【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「ってーな! 何すんだよこの暴力ウマ娘!」
水澤はむくれた様な顔で視線を逸らしてそっぽを向いている。顔は少し紅潮しているように見えるが、反省の色は全く見られない。
「まぁまぁ鷹山くん、アビちゃんは慣れない事を言われて照れてるんだよ。微妙な可愛い乙女心を分かってあげなよね?」
タカチャン先輩が取り成しに入ってくれるが、『乙女心』で言い訳できるパワーじゃないんだわ。マジで歯が折れると思えたほど痛ぇんだわ。
改めてウマ娘の規格外のパワーをこの身で受けて、俺は戦慄していた。
「そ、そんなんじゃありません! 名前をイジるのはウマ娘ハラスメントだからお仕置きしただけですよ!」
そして水澤もこの言い草である。全く、どうしてくれようか…?
「ま… まぁ、これも『研究と実験』だよ鷹山くん。こんな風にウマ娘と直接触れ合えるなんて滅多に無い事だからね?」
「そうそう!」
「頑張れ男の子!」
タカチャン先輩が話をまとめにかかる。他の先輩達も帰り支度をしながらタカチャン先輩の言葉に無責任に追従する。
確かにこんな風に直接ウマ娘と触れ合う(?)機会なんて今まで無かった事でもある。
ウマ娘の人並み外れた力の一端をこの身で受け止める事が出来たのは、俺の研究にとって大きな前進と言えるだろう。
多分に釈然としない物はあるが……。
どの道もう陽も落ちてほぼ夜になりかけており、間もなく下校を促す校内放送がかかる事だろう。新鮮で楽しかった雑談タイムも終了だ。
先輩達に釣られる様に俺と水澤も鞄を持つ。その際にようやく水澤が気まずそうに口を開いた。
「あの、鷹山先輩… さっきはぶったりしてゴメンなさい… 名前をイジった訳じゃないのは分かってます… ちょっとビックリしちゃって… だから、その… 部活クビにしないで下さい! じゃ、じゃあ失礼します!」
それだけ言って脱兎の如く駆け出して教室から出て行った。
残された俺達は全員唖然としていたが、やがて先輩達が一斉に笑い始めた。
「あの娘カワイイよね〜」
「まさに『青春』って感じ! うらやま〜」
「鷹山くん、責任取らなきゃ!」
は…? どういう事? 殴られた以上に俺が何の責任を取らされるというのだろうか? 話がまるで見えて来ない。
先輩達に説明を求めようとしたタイミングで、丁度スピーカーから下校放送がかかって、質問の機会を逸してしまった……。
☆
「ねぇ、鷹山くん…」
先輩達と別れて2年生の下駄箱へ向かう途中で、後から俺を追ってきたタカチャン先輩に声を掛けられた。
「あたしは君らの部に入る事は出来ないけど、代わりに良いネタを教えて上げようと思ってね。学校の他のウマ娘を誘うのも良いけど、その前に
「え…? それはどういう…?」
生徒会長なら部活動の申請をした時に何度か顔を合わせている。確か3年A組の『
見て話した限りでは普通の人間の女性で、少なくともウマ娘では無いのは間違いないし、部の創設に当たって会長からウマ娘に関する話題を振られた事はない。
物腰は柔らかく、それでいてドの付く真面目で規律を重んじる、チャランポランを許さないタイプの『お固い人』という印象を俺は受けた。
やんどころない身分の『お嬢様』であったとしても全然違和感の無いイメージの人であるが……。
タカチャン先輩がいたずらっ子の顔で俺の耳に顔を寄せる。
「会長の北野さんだけど、あの娘、実はね…」
☆
帰宅して夕食や入浴を済ませ自室に戻る。『比較人類研究部』の活動初日ではあったが、まさに驚天動地の展開であった。
テロリストの水澤イチ、いやアビスビーストとの出会い。保健の響子先生の乱入。タカチャン先輩並びに友人がたとの雑談……。
もう胸焼けするかと思える程の濃い交流の1日であった訳だが、とりあえず定期的に関係性が持続しそうなのは水澤だけだよな……。
実際アイツをどう扱えば良いのか、俺には上手いアイデアが浮かばない。
当初は適当に言いくるめて、普通のウマ娘には頼みづらい事を頼んで色々な実験や検証をしようと思っていた。
ただ下手に機嫌を損ねて怒らせたりした場合、俺自身が命の危険に曝される可能性が発生する事が判明した為に、初日から計画の修正を余儀なくされているのは
水澤は凶暴なテロリストではあるが、外見的には『可愛い』と思える。ウマ娘は全般的に端正な顔立ちの者が多く、モデルや芸能人をやっている人も多い。
トレセン学園なども走るだけでなく、レース後の『ウイニングライブ(レース毎に上位入着者がステージで観客に歌と踊りを披露する)』用に芸能学校ばりにハードな歌やダンスのレッスンをするそうなので、引退した競走ウマ娘がアイドルやレポーターをやるパターンも非常に多いのだ。
水澤もその例に漏れず
可愛い娘だと言うのは認める。認めるが、テロリズム信奉や暴力に
まずは水澤に対する余計な助平心は捨てよう、俺の命に関わる。『あいつはただの後輩、それ以上でもそれ以下でもない』その気持ちを忘れない様にしたい。
そう言えばタカチャン先輩も美人だった。『可愛い』ではなく『美人』のタイプな。どうせお付き合いするなら水澤よりもタカチャン先輩の方がポイント高い。まぁ初めからそういう話ではないのだが、思春期の男子の妄想として軽く受け止めて欲しい。
そうそう、タカチャン先輩と言えば、別れ際に聞いた話が衝撃的すぎて、俺はあのとき数秒の間、驚きのあまり呼吸をする事すら忘れてしまった程だった。
なにせ話を聞いてから何時間も経つのに、今もタカチャン先輩の放った言葉が強烈過ぎて、興奮が治まらずにいるのだから……。
「会長の北野さんだけど、あの娘、実はね『メジロ家のお嬢様』なんだよ…」