【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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負傷とサバイバル

「困りましたね… どうしましょう先輩…?」

 

 いや、「どうしましょう?」と言われても俺は山に関しては全くの素人で、今は携帯電話の電波も届かず検索して調べる事もままならない。

 

 憂い顔の水澤を見る辺り、ちょっとした救急スキルはあっても山でのサバイバル知識は俺と大差無さそうだ。

 

「うーん、『どうすれば良いのか』は俺も全く分からない。とりあえずいくつか議題を出していくから、水澤の意見を聞かせてくれ」

 

 俺の言葉の意味、というかこれから話すシステムを計りかねたのか、水澤は分かって無さそうに「はぁ」と力無く頷いた。

 

「まず『この場に留まって救助を待つか? 移動して自力で助けを求めるか?』だ。どっちが良い?」

 

 水澤は『あ、そういう感じなのね』と得心したようで、俺の質問を「う〜ん…」と吟味しだした。

 

「まず先輩は足を怪我しているから歩けませんよね? だとしたら私が1人で行って助けを呼んできた方が良くないですか?」

 

 うむ、それは俺も最初に考えた。しかしだ……。

 

「それでお前はこの目印も無い藪の中に、助けを連れて正確に戻って来れるのか?」

 

「あ… 多分無理ですね…」

 

 そうだろう? その辺はすでに考えてあるんだよ。

 

「うん、だから俺ら2人は離れない方が良いと思うんだよな。だから『動くか否か』を最初に聞いたんだ」

 

「なるほど… ここに留まっていても助けが来るかはかなり微妙だし。動けるうちに動いておきたい気持ちもあります。その場合は私がまた先輩を背負っていきますから」 

 

 夏の高尾山なら多数の登山客がいるから、滑落した今の地点でも大声を出せば誰かに気付いてもらえる可能性はそれなりに高いだろう。

 

 もちろん声を上げても誰の耳にも届かない場合も十分にありうる。これは賭けだよな。

 

「私としては、私が動けるうちに少しでも人里近くに移動しておいた方が良いと思います」

 

 そうだな。確かに移動するとなると水澤に頼らざるを得ない訳で、水澤が水不足や疲労から動けなくなるとそのまま2人とも詰む事になる。

 

「よし、じゃあ移動しよう。次は上に登って元の道に降るか、このまま斜面を降りて登山道に突き当たる幸運を祈るか、だが…?」

 

「う〜ん、登った方が確実なんでしょうけど、私も先輩も靴が普通の運動靴なので、また滑り落ちる可能性を考えると上へ登るのは怖いですねぇ。蹄鉄付けた靴だったら滑ったりはしないんだけどなぁ…」

 

 蹄鉄靴はウマ娘特有の概念なので、ヒトたる俺にはよく分からん。レース以外で使うのかどうかも知らないし、ましてや『登山用蹄鉄』なんてのが存在するかどうかも知らないんだ。

 

「じゃあ降るか… 上手く道に出られれば良いけどな…」

 

 あまり蹄鉄に気持ちを持っていかれても仕方が無い。でもちょっと興味は湧いたな。無事生還できたら調べてみるか……。

  

「そうと決まれば早く移動しましょう。はい先輩、私の背中に乗って下さい」

 

 水澤はそう言って俺に背を向けてしゃがみ込む。水澤に背負われるのは2回目だが、今と前回とでは水澤に対する気持ちが若干変わっている。

 水澤がウマ娘であるという点を考慮しても、好きな女に背負われるという状況は男としてあまり好ましくない。まぁ今の場合、是非もないんだけどね、やっぱりちょっと照れるよね。

 

 水澤に背負われて移動を始める。水澤は慎重にまた滑らない様に、神経の隅々まで気を張って足を進めている。2人分の体重が掛かっているのだ、少しバランスを崩すと、また2人して転がる羽目になる。

  

「…しかし俺たち現代人は本当にスマホが無いと何も出来ないんだなぁ」

 

 集中している水澤に水を差さないか? と少し心配しながらも沈黙が怖くて水澤に話しかける。

 

「ですねぇ…」

 

 対して水澤は、こちらに気を配るわけでもなく集中したまま、藪の生い茂る斜面で滑らない場所を足先で探っている。これは邪魔しない方が良さげかな…?

 

「あ痛っ!」

 

 唐突に水澤が声を上げ、左手で右腕の上腕部を押さえだした。どうやら藪を掻き分けた時に枝が跳ねて、それが水澤の腕を傷つけたらしい。

 

「大丈夫か?!」

 

 俺は慌てて水澤の背から降りる。いい具合に水澤の両手が離れた事で俺の体が拘束から解かれた形になった。

 着地の衝撃で捻挫した足に激痛が走ったが、今はそれどころではない。

 

「大丈夫です、かすり傷… でもちょっと血が出ちゃったので少し待ってて下さい…」

 

 先ほど俺に使ってくれた水澤の腰にある医療品ポーチから、水澤は携帯型の消毒薬と包帯の俺の使いさしの包帯を取り出した。

 

 自分で処置しようとする水澤だったが、片腕、それも利き腕では無い方で作業をしようとしても上手くはいかない。

 

「無理すんな。俺がいるんだからそれくらい頼れって…」

 

 悪戦苦闘している水澤から消毒薬と包帯を奪い取る。俺は足を怪我していても両手は無事なんだ。俺にやらせてくれよ。

 

「あ、ごめんなさい先輩。先輩も足痛いのに…」

 

「2人で遭難してるんだから、ここは助け合わないとだろ? このまま干上がりでもしたら目も当てられん」

 

 今はとにかくこの状況からの脱出が最優先だ。日をまたぐ位なら何とか生き延びられるだろうが、万が一にも何日もサバイバル生活するとなったら、水や食料の確保等々考えなければならない事は山ほどある。

 

 たかが高尾山で、という意見もあるだろうが、現に怪我人2人がこうして難儀しているのだ。どんなに低かろうと山を舐めてはいけない。

 まぁ山を舐めていたからこそ、今の悪い状況がある訳なのだが……。

 

 それにしても水澤の傷は思ったより深かった。一応消毒して包帯を巻いたが、そこからまた薄っすら血が滲んできておりあまり楽観的な状況では無い。

 

「まだ動かすと腕が痛いけど、なんとかなります。さぁ行きましょう!」

 

 水澤の声に応えて再び彼女の背中に乗る。肩から回した俺の腕を水澤が掴んでいるのだが、怪我をした右腕は力が入らなさそうで、かなりグリップが弱い。

 逆に左腕は俺を落とすまいと余計に力が入っており、俺の左腕の血流が止まるのではないかと思える程に強く握られている。正直メッチャ痛い、でも我慢だ。

 

 ☆

 

 水澤に背負われながら足元の悪い斜面を下って行く。周りは藪で覆われて、全周ともに視界は10m位しかない。

 これでは登山道に近づいているのか否かも分からないが、水澤はまるで道が分かっているかの様にずんずんと藪を掻き分けて進んで行く。

 

 そして少し開けた場所に出たのだが……。

 

「えぇ、嘘ぉ… まさかの行き止まり…?」

 

 鬱蒼とした藪を抜けた先に待っていたのは、高さ2m余りの大きな岩壁だった……。

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