【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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スマホと事故

「あぁーっ、あたしのスマホーっ!! もぉ〜! 何してくれてんですか先輩!?」

 

 水澤がおこである。これは俺が悪いのか…? まぁ俺が手を出さなければ水澤のスマートフォンが手からスッポ抜ける事も無かったのだろうから、俺が悪いのだろう、多分。

 

「悪かったって。んじゃあ、ちょっと降りて拾ってくるよ、そんな遠くには行ってないだろうからすぐ終わるだろ」

 

 安全柵を跨いで斜面に降りようとしたのだが、そこで水澤に袖を掴まれて止められた。

 

「そんな、危ないですよ。先輩まだちゃんと体力回復してないんでしょ? 行くなら私が行ってくるから、先輩はここで待ってて下さいよ」

 

 そう言いながら水澤も柵を跨いで来た。水澤の言うことも尤もなのだが、ここで水澤に取りに行かせたら、俺の男としての面子がまるで立たなくなるだろ。ここは譲るべきでは無い。

 

「いや、ここで滑ってお前に怪我でもされたら、いよいよもって俺の立つ瀬が無い。ここは俺の男を立てると思って…」

 

「ほらあそこ、引っ掛かっているのが見えるから、ちょっと行ってパパっと取ってきますよ」

 

 俺の発言を遮って、水澤は1人で斜面を降り始めた。

 当然俺も水澤の後について降りようとしたのだが、そこで下にいる水澤からストップが掛かった。

 

「ちょっとこの辺滑りやすいんで、先輩は上から引っ張り上げて下さい。それまでそこで待ってて」

 

 それだけ言うと水澤は俺の返事も待たずに、1人でずんずんと斜面を降りて林の中へと進んで行った。強引な奴だ。

 

 良いのかな…? 確かに2人で降りるより効果的な作戦であるのは確かだが、上から引き上げるのであれば、俺じゃなくて水澤がやった方が良かったのでは…?

 

 どのみち水澤は1人で奥に進んでしまった。やがて30m程離れた斜面下りの途中で、木の枝と見紛う様なスマホの自撮り棒らしき物を拾い上げるのが確認出来た。

 

 スマホを回収した水澤は、こちらに向けて歩き出す。

 

「ちょっと滑りやすくなっているので、先輩も気を付けて」

 

 こちらに右手を差し伸べ、慎重に足場を確かめながら登ってくる水澤。俺も近くの木の枝を掴んで水澤に左手を伸ばす。

 

 2人の手と手が重なり、大昔の栄養ドリンクのCMみたいな構図になる。俺が「ファイトーっ!」って言ったら、水澤は適切な返しが出来るだろうか?

 

「私が勝手に上がって行くから、先輩の方で無理に引っ張らなくて良いですからね…」

 

 などと言いながら握った手に力を入れる水澤。前に身体データを見せてもらった際、ウマ娘(みずさわ)の握力は130kgを超えていた。

 

 これは水澤の今出してる力が半分だとしても、ほぼ俺の体重と変わらない圧力が、俺の左手に掛けられている事になる。普通に痛い。引っ張り上げるどころか、痛みで手を離してしまいそうになる。だがしかしここは我慢だ……。

 

「そのまま先輩の腕を登って行くので、動かないで…… あっ!!」

 

 水澤は「あっ」のタイミングで足を滑らせ、前のめりに転倒する。彼女の全体重の負荷を受けた俺もバランスを崩して、踏ん張りが効かなくなる。

 

 更にタイミング悪く俺が体勢維持の為に掴んでいた木の枝がポッキリと折れた。

 

 俺と水澤は体を支える物が何も無いまま、2人で手を繋いだまま山の斜面を滑落し、前方の林の中へ突入して行ったのだった……。

 

 ☆

 

「あいたたた… あーもー、泥だらけだよ… 先輩、大丈夫ですか?」

 

 すぐ隣の水澤の声で俺も意識を覚醒させる。口ぶりから水澤は大きな怪我をしていない様に思われる。とりあえず良かった……。

 

 俺自身は… ちょっとヤバいかも知れない。落ちた勢いで木に背中を直撃したらしく、肩甲骨の辺りがメチャメチャ痛い。

 痛いけど多分骨折や刺傷での出血は無いと思う。強く打っただけじゃないかな…? それよりもっと深刻なのが……。

 

「なんとか生きてる… でも背中痛い… あと右の足首がメッチャ痛い。これ多分捻挫してるわ…」

 

 山で事故って怪我しちまったか… まぁ俺で良かったよ。水澤に怪我される方が何倍もツラい。しかし困ったな、これじゃ歩けないぞ……。

 

 水澤の顔は困惑した感じではあるが、混乱した様子は無い。冷静にこの事態を受け止めて対処しようとしている風に見えた。

 

「えっと、とりあえず湿布薬と包帯は有りますから、それで応急手当しましょう。骨折の可能性もあるから動かない様に固定して、と… 慣れない登山での筋肉痛対策で持ってきたけど、無いよりマシです」

 

「用意が良いな。なんかスマンな、大ごとになっちまって…」

 

 水澤が処置しやすい様に靴と靴下を脱ぐ。夏場で運動した後の足の匂いとか、好きな女に嗅がれたくはないな。足の匂いが原因で嫌われたらどうしよう…?

 

 水澤は慣れた手つきで俺の足に湿布薬と包帯を巻き、足首が動かない様に簡単な添え木までしてくれた。

 

「ほら、ウマ娘って小さい頃から高速で走っているから、転んだり擦ったりの小さな怪我って割と日常茶飯事なんですよ。昔はよく転んだミヨの手当てとかしてました」

 

 フンスと得意げに鼻息を荒げて俺にドヤ顔を見せつける水澤。『ミヨ』って確かダービーの時に会った、水澤の幼なじみの『マッハドリル』さんだよな。確かにあの人はオッチョコチョイなイメージがある。

 

 確か演劇部合宿の時も、浮かれて俺を背負って快走した水澤は『緊急搬送用の背負い方』を習ったと言っていたし実践していた。

 

 余談だが、レース場での誘導ウマ娘の仕事の1つに、「レース前のウマ娘をゲートに導く」とは別に「レース中の事故発生時に、速やかに現場に赴き応急手当等の処置をする」という物がある。

 

 水澤の言う様に、ウマ娘は子供の頃から時速数十kmで走っている。不測の事故などは本当に日常茶飯事なのだろう。

 恐らく水澤以外に演劇部の2人等も「それなり」の医療技術があるのではなかろうか?

 

「ふう、ありがとう。添え木のおかげでかなり痛みは和らげられているよ。さて… ここからどうやって上に上がるか…?」

 

 水澤は怪我をしていないのだろうか? あれだけ派手に転がり落ちたんだ、打ち身や擦り傷が無いはずは無いだろうに……。

 

 俺達が落ちた時、タイミング最悪な事に展望台には他に誰も居なかった。つまり俺達の滑落を目撃した人も、通報してくれる人も居ないという訳だ。自分達でどうにかするしか無い。 

 

「素直に通報して助けてもらうか… こういう時って警察と消防どちらに連絡すれば良いんだ…?」

 

「ん〜、そのどちらかは分かりませんけど、どっちにしてもここ携帯の電波来てませんよ…?」

 

 水澤が泥に汚れた自分のスマホを掃除しながら、俺の呟きに答える。マジかよ、つまり救助は望めないって事か…?

 

「あ、ホントだ。俺の携帯も圏外だわ…」

 

 う〜む、これは困った事になったぞ……。

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