【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
タカナチャンポン先輩達との会話は、ウマ娘の実態を知る為の非常に有益な時間となった。もっぱら女子の雑談を聞いていただけで会話に積極的に混ざった訳では無かったが、タカチャン先輩の『本人が認識出来ているか出来ていないか微妙なレベル』の苦悩、というか生き辛さは感じ取る事が出来た。
俺達『ヒト』側としてウマ娘の安寧の為に歩み寄れる部分のヒントが掴めた気がする。
「それで、水澤ちゃんは自分の名前の何が気に入らないの?
雑談も落ち着いて空も暗くなり、そろそろお開きにしようかというタイミングで、タカチャン先輩が水澤に向けて質問を投げた。
そう、水澤のウマネームは未だに謎のままで、俺と2人でいる間は決して明かそうとはしなかった。
質問を受けて水澤はイヤそうな表情を見せるが、何よりタカチャン先輩の名前をイジりに来たのがそもそもの発端なのだ。ここで自分のウマネームを明かさないとなれば『かなり失礼な後輩』として、下手すると3年生全体に情報共有される羽目になりかねない。
それは女子ネットワーク的には由々しき事態を引き起こすと思われるのだが、果たしてどうだろうか?
水澤は俺の方をチラチラ見ながら先輩達にどう答えるかを考えている。全く何なんだよ?
「男子の目が気になるの? もしかしてエロい名前だったり?」
タカチャン先輩の鋭い指摘に周りの先輩も「きゃー」と黄色い声を上げる。別にエロい名前であろうが無かろうが水澤は所詮水澤なので、変な感情を抱いたりしない。
いやまぁ仮に水澤が「ムチムチプリン」とかいう名前だったら『ほうほうどれどれ』と全身を隈無く見てしまうかも知れない。だがそのくらいは男女関係なく現れるリアクションだと思うぞ?
「ちっ、違いますよ! エロい名前なんかじゃないです!」
「えー? なら尚更教えてよ。
強く抗弁する水澤を見て更に口角を上げたタカチャン先輩は、水澤と級友2人を連れて教室の隅に移動し水澤を囲む。
一般的にはイジメフォーメーションだが、これは水澤の自業自得な案件でもあるから俺としては放置確定だ。何より一番可哀想なのは1人話題からハブられた俺自身なのだから。
1人残された俺を女子4人でチラチラと見ながら水澤が何かを言った様に見えた。
直後の先輩3人の反応は何とも微妙な物だった。
「えー? 全然おかしくないじゃん」
「普通にレース出たら強そう」
「むしろカッコよくない?」
それらの声に対して水澤は顔を真っ赤にして「ちっともカッコよくなんて無いですよ! 大体『○○の○○』なんて女の子に付ける名前じゃないですよ…」と反論する。
水澤がわざと口ごもったせいで○○の部分がよく聞こえなかったが、推理するに水澤のウマネームは『勇ましい系』か『厨二病系』なのだろう。
「じゃあ『アビちゃん』って呼んでいい?」
「良いねぇ『アビちゃん』!」
「それ可愛いいじゃん!」
「いやいやダメですよ、止めてください!」
うーむ、俺を忘れて女子4人で盛り上がっていやがりくさってますね。とっても寂しいのボク、構って欲しいな……。
「『アビちゃん』…」
何気なく呟いてみる。『水澤』も良いけど『アビちゃん』もそれほど悪くはない。由来は良く分からないが、響きが良いよね『アビちゃん』って……。
「……………………」
呟いてほんの1、2秒目を閉じて『アビちゃん』を
しかもその手には鉄と合板で作られた机がある。教室に置かれている学習机の1つを右手に取って、片手で軽々と頭上に振り上げている。まさかその高々と掲げた机を、俺の頭に落とそうとしているのでは無かろうな?
例え数kgの安普請の机だとしても、2mもの高さの位置エネルギーを加えて頭に落とされたら只では済まない。下手したら死ぬ。何故俺にだけそんなに当たりが強いのか?
水澤は「ウー」と唸りながら、その目は正気の色を宿していない。これはかなりヤバい状況なのでは無かろうか?
「待て水澤… 話し合おう。何か誤解がある。俺達はきっと
「問答無用です!」
逃げ出す暇も与えてもらえない。水澤の無慈悲な声に俺は学習机による鉄槌を覚悟した。まさか遺言が「アビちゃん」等という間抜けな言葉になるなんて夢にも思わなかった。父さん母さん、親不孝な息子で申し訳ない……。
「どうどう! アビちゃんどうどう、落ち着いて!」
鉄槌は振り下ろされず、水澤は後ろからタカチャン先輩に羽交い締めにされていた。やはり暴走したウマ娘の超絶パワーを抑えるにはウマ娘を以てするしか無い。俺達「ヒト族」は何と無力な存在なのだろうか…?
「後生です! 離して下さい!」
「理由が何でも暴力は駄目だってば! ここ学校だから!!」
タカチャン先輩に耳元で言われて、さすがの水澤も落ち着きを取り戻してくれたみたいで、興奮して荒くなっていた呼吸も次第に鎮まっていった。
「だって
言うに事欠いて先輩の俺を指差して『あいつ』呼びしやがったぞ、この女。
「まぁまぁ。彼も悪気があって言った訳じゃないよ、そうでしょ?」
タカチャン先輩に話を振られて、俺は力を込めて頷きボタンを連打した。
「それにキチンと名乗らなかったアビちゃんも悪いよ? ウマネームはソウルネーム、文字通り『魂の名前』なんだからね。いくら嫌でも自分の名前として違和感が無いのは、
水澤は不満げにタカチャン先輩の言葉を聞いているが、声に出して否定する事はない。つまり本質としてタカチャン先輩が正しい事を水澤も分かっているんだ。
「それにアビちゃんの名前は多分男子が好きそうな名前だし、彼は笑ったり莫迦にしたりしないよ。見ててあげるから改めてちゃんと自己紹介してごらん?」
水澤はまだ口を尖らせており不満がありそうだが、やがて俺の方を向き直り深呼吸をした。
「はぁ〜、ふぅ〜… わ、私の
顔を真っ赤にしてヤケクソ気味に教えてくれた水澤のウマネーム、散々引っ張った割にはそんなにインパクトのある名前では無かったな。勇ましい系と厨二病系が混在しているが、なんならタカナチャンポン先輩の方がネタとしては強いと思う。
ただ確かに『奈落の野獣』と呼ばれて嬉しい女子が居るかと言えば、そんな娘はそうそう居ないであろうとは思う。
「いやぁ… 俺は普通にカッコいいと思うぞ…?」
俺は至って真面目に答えたつもりたったのだが、水澤は一瞬ハッとした表情を見せ、そこから更に顔を赤くして俯いてしまう。その数秒後、俺は何の前触れもなく水澤からビンタされるという、極めて理不尽な扱いを受けた。