【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
〜水澤視点
「え… あ、あの、違うんです! そうじゃなくてその… 何と言うか… えっと…」
あぁ〜、やっちまった……。
よりにもよって「告白したかった」だなんて一番漏らしちゃいけない本音をポロリと漏らしてしまったよ。
過去イチ恥ずかしい… これまでになく顔が熱い。多分今の私の顔は完熟リンゴよりも赤いはずだ。
恥ずかしくてこの場に留まれない。一度仕切り直さなければこの先生きていける自信がない。
「あの… すみません、ちょっとトイレに!」
やにわに立ち上がり避難を試みる。心を落ち着かせる時間と、さっきの失言を誤魔化す言い訳を考える時間が必要だ。
『!!!?』
後ろを向いた瞬間、私に手を伸ばしてきた鷹山先輩に手を握られた。
私はウマ娘だ。彼の手を力で振りほどく事は造作も無い。だが出来なかった。手を掴まれて… 私を止めてもらえて『嬉しかった』から……。
でもそこからどうしたら良いんだろう? 頭が真っ白で何も思い浮かばない。鷹山先輩の手のぬくもりだけが私を徐々に侵食してきている感じだ。
「待ってくれ水澤… 俺もお前に話したい事が…」
話したい事…? それって良い話ですか? 悪い話ですか? 私も話したい事があるんです。「今日絶対に話さなきゃいけない事」が……。
アレコレ巡る想いが多すぎて混乱してくる。もう思考能力は残っていない。ここで逃げたらウマ娘が… いや、女が廃る!
私は鷹山先輩に背を向けたまま、一度大きく深呼吸をしてゆっくり振り返った。
心は決めた。もう全部ぶちまける。順序立ててうまく喋る事も多分出来なさそうだ。頭に思い浮かんだ事を片端から口にしていくしか無い。
「もぉ、上手くいかない事だらけですよ今日は…」
いきなりのボヤキから始まってしまい、少し自己嫌悪に陥る。もう少し良い切り出しは無かったのか私?
「水澤…」
ほらぁ、鷹山先輩も『何言ってんだコイツ?』って顔してるじゃん。もしかして呆れられちゃったかな…? でも止まってる暇も迷ってる暇も無い。
「でも一番大事な用件が終わってないのを思い出しました。どうしても先輩に言わないといけない事が…」
これから言う内容は既に先輩には知られちゃっている。後は自分で後悔の無い様に、精一杯の気持ちをぶつけるだけだ。ダメならダメで
「わ、私… 私は鷹山先輩の事が…」
ここで口が動かなくなってしまった。「好きです」のたった4文字が言えない。
鷹山先輩との関係は色々な事があった。半年にも満たない間にたくさん笑ってたくさん泣いて、数多くの思い出が私の中に詰まっている。
私にとっては大切な思い出の数々ではあるけれども、鷹山先輩にとってはどうなんだろう? 私って鷹山先輩にはどう見えているんだろう…? ただの『変人ウマ娘』でしか無いのかも知れない。
私がここで告白すると、鷹山先輩が私に抱いている気持ちも同時に知る事になる。
嫌われてはいないとは思うけど、『単なる後輩』としか思われていなかったら、以降の私達の関係はぎくしゃくした物になってしまうだろう。
それがとても怖い……。
私は合宿の時に発情して先輩に絡んでしまい、『勘違いさせたかも』みたいな発言をしている。そんな私から告白なんて「何を今さら」と返されるかも知れない。
やっぱり凄く怖い……。
「待て、水澤。俺の用件から先に言わせて貰っても良いか…?」
私の口が止まってしまったせいか、鷹山先輩が痺れを切らした様に言葉を発した。未だ握られたままの手に力が入る。先輩も凄く緊張しているのが伝わってくる……。
「俺… お前の事が好きだ… 『ウマ娘だから』じゃなくて、『水澤イチ』という女の子を好きになってしまったんだ… 嘘じゃないぞ…?」
魔法に掛かっていたかの様に動かなかった私の口が緊張から解かれる。私も何か伝えないと……。
さっき伝えようとした言葉は、『鷹山先輩の事が…』
「私も… 私も鷹山先輩の事が大好きです! 先に言おうと思ってたのに、口が動かなくなっちゃって… あははは…」
安心感から体中の力が抜けてしまい、立ったばかりの椅子にへたり込んでしまう。
私達は『両想い』だったんだね… 嬉しい! 凄く嬉しい。
涙が溢れ出てくる。嬉しいのに… 嬉しいから、涙が止まらない。
「実は俺も最近になって自分の気持ちに気がついたんだよ。でもまたセクハラだのなんだの言われたらイヤだなって思って、告白する勇気が持てなかった…」
そんな、セクハラだなんて言うわけ… あるな。言いそうだな私。過去にもやってるから、その辺のマイナスの信頼感が構築されているのは仕方ないのかな…?
「あとウマ娘と付き合ってたり結婚した人と接点が無くて、ウマ娘とのプライベートな付き合い方も想像が付かなかったりでどうにも不安でな…」
少し照れた感じでポツポツと不安げに語る鷹山先輩が、なんだかとても可愛らしく見える。
好きな人から垣間見える『弱い部分』ってちょっとグッとくるよね。
「そんなの、ウマ娘だって人それぞれですよ。絶対の答えなんてありません。えっと… これから2人でそれを手探りで探していきませんか…?」
鷹山先輩も少し涙ぐんでいる。2人とも泣きながら笑っている。
好きな人と心が繋がる事が出来た。
今日は最高の日になった……。
☆
「じゃあ改めて『彼氏彼女』って事で交際させて貰って良いんだな?」
「はい。よろしくお願いします…」
互いに落ち着いて、今後の付き合い方を話し合ってみる。普通のカップルって告白成立直後に何を話すんだろう? よく分かんないや。
とりあえず私達はすぐにイチャイチャラブラブな関係にはならないんじゃないかなぁ? とは思う。鷹山先輩もそういう肉欲的なタイプじゃないし、ウマ娘は発情期以外は基本的に淡白だ。
まぁ今は『発情期』ですよそりゃ。でも今日はちゃんと薬で抑えてるし、いくら発情期でも交際直後である向こう1ヵ月くらいで肉体関係を結ぶのは、さすがに早すぎると思うのね。そこまで尻の軽い女じゃないつもりだ。
鷹山先輩も受験に向けて女遊びしている暇も無いだろうし、私達の関係は急激な進展は当分望めないだろう。まぁ『今まで通り』という事で良いと思う。急に変えても互いに戸惑うだけだろうしね。
それにしてもお店の3階が貸し切り状態で助かった。誰か他のお客さんが居たら、恥ずかしくてあんなやり取りは出来なかっただろう。
少しの間でも私達2人の時間を作ってくれた神様に感謝だね……。
☆
「じゃあバスの時間になったから出るか。本当に見送りはここまでで良い、1人で帰れるよ。今日はありがとうな。水澤も気を付けて帰れよ…?」
楽しい時間は終わってしまった。強引に先輩の家まで送り届けても良かったのだが、さすがにそれやったら嫌われちゃうよね。
あまりしつこくして交際成立してすぐに嫌われたら悲しすぎるから、今日はこのまま引き下がりますかね……。
「さてと、ミッションクリアって事で私も帰るかな…」
先輩を乗せたバスを見送って、私も家路につくべく駅の改札を通り抜ける。
フェイクじゃなくて本物の彼氏が出来た嬉しさがジワジワ響いてくる。1人でニヤニヤしつつ、ついついホームへの階段を3段飛ばしで駆け上がってしまう位に浮かれてしまった。
でも帰ったらお母さんに根掘り葉掘り聞かれそうだなぁ……。