【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
〜水澤視点
「イッチー、ちょっと秋物買いに行きたいから付き合ってくれる?」
その時は普通にショッピングのお誘いかと思ってて、『劇の公演も無事に終わったし、私も自分へのご褒美として新しい服を買っちゃおうかな?』などと考えていた事もあって、何も考えず反射的に「良いよ」と返してしまった。
そして今、私はナノちゃんから人生に関わる重大な決断を迫られていた……。
☆
買い物のお誘い自体は本物で、私も秋に向けて薄手のセーターとスカートを買った。
実は以前から「ナズナの勝負服みたいなGジャンもかっこいいよなぁ」とも思っていたのだが、お店にあったのは無地の地味なやつか、お花模様のド派手な刺繍の入っているやつしか無くて、今イチ購買意欲をそそられなかったので今回はスルーした。
あと何か露骨に『ナズナを意識している』みたいな感じがして、負けた気になるのもやめた理由の一つだ。鷹山先輩とか絶対に茶化してくるに決まっているから。
想像だけでも腹立たしいが、恐らく鷹山先輩ならひとしきり茶化した後で「でも似合っていて可愛い」まで言ってくれそうな気がする… あ、きっと「可愛い」は言わないな。でも後のフォローはしてくれるだろうと思っている。
「ニヤニヤしてどうした? 何かアオハル的な思い出し笑い?」
ナノちゃんにツッコまれて自分がヘラヘラ思い出し笑いをしていた事を気付かされる。鷹山先輩をネタにニヤけるなんて、ちょっと恥ずかしいね……。
ひとしきり買い物を終えた後で近場のコーヒーショップに入り、限定モノのフラペチーノを2人で飲む。
女子同士でいつもなら買い物の感想とか、他愛の無い噂話なんかで盛り上がるのだけれども、今回は少し様子が違っていた。
ナノちゃんが何かメモを取り出して書く素振りを見せるのだが、なかなか文字に表れてこない。難しい顔で私の方をチラチラ見ながら書きかけては止める、そんな事が数分続いた。
「どうしたのナノちゃん? 私の方を見て何のメモ取ってるの…?」
さすがに少し怖くなって聞いてしまった。だって明らかにいつものナノちゃんじゃないんだもん。何やら『別の目的』があるかの様な……。
「んー? いや深い意味は無いのよ。鷹山先輩からイッチーの… ていうかウマ娘の面白ネタがあったらメモして送れって言われててさぁ… 気に障ったらゴメンね」
あぁ、鷹山先輩の指示だったのね。どうりでいつにもなくナノちゃんが挙動不審だと思ったわ。あれ? でも待てよ…?
「へ、へぇ〜、ナノちゃんと鷹山先輩って仲悪いと思ってたけど、彼からそんな指令がくるほど仲いいんだ…?」
あるいは鷹山先輩が何かナノちゃんの弱みを握って脅迫している可能性も否めない。
以前ナノちゃんは私が鷹山先輩に騙されていると勘違いして、女子ながら単身比人研まで乗り込んで戦ってくれた。
鷹山先輩を疑いたくは無いけど、もし本当にナノちゃんが脅されているなら、今度は私が彼女を助ける番だろう。
「え? あ〜、いやそういうんじゃなくて… タカチャン先輩の家で合宿した時に、鷹山先輩が部外者の私を構ってくれて勉強も見てもらってさ… その時にちょっと話して『悪い人じゃ無いんだな』って分かったから…」
う〜ん、そんな優しい鷹山先輩、にわかには信じがたいけど、ここでナノちゃんが嘘つく理由も無いし、ケンカしていたと思っていた2人の関係が良好になったのであれば、それはとても喜ばしい事で……。
あれ…? 喜ばしいはずなのに、私の心の奥が何かチクチクした物で刺されている様な気分になる。なんだろうコレ…?
ナノちゃんの「分かったから」の辺りで少しニヤけた顔になるのを機に、嫌な予感が私の心を支配し始める。
「そうなんだ… 2人が仲直り出来たなら私も嬉しいよ…」
とりあえず嬉しい気持ちは嘘じゃない。でも本当に確かめたいのは、「鷹山先輩とナノちゃんが恋愛関係になったのではないか?」という疑問だ。
私の中で『まさかそんな展開はあり得ない』とする気持ちと『急接近する機会は十分にあった』とする気持ちが綯い交ぜになって、心臓の動きが早くなり呼吸が乱れてくる。まさかそんな… でも… みたいな思いで頭がグルグルして目眩がしてきた。
これは『嫉妬』なのかな…? いやでも私と鷹山先輩は付き合っている訳では無いし、私は… 好き、だと思うけどお互いの気持ちもまだ確かめてはいない。
むしろお互いに「他にこんな問題児を好きになる奴は居ないだろうから、自分が拾ってやろう」とか思っていそうではあったけど、それだって私の感想だし先輩の気持ちは何一つ分かっていない。
そこでナノちゃんと鷹山先輩が急接近した所で、私に何か言う権利も無ければ、2人の交際に干渉する権利も無い。
こういう女同士で察して探り合うみたいな関係は『イヤだな』とは思うけどさ… 思うだけなら自由だよね……。
「…ねぇ、イッチー。イッチーってさ、鷹山先輩と付き合ってるの…?」
ナノちゃんから唐突に口をついて出た言葉は、私を心底驚かせた。
恐らくこういった件で単刀直入に聞いてくるのは私の役割だったと思う。なのにドキドキウジウジして一歩を踏み出せずにいた私に業を煮やしたのか、ナノちゃんの方から口火を切ってくれた形になった。
「えー? いや、まぁ… 『付き合って』はいないかなぁ… アハハぁ〜…」
そう、私達はまだ『付き合って』いる訳では無い。気持ちはともかく、外面的には「先輩と後輩」という関係から外れてはいないのだ。
そしてナノちゃんがなぜそんな事を聞いてきたのかも、なんとなく「分かって」しまった。恐らく本日のお誘いの真意はここからの問答にあるのだと思う。
「そうだよね… じゃあさ、私が鷹山先輩に告白しても良いかな…?」
へ…………………?
ナノちゃんの質問に頭が真っ白になって思考能力が死んでしまった。「そういう話」になる可能性は読めていたけど、まさか本当に予想通りになるとは思っていなかった… いや違う、『そうなって欲しくなかった』展開に脳が拒絶反応を示しているのだ。
まさか私とナノちゃんで同じ男性を好きになるなんて予想だにしなかったし、
私はナノちゃんに何と答えれば良いのだろう…? 真っ白な頭のままで何かを返答すべく口を開くが、言葉が口をついて出てこない。
「あ… えと… 何で私に聞くの…? ナノちゃんの気持ち次第だから私には関係な…」
「イッチーは『関係無い』で良いの? 本気で私が取っちゃって良いの…?」
静かだが重たい言葉に、こちらも返す言葉が無い。ナノちゃんは本気なんだろうなぁ……。
俯いて沈黙したままの私に向かって、ナノちゃんが話し続ける。
「私もイッチーとずっと一緒に居たから、イッチーの気持ちも何となく分かってる。だから、1週間待って上げる… その間にイッチーと鷹山先輩とで関係に決着つけて…」
ナノちゃんの目にはうっすらと涙が浮いていた。今のこのセリフも一生懸命に絞り出した物であろう事は想像出来る。
「イッチーは友達だからさ… お互いに傷つけ合って嫌いになりたく無いんだよ… イッチーが告白して鷹山先輩と付き合うなら私は祝福するよ。だからイッチーも自分に嘘をつかないで…」
そして冒頭に戻る訳だ……。