【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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救助と両親

 岩を乗り越えた先はまた深い藪が続いていたが、その奥から微かに差し込む光があった。

 

「先輩、この藪の先は間違いなく登山路ですよ。ヒトの声が聞こえます!」

 

「おお、遂にやったな水澤! ここからならもう迷わずに行けるよな?」

 

 俺としては水澤が1人で救助隊を呼んできてくれる展開を考えていたのだが、ここから水澤の行動は常軌を逸していた。

 

 水澤は岩場に仁王立ちしながら大きく息を吸いこんで、口を大きく開いた。

 

「助けてくださ〜いっ!! 遭難してま〜すっ!!」

 

 え? ここから叫ぶの? さすがに豪快すぎないか?

 

 水澤の高い声は山の斜面に反射して、山びことまではいかないが、かなり遠くまで響き渡った。

 

 そして数分後、まさかの展開だが、本当に声を聞き付けたキャンパー達が数人、藪を掻き分けて俺達の居る岩場までやって来たのだった。

 

「君たち、大丈夫かい? 怪我はしてないか?」

 

 いかにも山に慣れた感じのオジサンが代表して声を掛けてきた。遭難して打つ手が無かった時の事を思い返して、こういう時の他人は本当にありがたいと感じる。人間って良いよな……。

 

「こちらのヒトは足を捻挫して動けません。私は腕を切ってしまって…」

 

 状況に感動してリアクションが遅れてしまった俺に代わって水澤がオジサンに答える。

 

「分かった。今救助隊を呼ぶからそこで動かず大人しくしていなさい。水や食料はまだあるか?」

 

 オジサンは取り出した携帯電話で救助隊を呼んでくれている。水やらはまだ余裕があるから「大丈夫です」と水澤が断っていた。

 

 俺はふと気になって、自分のスマホを取り出して画面を点けた。

 

「なぁ水澤よ…」

 

「何ですか先輩?」

 

「今居るここって携帯の電波入るんだな…」

 

「あ… すっかり忘れてましたねぇ…」

 

 つまり無理して岩登りしなくても、そこから携帯が通じた可能性が高かった、という事だ。まぁ今更の話だが。

 

 なんとも締まらない間の抜けた会話だが、俺も移動中に気が付かなかったのだから、あまり偉そうな事も言えない。お互いにそれどころでは無かったしなぁ……。

 

 疲れた顔の男女2人で見つめ合って、同時にプッと吹き出して、互いの酷い顔を見ながらゲラゲラと笑い合った。下で待機しながら付き添ってくれていたオジサン達は、それはそれは不思議そうな顔をしていたな……。

 

 ☆

 

 結局俺達は高尾山の山岳救助隊に助けられて、近場の病院へと送られた。

 

 俺は捻挫なので湿布薬とバンテージによる固定をしてもらいそのまま帰っていいと言われた。

 水澤は怪我をした後に無理して力を入れてしまった事もあり、少し肩の関節を痛めてしまったらしい。腕の傷自体も5針縫ったそうだ。意外と重傷だったのに頑張ってくれたんだな……。

 

 俺達の家族にも連絡が行き、水澤の家族が車で迎えに来てくれるという話になった。俺の家族は車持って無いんだよね。

 

 という訳で、水澤家の親御さんとの意図しない初お目見えのなった次第だ。

 イヤだなぁ。水澤の親父さんの話は聞いた事が無いけど怖い人じゃないと良いなぁ… 「よくもウチの大事な娘を傷物にしてくれたな? 指一本で済むと思うなよ?」とか言われないよなぁ…?

 

 ☆

 

「初めまして。イチの母の水澤 オキオデルデアボロです」

 

 空も暗くなる頃、とても普及してはいるが、それなりにお高いハイブリッドのセダン車から降りてきたのは、水澤をそのまま加齢したような美貌と、妙に色気のある栗毛のウマ娘マダム。そしてそのボディガードみたいな、やたらガタイの良い寡黙そうなオジサンだった。

 

「あ、あの、鷹山と言います。水澤… くんと同じ部活で、部長、やってます… 今日はスミマセン、お嬢さんに怪我をさせてしまって…」

 

 自己紹介も口が重い。怪我をした原因も俺が水澤のスマホを奪い取ろうとしたせいだからな。変に言い訳とかもしない方が良さそうだ……。

 

 本当は何も問題が無かったのなら水澤母の名前にも「あんだって?!」とツッコみたかったのだが、今は空気を読んで大人しくしておこう。

 

 そして恐らくは水澤の父親であるガタイの良いオジサンが一言も喋らないのが凄く怖い。俺はこのまま倉庫に拉致られて、水澤の両親からボコボコに殴られて海に捨てられるんじゃないよな…?

 

「うふふ、大事には至らなかったのだから気にしないでちょうだい。こちらこそ足を怪我させてしまって申し訳無いわ…」

 

 水澤母が申し訳無さそうに俺に頭を下げてくる。水澤父 (?)はずっと無表情で黙ったままだ。やはり怒っているのか…?

 

「あぁ、主人の事は気にしないで。この人普段から『寡黙(こう)』だから。多分だけど怒ったりしてないわ…」

 

 水澤母が水澤父に目配せすると、水澤父はほんの少し顔を赤らめて無言のまま頷いた。恥ずかしがり屋さんなのかな…?

 

 とりあえず海に捨てられるのは回避出来たと思って良いのだろうか? このまま車で俺の家まで送ってくれる話になっているのだが、そこから俺の家族ごと… という可能性もまだ…?

 

「鷹山部長さんのお話は娘からよく聞いてますよ。イチがいつも楽しそうに貴方の事を話すので、いつかお会いしたいと思っていたんです」

 

 皆で車に乗り込んで、水澤母が開口一番にぶっ込んできた。うぅむ、気になる話ではあるが乗って良いものなのだろうか……。

 

「ちょっとお母さん、変な事言わないでよ?! 先輩、あの、何でも無いですからね!?」

 

「何でも無い事無いでしょう? 大した材料も無い中あんなに頑張ってお弁当作ってたのに… ねぇ鷹山さん、今日のお弁当どうでしたか? イチ(このコ)凄く頑張ったんですよ?」

 

「お母さん、もうやめて…」

 

 グイグイ来る水澤母と顔を真っ赤にして弱々しく抗議する娘。水澤家のパワーバランスがよく分かる構図だな。

 

「はい、とても美味しかったです。山で食べるサンドウィッチは最高でした」

 

「あら良かったわねぇイチ。部長さん美味しかったってさ」

 

「それもう本人から聞いたから…」

 

 水澤母は水澤娘をイジる方向にしたらしい。水澤父は無言のまま運転しているので、会話の中心は自ずと水澤母になる。

 

 水澤も俺の前でイジられるのは少し可哀想かな? と思わなくも無い。よし、ちょっとくらいは気を利かせてやるか……。

 

「あ、あの… 水澤のお母さん… お母さんのお話を伺っても良いですか…?」

 

 水澤母もウマ娘だ。タカチャン先輩の高井家とも違い、ウマ娘の母親としてのウマ娘は俺にとって初めてのパターンであり、以前から色々と聞きたい事があったのだ。この機会を逃したくはない。

 

「え…? やだ… 私みたいな人妻のオバサンに興味があるの…?」

 

 水澤母がそう答えると同時に、乗ってきた車に急ブレーキが掛かり水澤父が物凄い形相で振り返ってきた。睨むだけで何も言ってこないのが逆に怖い。

 

 そして俺の隣の水澤も俺に対して『信じられない』という顔で見つめてきた。

 

 ちげーから! そーゆーんじゃねーから!!

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