【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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登山とお弁当

〜水澤視点

 

 山に誘ったのは特に深い意味は無い。『落ち着いた場所でリラックスしながら話をしたい』だけだったのだ。鷹山先輩からのLANEに返事した通り、『前回のイベントが海だったから山で良いんじゃね? トレセン学園からも近いし』程度の発想だ。

 

「ひゃあ〜、スッゲー行列。これ待つだけで日が暮れないか?」

 

 電車を降りて数分歩いて高尾山の入り口に着いた。そこでケーブルカーだかリフトだかに乗って中腹まで行き、山頂までのんびり登山しながら持参したお弁当を食べてお話し… あわよくば告白まで持っていけたら良いなぁ、とはざっくり計画していた。

 

 しかし、トレセン学園で生徒会長から歓待されるというイレギュラーに加えて、まさかの大混雑で今ケーブルカー乗り場には長蛇の列が出来ていた。

 

「そうかぁ、夏休みだもんなぁ。そりゃ混雑するよなぁ…」

 

 鷹山先輩のテンションが明らかに低い。これはマズい。

 トレセン学園生徒会長に褒められて有頂天になり鼻の下を伸ばしていた鷹山先輩を、半ば引き摺るように連れ出したのはあまり良策では無かったと、今にして反省している。

 

 その時点でテンション低めだったのに、そこからのアクシデントは極力避けたいんだよなぁ。かと言って並んでいる行列に力で割り込む訳にもいかないし……。

 

 誤算、というか単にリサーチ不足だったよね。色々用意する時間も無かったし、ここから盛り返せる作戦を即興(エチュード)で作らなければならない。

 

 一応、高尾山にはいくつもの登頂ルートがあるらしく、入り口に『〇〇ルート』を集めた案内板が立てられている。

 

 元々登山が目的ではなく、告白する為の雰囲気の良さそうな場所が確保できればそれで十分なので、人通りの少なそうなルートが望ましい。

 加えて途中でひと休み出来そうなスペースがあれば尚良し。

 

「じゃあ先輩、こっちの『稲荷山ルート』って道で登ってみましょうよ。もし先輩が力尽きたら私が運んであげますから!」

 

 後日、私はこの『稲荷山ルート』が高尾山登山で最もハードなコースだと知る事になる……。

 

 ☆

 

「ハァハァ… なぁ水澤、これ本当にピクニックで行くコースなのか…?」

 

「う〜ん、ちょっと自身無くなってきましたね〜」

 

 稲荷山ルートとは、高尾山の主尾根とは別な南側の尾根を通るルートで、南向きで道は明るく道幅もそこそこ広い。

 8月の気候で直射日光に照らされれば暑く感じるのだろうが、今日はやや曇っており山の清浄な空気と相まって、とても過ごしやすい。

 

 階段も無く勾配のキツい坂が延々続くルートであり、そういう意味では『登山』に他ならないのだが、私も鷹山先輩もスニーカーで来ているせいか足へのダメージも少なくない。

 

 私はウマ娘だからスタミナ面での疲労はそれほど酷くはないのだが、ヒトである鷹山先輩はゼェゼェ言いながら重そうに足を動かしている。

 

「大丈夫ですか先輩…? やっぱり戻ってケーブルカーの列に並んだ方が良くないです…?」

 

 たまに他の登山客ともすれ違ったり追い抜かれたりするのだが、皆さん山に慣れているのか簡単そうにヒョイヒョイと登って(下って)行かれる。

 どうやら鷹山先輩は『それ』が面白くないようだ。

 

 私としては鷹山先輩が心配なので声を掛けただけなのだが、鷹山先輩はその言葉を『煽り』と受け取ったのか一瞬顔つきが険しくなる。

 

「バカにすんなよ。俺だって標準的な高校生男子の体力は持ってるんだよ!」

 

 そう言ってペースを上げ、目を剥きながら上を目指して歩き出した。もう、そういう意味じゃ無いのに……。

 

 鷹山先輩に「水澤はこういう場面で煽ってくる女子」だと思われているのが少し悲しい。まぁこれまでの付き合いで少なからず鷹山先輩を莫迦にする言動を取ってきた私が悪いんだけどね。

 

 幸いな事にまだ私には体力的な余裕はあるし、当初の目的通りグロッキーした鷹山先輩を助けて上げたら好感度上がるかな…?

 

 ☆

 

 そうして小1時間ほど歩いただろうか? 私達は屋根付きの東屋のある展望台へと辿り着いた。

 頂上はまだ先の様だが、東屋は休憩場所となっており、丁度いい日陰を作り出している。5、6人のお年寄り登山客が私達と同様に、山頂までの「ひと休み」をしている所だった。

 

 鷹山先輩はベンチに座って呼吸を荒くしていた。横にいたお婆ちゃん2人組の登山客が、鷹山先輩の事を心配そうに見ていて、なんだか申し訳なくなる。

 

「大丈夫ですか先輩? とりあえずお茶飲んで下さい」

 

 水筒に入れてきた冷たい無糖紅茶をコップに注いで差し出すと、鷹山先輩は何も言わずにコップを受け取り、そのまま一気に喉に流し込んだ。

 

「ハァハァ… サンキュー。水澤、頂上とやらはまだ先なのか…?」

 

「お兄さん大丈夫? ここからは道がなだらかになるけど、まだ少しあるわよ?」

 

 疲労困憊の鷹山先輩を気遣ったのか、2人組のお婆ちゃんの片方が話しかけてきた。軽装な割にハイキング帽と登山靴で、いかにも山慣れしている感じだ。私達も靴くらいちゃんとしたのを履いてくるべきだったと今更ながらに反省する。山を舐めていたね。

 

「ハァハァ、大丈夫です…」

 

 全然大丈夫じゃなさそうに答える鷹山先輩。心配ではあるけども、今からでは急斜面の多い往路をまた引き返すよりも、ここは頂上まで行って緩やかな、そしてケーブルカーに乗って帰れるルートを進んだ方が良いんだろうな、多分。

 

 こうも疲れ果てている先輩を前にして、告白とか出来そうな雰囲気が皆無なのは明らかに私の作戦ミスだった。せめてもっと足に優しいルートを選んでおけば少しは状況が違ったのだろうか…?

 

 そんな事を止め処なく考えていたら、おもむろに鷹山先輩のお腹から『ぐぅ~』という音が鳴った。

 

「とりあえず栄養補給を兼ねてお昼にしちゃいましょうか…?」

 

 鳴ったお腹を必死に隠そうとする先輩を『可愛いな』と思いつつ、私は持参したランチボックスの蓋を開けた。

 

 ☆

 

「ほぉ、サンドイッチか…」

 

「本当はもう少し頑張りたかったのですが、私の料理レベルではあり合わせの材料をパンに挟むしか出来なくて…」

 

 私から誘っておいて、しかも「お弁当作って持って行く」と宣言した以上、手ぶらは許されない。

 とは言え私には気の利いた料理の知識も技術もセンスも無く、不本意ながらも母を頼ってアイデアを貰い、いくつかの材料を買い増しただけのお弁当が誕生した次第だ。

 

「ふ〜ん、イチが珍しく気合い入れてそんな事をするなんて、お相手は例の部長さん?」

 

 母には何やら勘付かれているみたいだが、「そんなんじゃないから!」と否定しておく事しか出来なかった。

 

 水澤イチシェフのミックスサンド。そのお品書きは『コールスローサラダとスライストマト』、『炙りベーコンとスライスチーズ』、『ブルーベリージャムとホイップクリームと白桃ジャムの3層サンド』、『生ニンジンのスライスサンド』だ。

 

 生ニンジンはヒトはあまり食べない傾向にあるから、自分(わたし)向けとして、残りの3種で満足して貰えるかどうかがまるで自信が無い。

 

 鷹山先輩は細身だけど男子だから、一応量だけは多めに作ってきた。以前私がハンバーガーセット3つを平らげた事に驚いていたから、そこまでの食欲は無いのだろう、という想定だ。

 

「おぉ〜、美味そうじゃん! 腹減ってるから何でも美味そうだけど」

 

 鷹山先輩はホント一言多いよね。素直に黙って食いやがれ。そして「美味しい」って言え。私に惚れろ。

 

「これハムじゃなくてベーコンって所がポイント高いよな。炙って風味を増しつつ脂を落としてあるから食べやすい!」

 

 単に家にハムの買い置きが無かっただけなんだけど、一口目は高評価の様だった。




物語は2021年の設定なので、稲荷山ルートは本当に難所でした。現在は全体的に斜面には階段が作られて、かなり登りやすくなったそうです。
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