう… そんなの嫌だ! 負けるもんかぁーっ!!」

 

アマゾンセル「うぉーっ!!」

ウイング「うぉーっ!!」

 

 ゴール前の直線、もつれる様に争うウイングとアマゾンセル。

 

「ウイングーっ! 行けーっ!!」

 

 志藤の激励が会場に響く。これまでの様な壁のスピーカーから聞こえた声ではなく、大音声による生声だ。

 

 ほんの一瞬動きを止めて志藤に目を遣るウイング。そのまま加速してアマゾンセルを捉える。

 

ウイング「負けないっ! わたしはっ! 私はサウザンドウイングだぁーっ!!!」

 

 声と同時にアマゾンセルを抜き、1着でゴールするウイング。衝立てを放り出してウイングに駆け寄る志藤と唯。

 

 3人で抱き合う。泣き笑いの表情をしたウイングの「トレーナー、唯さん… 私、勝てました!」のセリフで再度抱き合う3人。

 

 めくり台に「そして…」と表れ、エピローグ。

 

 制服姿のウイングが1人立っており、スポットライトで照らされる。

 

ウイング「私の物語はまだ続きます。それは栄光に彩られたサクセスストーリーかも知れないし、苦難に満ちた悲劇かも知れません… それでも、私はこの日の『初勝利』を胸に抱いて走り続けます… その想いを『千の翼』、サウザンドウイングに乗せて…」

 

 深く頭を下げるウイング。ライトが消え、幕が閉じる……。

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