【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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裏側と喝采

67 裏側と喝采

「来年の秋までに一度も勝てないウマ娘は、ほぼ全員が退学する事になる…」

 

 舞台の上の水澤のモノローグで背景が語られる。よし、このタイミングで俺の出番だ。

 

「惜しかったなウイング。だがデビュー戦で全てが決まるわけじゃない。次の勝利目指してまた2人で頑張って行こう!」

 

 会場の壁面スピーカーから聞こえる自分の声。自分で認識している自分の声とは少し違って聞こえるのが不思議な気持ちだ。

 

 もちろんリアルの肉声では無い。大勢を前にすると(ども)りがちな俺の対策として、前もって全ての志藤トレーナーのセリフは録音してあり、今はそれを順次流している状況だ。

 

 傍目にはサングラスの様に見えるピンホールメガネのおかげで、俺の視界は大幅に遮られ目の前の水澤だけに集中して動く事が出来る。

 

 そしてシーンが変わり、連敗を続けるウイング。ウイングの苦悩をさも自分の事のように表現して見せる水澤、恐ろしい子だ……。

 

 タカチャン先輩のイジメっ子シーンの次が俺の出番。ここは特に演技は関係ない、偉そうな感じで立って口パクしてればOK。

 ここでウイングが「ここで勝てないのは(アンタ)の…」と言い淀む場面があるが、実際のウマ娘が連敗を重ねた場合にトレーナーに責任転嫁するのかどうかは正直分からなかった。

 

 まぁする子もいるだろうししない子もいる程度の認識で脚本を書いたが、リアリティ追求の面で少し詰めが甘かったと反省する。

 

 その後のシーンも卒無く交わせたと思う。セリフは全て口パクなのでトチったり噛んだりする心配が無かったのは大きい。

 

 そして事件は起きた……。 

 

 ウイングの「第3コーナーから第4コーナー、ここで仕掛ける!」というセリフの所で、唯の応援と共に俺の応援音声が流れるはずだったのだが、それが流れなかった。

 

 どうなっているのか気になって舞台袖を見てみたら、タカチャン先輩が録音機材と何やら格闘している所だった。

 

 なんか機材をカチャカチャしながら首を捻っている。明らかに何らかの小さくないトラブルが発生している。どうすんだこれ…?

 

 唯の応援だけが響く中、レースは最終局面に入る。ウイングとアマゾンセルが抜きつ抜かれつの攻防を繰り広げる中で、俺の「ウイング、行け」というセリフが被り、そこからウイングが死力を振り絞って勝つ。という流れなのだが、俺の音声が出てこないとなるとレースが、というか芝居が進まずに膠着してしまう。

 

 え? マジでヤバくないコレ? 俺どうしたら良いの? 隣の唯役の橘もヤバい雰囲気を察したのか、俺の方にチラチラと視線を投げかけてくる。

 

 再度タカチャン先輩の方へ目を遣る。ちょっと監督、コレどーしたら良いんですかーっ?!

 

 タカチャン先輩は何やらスケッチブックを取り出して何やら書き始めた。

 タカチャン先輩が書き終えたスケッチブックをこちらに見せる。そこには殴り書きされた「トレーナーしゃべって!」の文字が。

 

 え? ここで喋るの? 無理だよそんなの。俺まともにセリフ話せないよって断ったじゃん。演劇部の皆で「それでも良いよ」と今の録音してのやり方になったんじゃん。

 

 舞台の上では水澤とミノタウロスのチェイスシーンが続いている。俺のセリフが流れない為に予定より5秒以上シーンが伸びており、やや不自然な『間』が生まれてしまっている。

 

 確かにこのままには出来ない。かと言ってこんな場面で大声を上げるなんて真似は俺には……。

 

「ウイングーっ! お願い、勝ってーっ!!」

 

 不自然に生じた間を埋めるべく橘がアドリブで声を上げる。そこから橘の『お前もやれ』という圧力を含んだ熱い視線を送られる。

 

 えぇい、もうヤケクソだ。どの道俺が動かなければ劇は止まってしまうし、仮に俺がヘマしてもそれは俺の責任じゃない。

 

 俺は大きく息を吸い込んで口を開けた。

 

「ウイングーっ! 行けーっ!!」

 

 俺の生声が会場に響く。これまでの様な壁のスピーカーを通した声ではなく、やや上ずって情けない声量の俺の声だ。

 

 その声に呼応する様に水澤が一瞬だけこちらに視線を向ける。あいつも劇が止まって心配していたのだろう。

 

 2人並んで走っていた水澤とミノタウロスだが、そこから水澤が前に出る。

 

「負けないっ! わたしはっ! 私はサウザンドウイングだぁーっ!!!」

 

 そう叫んで勝利戦を跨ぐウイング。確かここのセリフは「うぉーっ!」だけだったはずなので、「私はサウザンドウイングだ」というのは完全に水澤のアドリブだ。

 

 ここで橘が手で持っていた外ラチを見立てた衝立てを放り出して水澤に駆け寄る。俺もワンテンポ遅れたものの橘に倣って水澤の元へ移動する。

 

 3人で抱き合うシーンだが、予定より長時間走る真似をさせられていた水澤の身体は汗だくで、ウマ娘特有の体温の高さも相まって、何と言うか妙な色気を醸し出していた。

 

 泣き笑いの表情をした水澤が「トレーナー、唯さん… 私、勝てました!」と告げ、再び3人で抱き合う。

 

 そしてエピローグ。水澤が1人で舞台に立ち最後の想いを綴るシーン。

 

「私の物語はまだ続きます。それは栄光に彩られたサクセスストーリーかも知れないし、苦難に満ちた悲劇かも知れません… それでも、私はこの日の『初勝利』を胸に抱いて走り続けます… その想いを『千の翼』、サウザンドウイングに乗せて…」

 

 水澤が深く頭を下げ、上げた所で観客席からは大きな拍手が巻き起こった。舞台はそのまま暗転し幕を閉じるが、拍手は鳴り止まない。

 

「カーテンコール行くわよ!」

 

 タカチャン先輩が飛び出して、俺達全員を舞台に引っ張り出し横一列に並べた。そこから会場スタッフさんに合図すると幕が再び開き、俺達は観客の前に晒された。

 

 ここで俺は今日初めて、ピンホールメガネの死界の外にある観客席に目を遣った。ブーイングが来ると覚悟していたのに、皆笑顔で拍手をしてくれている。

 俺と星埜の書いたドラマを、熱演した水澤達を沢山の人が好意的に受け入れてくれた。

 

 これは… 感動だな。物凄く達成感を感じている。俺は演劇部に関しては門外漢のつもりだったが、俺や水澤の関わった舞台が、ここまで拍手で迎えられた事には大きく感動している。

 

「あー、鷹山先輩、泣いてます?」

 

 茶化すような水澤の声。うるせーよ、お前だって泣いてるじゃんかよ。

 

 観客に向けて何度も頭を下げる。舞台の上で男は俺1人で、しかも涙で顔をグズグズにしている。でもさ… でもここは泣いても良い場面だよな…?

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