【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「いや、あの… そういうんじゃなくて。僕は『比較人類研究部』の活動として、ウマ娘の事を色々と調べているので、そっち方面でお話を聞けたらなぁ、と…」
「あらそうなのね。オバサンちょっとトキめいちゃったわ」
イタズラっぽい目をして水澤母は微笑んでいる。絶対に分かっててからかっているだろコレ。
全く、水澤とほとんど同じ顔をしているが故に物凄くやりにくいぞ……。
「もぉ、お母さん浮かれ過ぎ! 先輩も鼻の下伸び過ぎです」
水澤がジト目でツッコんでくる。違うんだ水澤、俺は決して疚しい思いなど無くてだな……。
「うふふ。そうね、イチの反応も含めて今凄く楽しいわ。それで、部長さんは私に何を聞きたいの…?」
何故かよく分からないがご機嫌な水澤母だが、俺の話は覚えてくれていた様だ。
聞きたい事は無限にあるのだが、まずは……。
「えっと、結構ご立派なお名前の様にお見受けしましたけど、何か由来でも?」
先ほど自己紹介された『水澤 オキオデルデアボロ』という名前はかなりインパクトがあった。それこそ『アビスビースト』よりも衝撃度は高い。
「えっと… 確かイタリア語で『悪魔の目』とかいう意味だったかしら…? ごめんなさいね、地味な名前で」
全然地味じゃねー! かなり派手だと思うわ。くそっ、このお母さんの軽快な喋りに釣られてついついツッコミをしたくなる。
「ありがとうございます。それで、その… 失礼ですが『悪魔の目』というお名前に抵抗はありませんでしたか…?」
すぐ隣に『アビスビースト』という名前を嫌って、走りを引退したウマ娘がいるのだ。どういう立ち位置なのか確認しておく必要がある。
「う〜ん、現役時代は結構厨二病入ってたから、割と気に入っていたかも。今でも嫌いじゃないわ。だって自分の『魂』の名前ですもの。ねぇイチ?」
「なんでこっちに振ってくるのよ?」
再び母娘の視線がバチバチと交わる。確か水澤母は佐賀のトレセン学園でAクラス(地方GⅠクラス)の実力者だったと聞いている。
母として娘に志しを託すべく、中央トレセン学園に進ませられる位に育てたものの、「名前が嫌だ」として引退された無念の気持ちは推し量って余りある。
こりゃ余計な事を言っちまったかな…?
でも水澤は岩を登る時に「アビスビーストだ!」と大きく宣言した。やっぱり水澤母やタカチャン先輩の言う通り、水澤も心の奥では『魂の名前』として受け入れているのだろう。
俺としては『水澤 イチ』でも『水澤 アビスビースト』でも構わない。水澤本人が名前で悩まない生活を送ってくれればそれで良いと思うんだけどな。
水澤も水澤母も一瞬険悪な雰囲気になるが、両者とも
「逆にお聞きしていいかしら? 鷹山さんは何故そんなにウマ娘がお好きなの? ヒトのお嬢さんには興味ないの?」
お母さん、それは誤解です。俺は別にウマ娘専の性癖という訳ではなく、普通にヒト女子も好きですよ? ウマ娘の人間離れした性能の秘密を解き明かしたいだけで、ウマ娘とお付き合いしたいとかそういうんじゃないですから。
まぁ好きになった娘がたまたまウマ娘だった、ってだけの話っすよ……。
俺は水澤母の誤解を解くべく、上記の内容と共に小学生時代の事故でウマ娘に助けてもらった話や、今年に入ってからの水澤との苦労話のアレヤコレヤを力説した。
もちろん『好きになった』云々は秘密でな……。
そうこうしているうちに水澤父の運転する車は、俺の自宅の最寄り駅の近くまでやって来た。
「あ、ここまでで良いです。送って頂いてありがとうございました。お話楽しかったです」
最初は自宅前まで送ってもらう話だったのだが、最寄り駅までで断った。
駅からならバスがあるし、自宅まで送ってもらうのも気が引けたからだ。
山で捻挫はしたが、治療のおかげでかなり痛みは引いたし、駅からなら問題なく帰れると判断したのだ。
「私もお話できて楽しかったわ。今度は是非我が家に遊びにいらして」
サラッとんでもない事を言い放つ水澤母。水澤も「ちょっとお母さん!」とツッコんでくるが、水澤母は意に会する素振りも見せない。
「じゃあイチ。貴女もここで降りて鷹山さんをお送りしなさい。貴女は電車で帰れるでしょ? 怪我人を1人で放り出すのは我が家の主義に反します」
お? またなんか知らない話が出てきたぞ。水澤家には何やらご立派な家訓的な物でもあるのかな…?
「何よその主義って? 私知らないよ?!」
娘も知らない家訓らしい……。
☆
車を降ろされた俺と水澤。このまますぐバスで帰って水澤を返却しても良いんだけど、次のバスまで時間が30分以上ある。
駅のロータリーで30分も立ち話するのも味気無いし、とりあえず近くのファーストフード店で時間潰しがてら、今日の総括をしようという話になった。ちょうど小腹も空いてきたしな。
店の2階席は喫煙席なので、禁煙の3階席に移動する。俺も水澤もタバコの臭い苦手なんだよね。
3階は俺達以外の客はおらず貸し切り状態。俺達はテーブルを挟んで対面で座る。
「先輩ごめんなさい。もぉお母さんが騒々しくて…」
開口一番、水澤からは母親に関する謝罪が来た。俺としては全然不快に思っては居ないので謝罪の必要は全く感じない。
「いや、明るくて愉快なお母さんじゃないか。俺はああいう人好きだよ…」
軽い雑談のつもりで答えたのだが、水澤は顔をしかめて怒りと嫌悪感を含ませた様子で俺を見ている。なんなんだよ…?
「好きなんですか? 母の事…」
「だから違ぇーって! 『明るくて楽しい人』だとは思うけど、女性としてどうこうって話じゃないよ」
こちらも間髪入れずに返す。年増好みだと思われても困る。
水澤は一瞬嬉しそうな顔になったものの、すぐにまた暗い顔をして「はぁ〜」とため息を吐いた。
「なんか今日は朝から色々ズレててシャッキリしないんですよねぇ…」
「そうなのか…?」
そう言われれば確かに、トレセン学園で生徒会長さんと話していた辺りから水澤の様子は少しおかしかった。
俺は自分の都合だけで長話をしてしまったり、水澤の事をあまり気にかけて居なかったかも知れない。
「そうですよ。衣装返して、山登って、お弁当食べて、全部スパッスパッと進行させて、最後に雰囲気良い所で告白しようと思ってたの、に…」
ブツブツと独り言の様に愚痴っていく水澤だが、最後に何か凄い事を口走っていた。