【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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ジレジレと自撮り写真

「ふー、食った食った。余は満足じゃ」

 

 水澤の作ってくれた3種のサンドウィッチは本当に美味かった。

 

 水澤は「家のあり合わせで作っただけだから」と、顔を赤らめたツンデレキャラみたいな返答をしていたが、例えその通りだとしても、美味かった事に変わりはない。

 

 その、何て言うか『愛情』?みたいな物を込めてくれたんじゃないかな? と願望半分で思ってみる。

 

「ハイハイ王様、お粗末さまでした。それで、どうです? 歩けそうです? 帰るにしても来た道を引き返すよりも、頂上から別ルートでケーブルカーとかに乗って帰った方が良いと思うんですけど…?」

 

 水澤は『自分用』と称して生ニンジンのスライスを挟んだパンをモリモリ食べている。あっちも気になるが単純に美味いのかどうか判断がつかない。

 ウマ娘(あいつら)は例外無く生のニンジンをそのままボリボリ食うからな。俺らヒトとは違った味覚があるのかも知れない。

 

「う〜ん、もう少し休めば大丈夫だと思う…」

 

 ケーブルカーの混雑を避けて、結果的に急斜面のコースを選んだのは水澤だが、それ以前に俺も水澤も山を舐めていた。もう少しグリップ力が強い靴を履いていたらここまでの疲労は無かっただろう。

 

「それじゃ私達は先に行きますね。あまり無理しちゃダメよ?」

 

 俺達に先んじて休憩していた婆さん2人組が立ち上がり、心配して声を掛けてくれた。とてもありがたくはあるのだが、老人に体力で負けているのは些か面白くないな。今この場に居るメンツで一番ひ弱なのは俺だよね。うん、面白くないわ。

 

「ありがとうございます。そちらもお気をつけて」

 

 俺がちょっと黒い事を考えている隙に、水澤がとっても優等生の顔で婆さん達を送り出す。 

 従って今この展望台の休憩所は俺と水澤の2人だけになった。昼飯も食い終わって、丁度話題の無くなるタイミングで2人だけになってしまった訳だ。

 

 何か言おうと思ったのだが、適切な話題が思いつかない。天気の話は今更だし、飯の感想は今しがた言ったばかりだ。少し気まずい雰囲気だな……。

 

「あの、先輩… 誰も居ないし、ここで少しお話ししませんか…?」

 

 水澤が恥ずかしそうに口を開く。お、おぅ… 俺もちょっと話したい事があるかもだぞ。

 

 2人の目が合い、水澤が少しはにかんでニコリと微笑む。くそ、可愛いな… 水澤は俺の事をどう思って居るんだろう? 聞きたいけど聞くのが凄く怖い。

 

「えっと、まずは舞台お疲れ様でした。脚本、演出、助演と大活躍でしたね。タカチャン先輩達もみんな鷹山先輩の事を褒めてましたよ」

 

「う、うん… 少し恥ずかしいけどな…」

 

 舞台に関しては俺は全くの素人だった。演出もトレーナー役も星埜の代役でしかない。慣れないなりにがむしゃらに振る舞って、偶然結果に繋がっただけだ。

 

「先輩… 私ね、ラストシーンの『ウイング行け!』のセリフが無かったら、あそこで芝居を止めて泣きながら家に帰っていたと思うんですよ。それくらい辛い場面だった…」

 

 まぁあのシーンは音響機材の不調のせいだから仕方ない。強いて言うなら機材チェックを怠ったタカチャン先輩が悪いな。

 

「あの時の先輩の『行け!』が今でも心に残ってるんです。まるでリアルでも応援してくれているみたいで…」

 

 水澤の頬がやや紅に染まって見える。その特徴的な猫型の瞳も潤んでキラキラしている様に見えたのは錯覚だろうか?

 

「俺もお前の演技を袖から眩しい思いで見ていたよ。まるで本当に『サウザンドウイング』というウマ娘が実在しているみたいだった…」

 

「ホントですかぁ? あははぁ、嬉しいな… 真面目に役者目指したらイケると思います?」

 

 何度も言うが俺は舞台や演技は素人だ。専門的な水澤の良し悪しが分かる訳も無い。

 ただ水澤が役者として開花したら、俺の前から居なくなってしまう気がして胸の奥がチクリと痛んだ気がした。

 

「イケるかもなぁ… そうなれば嬉しさ半分、寂しさ半分だよなぁ…」

 

 何とも判断の付かない話題だ。俺の答えも宙ぶらりんの事しか言えないよ。

 

 だがこの答えは水澤の気に入った物だったらしい。水澤は嬉しそうにニンマリとした表情を浮かべる。

 

「先輩、寂しく思ってくれるんだぁ… えへへ…」

 

 そこまで言って失言を自覚したのか、水澤はハッとした顔で我に返り、慌てて首を振る。

 

「あ… な、何か変なこと言ってますよね私… ははは…」

 

 ここでピンと直感する。水澤から誘われた今回の登山だが、『登山』自体が目的では無さそうだと言うのは予感があった。

 

 水澤は何か別の事を話したいのだが、何らかの理由で本題に入り切れないでいる。だから何かと胡乱な言動になっているのだろう。

 

「水澤… 今日誘ってくれたのは登山とは別の目的がある。そう考えて良いかな…?」

 

 俺の言葉に水澤は一瞬固まる。そして嘘が露見した子供の様に恐る恐る俺の方へ目を遣った。

 

「あ… やっぱり鷹山先輩はそういうところ鋭いですよねぇ… それとも私が分かり易いのかな…?」

 

 水澤は顔を真っ赤にして下を向き、ブツブツと独り言を始めている。どうにも挙動不審だな。

 学校や部の人間には聞かれたくない何か言いづらい事があって、こんな山にまでやって来てまで伝えたい事とは?

 

 何かマイナスな心情の発露であれば、遠出して弁当を持参したりする必要も無かろう。

 逆にプラスの心情ならば2人きりで話す意義はあるだろう。例えば『告白』とか…?

 

 水澤は俺に告白する為に今回の登山を仕組んだのか? 弁当まで持ち込んで、傍から見ればまるで『デート』だもんな……。

 

 ここで俺も女性関係の経験値の低さから気の利いた言葉が出てこない。顔に熱を感じるので、多分俺も赤面して居るのだろう。

 結果的に言葉を失くした男女2人が、互いに次の言葉を待ちながら沈黙する、とても気まずい状況になってしまった。

 

「あ、あの先輩。2人で写真撮りません?」

 

「は…?」

 

 唐突な水澤の提案に俺の思考回路は緊急停止する。今までの話の流れから、どうしたら写真撮影に変わってくるのか…? 

 

「ほ、ほら! 山に来た記念と言うか何と言うか… せっかく展望台に居るんだし、見晴らしの良い所で撮りましょうよ、ねっ?」

 

 いや「ねっ?」って言われても必然性というものがだな……。

 

「ダメですか…?」

 

 だからそこで悲しそうな顔をして俺を覗き込むな。俺が悪者みたいじゃないか!

 

「いやまぁ、別に良いけど…」

 

 正直水澤とツーショットだなんて、どんな顔をしたら良いのか分からない。水澤に腕を引かれ展望台の縁まで移動する。展望台の柵の外、下の斜面は急では無いが少し怖い。

 

 斜面を背に2人で並び立つ。水澤は俺の左隣で、自撮り棒を取り付けたスマホを左手に掲げている。

 

「じゃあ撮りますよ〜? はいチーズ!」

 

 水澤は「はいチーズ」の瞬間に俺の左腕に自分の右腕を絡めてきやがった。

 笑顔目線共にバッチリで『してやったり』という顔の水澤に対して、俺は奇襲を受けて鳩が豆鉄砲食らった様な顔をしている。これはちょっと酷くないか?

 

「あははははは! 先輩キョドっちゃって可愛い〜!」

 

「な?! お前、それは卑怯だぞ! やり直しを要求する!!」

 

「イヤですぅ〜、これは皆に見てもらうんですぅ〜」

 

 傍目にはカップルがイチャイチャしているシーンに見えるかも知れないが、俺としては尊厳の掛かった本気のシーンだぞ。

 あんな写真を演劇部の奴らに見られでもしたら、恥ずかしくて生きていけない。

 

「とりあえずスマホ寄越せ! 撮るなら俺が撮ってやる!」

 

「イヤぁだ〜。先輩危ないって… あっ?!」

 

 自撮り棒ごと上に上げてスマホを取られまいとする水澤、そしてスマホを強奪しようと手を伸ばした俺。

 

 そのままバランスを崩して、水澤の手から離れたスマホは真っ直ぐ斜面を滑り落ち、やがて見えなくなってしまった……。 

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