【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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届け物と大御所

 水澤からLANEが届く。曰く「トレセン学園に借りた制服を返しに行くので一緒に行きませんか? そしてその後高尾山で山登りしましょう! お弁当作って持っていくので」だそうだ。

 

 制服を返しに行くのは良いが、水澤1人なのか? タカチャン先輩らは何をしているのか? そもそも郵送じゃ駄目なのか? 更に山登り? なぜ山登り…? まぁトレセン学園の近くには高尾山があるのは俺も知っている。知っているが何故…?

 

 色々と不可解な点はあるが、水澤の方から誘ってくれたのだから断るにも忍びない。とりあえず登山に関してだけツッコんでおいた。

 

「だって合宿で海に行ったから、今度は山でも良いんじゃ無いかな? って思ったんですよ」

 

 理由らしい理由がある訳でもなく、単に「山に行きたい」ってだけらしい。俺の体力的な不安は無いでもないが、強く反対するまでも無いと思い、誘いを了承した。

 

 ☆

 

 日本ダービーの時に東京レース場には行ったが、その近くにある中央トレセン学園への訪問は初めてだ。

 

 トレセン学園はあくまでも『学校』であり、通常は納品業者くらいしか部外者は入る事は出来ない。

 オープンキャンパス的な一部開放は時々行われるらしいが、それはトレセン学園への入学を希望する小学生ウマ娘を対象とした物であり、俺達には関係ない。

 

 トレセン学園は春と秋の年に2度ある『ファン感謝祭』の時のみ数日間だけ一般開放されるが、逆に言えばそれくらいしか俺の様な一般人はトレセン学園と接する機会が無いのだ。

 

「なんでそんなにカチコチに緊張してんですか先輩? あんまり挙動不審だと通報されちゃいますよ?」

 

 うるせーよ水澤! 俺だって分かってるよそんな事。

 

 トレセン学園の前まで来て、確かに俺の緊張はMAXになっていた。

 だってここには憧れのツキバミやブラックリリィ、そしてスズシロナズナを始めとするトゥインクルシリーズの花形選手が一堂に集って、切磋琢磨している場所だ。俺にとっては『聖地』も同然。緊張しない方がおかしいだろ。

 

「それに今は夏合宿の期間中だから皆出払ってて、学園に残っているのは何人も居ませんよ?」

 

 それも分かってる。まぁワンチャン誰か有名人に会えたらラッキーかな? 程度の期待はしているが、望みは限りなく低いだろう。

 

「どうせ受付の守衛さんに渡して『お終い』なんですから、さっさと終わらせてしまいましょう!」

 

 水澤の気持ちは、既にこの後に予定されている登山に向かっている様だ。水澤だってこの学園の入学試験を受けたんだろうに、その辺の葛藤的な物は無いのかよ?

 

 まだ動きのぎこちない俺を尻目に、水澤は閉じられた学園の門扉の横に居る守衛詰所へと駆けていった。

 

「あぁハイ、江戸城高校の生徒さんね。連絡は来てますよ。ちょっと待ってね…」

 

 とても人当たりの良い年配の守衛さんが対応してくれて、電話で誰か内部の人に俺達の事を何やら報告している。

 俺達としては借りていた制服を返納し、これで任務完了となる訳で、何のイベントも無いままトレセン学園を後にしようと踵を返した所でストップが掛かった。

 

「君達ちょっと待ってくれ! 生徒会長が少し話をしたいそうで、生徒会室に通す様に言われたんだよ。大丈夫かな…?」

 

 え…? どういう事…?

 

 ☆

 

「お忙しい所、急に呼び止めて申し訳ありません。私は生徒会長のトウザイブレイカーと申します」

 

 呼ばれた先で迎えてくれたのは、長い青毛を後ろで一本に編み込んだ、一見怖そうだけど深い慈愛の心も持っていそうな、一言で言うと『貫禄のある』ウマ娘さんだった。

 

 トレセン学園の生徒会長と言うと、『デビュー前から生徒会長職に就き、5年もの間生徒会長として君臨した』シンボリルドルフが有名だが、それ以外の生徒会長ウマ娘は、恐らく全くと言って良いほど世に知られていないだろう。

 

 生徒会長としてのトウザイブレイカーさんは全く知らないが、アスリートとしてのトウザイブレイカーさんは、昨年の天皇賞 (秋)に優勝している文句なしで一流のウマ娘だ。

 

 何故ここに呼ばれたのか、皆目見当もつかない俺と水澤は、トウザイ会長さんの言葉を黙って聞くしか無かった。

 

「本来なら私も合宿所に居るのですが、本日はたまたま所用で学園に戻っておりまして。そうしたら貴方がたが来園されたと聞き、慌ててお呼びした次第です。ご迷惑でなければ良いのですが…」

 

 ややはにかんだ風で申し訳なさそうにするトウザイ会長。俺は迷惑どころか逆に恐縮してしまっているが、水澤はつまらなそうに髪の毛をいじっている。そんなに山登り大事か?

 

「動画ではありましたが、貴方がたの舞台を拝見しました。学園生徒の思いを正確に映した、とても素晴らしい出来だったと思います。私。感動させて頂きました」

 

 なるほど、それを言うためにわざわざ招いてくれたのか、律儀な人だな。

 しかしここまでべた褒めしてもらえると、嬉しいを通り越して体中がくすぐったくなるなぁ。それにメインストーリーの組み立ては俺じゃなくて星埜だしね。

 

「ありがとうございます。トレセン学園の生徒さんの気持ちが少しでも表せていたなら我々も嬉しいです。脚本担当に伝えておきます」

 

 メインストーリーは星埜だが、各種細かい演出は俺の担当だ。これまで集めた資料と度重なる考察で、俺なりに『トレセン学園像』というイメージを勝手に作ったが、それらが全くの的外れではなかったという点は大いに誇って良いだろう。

 

「はい、次回公演も楽しみにしています。また当校を舞台とするのであれば、協力は(やぶさ)かではありませんので」

 

 トレセン学園の生徒会長さんにここまで言われて「演劇にはもう関わりません」とも言えないなぁ。前回以上に気合の入った作品を作らなくちゃならなくなってしまったな……。

 

「あ、あのっ!」

 

 今まで無言だった水澤がトウザイ会長に口を開く。どした? また変な事言わないでくれよ?

 水澤の人となりを知らないトウザイ会長は、興味深げに微笑みながら水澤の次の言葉を待っている。

 

「あの、ナズナ… スズシロナズナの今の状況って何かご存知無いですか…?」

 

 水澤の切実な声に、トウザイ会長が少し眉をひそめて困った顔をする。うん? もしかして何か良くない事になっているのかな…?

 

「本来はそういったプライベートな質問は、学園の広報を通してでないとお答えできないのですが… 私の知っている限りの話で良ければお答えしましょう」

 

 不安気な水澤の顔が少し明るくなる。確かにスズシロナズナに関しての情報は最近パッタリと途絶えてしまっている。元気で居るのかどうかすら発信が無いのだ。

 

「とは言え、私自身もスズシロナズナさんの状況はほとんど把握していません。心配はしているのですが『便りが無いのは良い便り』と思っております」

 

 トウザイ会長は力ない笑顔を見せる。生徒会長だからと言って全知全能な訳はないもんな。

 

「現在の彼女は手術も無事成功し、秋のレースで復活するべく現地(アメリカ)でトレーニングを開始した、という所までは聞き及んでいます。申し訳ありませんが、私もその程度でして…」

  

「ありがとうございます。それで充分です! あの娘、また走れる様になるんだ…」

 

 安心したのか胸を撫で下ろす水澤。トウザイ会長はそんな水澤を優しく見つめながら続ける。

 

「スズシロナズナは頭も切れるしガッツもあるウマ娘です。まだ少し走りにムラはありますが、精神的な落ち着きを得たら途轍もなく強くなるでしょうね。私も対戦してみたくなりますね…」

 

 そう呟くトウザイ会長の目は楽しそうでありつつも全く笑っていなかった……。

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