【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
〜水澤視点
「それで…? 鷹山さんとはお話しできたの?」
帰宅するなりニヤニヤした母が、鷹山先輩との語らいに探りを入れてきた。
さすがにここで「正式に交際する事になったよ」と言うのも恥ずかしいし、母が気を利かせてくれたおかげで上手く行ったみたいで面白くない。
「話はしたよ… まぁ普通に軽く食事して今日の反省会しただけだけど…」
母は私の答えに不満があるのか、私を上から下までジロジロと何かを見定める様に観察している。
「着衣に乱れは無し。目元に泣いた痕跡。しかし鷹山さんへの悪印象なセリフや表情は無し… つまり何か『良い事』があったわね?」
…鋭いなぁ。昔から母はこんな具合で些細な変化も見逃さず、どこぞの探偵キャラよろしく私の事を言い当ててくる。
娘としてはやりづらい事この上ない。
「お、お母さんには関係無いでしょ! 本当にハンバーガー屋さんで話しただけだってば…」
私の抗弁も母には効いていない。母は目を閉じ、楽しそうに私の言葉に耳を傾けていた。
「うん、大体何があったか分かっちゃった。イチが幸せならお母さんも嬉しいわ」
母はそう言い捨てて台所へと引っ込んで行った。一体何が分かったというのだろう? 逆に聞きたい。でも私ってそんなに分かりやすい子なのかなぁ…?
☆
それから数日は微妙に忙しかった。山で怪我をした時にちょっと無理をしたせいで、右腕の腱を痛めてしまい病院に通ったり、演劇部の先輩達と一緒に秋服を買いに行ったり、夏期講習が始まって会う時間が取れなくなった鷹山先輩と、LANEで色々と他愛もない事を話したり。
そして
元はと言えばナノちゃんに焚き付けられて、鷹山先輩を山デートに誘って、告白するまでに至った訳なんだよね。
結果的にうまくいったから良かったものの、もし玉砕していたら私は恥ずかしくて、秋から学校に顔を出せなくなっていただろう。
そして私の告白が成功したという事は、当然もう1人の『鷹山先輩の事が好きな女の子』を悲しませる結果になってしまうのだ。
これはどうしたら良いのかな…? 今ここで『交際する事になりました』と報告するのは簡単だ。
ただナノちゃんの立場で考えたら、そんな事務的な返答を貰って気分を害したりしないだろうか? 「友達だから互いに傷つけあって嫌いになりたくない」と言って、わざわざ私にチャンスをくれたナノちゃんへの無礼は私も望まない。
『それなんだけど、LANEじゃなくて直接話せないかな…?』
という流れで翌日、ナノちゃんと会う事になった。
☆
「たった1週間なのに、凄く久し振りに感じるね…」
高校の近くにある、クラスメイトや演劇部の先輩らとのお喋りの為に何度か通ったファミレスでナノちゃんと合流する。
これから話す内容は明るい物ではない。なので他のお客さんから見えづらい、奥のテーブルを使わせてもらう事にした。
互いに軽食とドリンクを頼んで、待ち時間の間で私もナノちゃんも話を切り出せずに、沈黙タイムに陥ってしまった。
「あのっ…」
「えっと…」
そしてその沈黙を破ろうと同時に声を出し、またも気まずい雰囲気になってしまう。初めて会った時でもここまでの緊張感は無かったよね……。
「イッチーから話して。私、覚悟はしてきたから。どんな話でも受け止めるから…」
ナノちゃん、物凄く真剣な顔つきだ。やはりナノちゃんも本気の恋だったのだと改めて思い知らされる。
女の子同士で「同じ男の人を好きになってしまった」なんて、漫画や歌謡曲の中の話だと思っていたけど、こうやって我が身に降り掛かってくると、とても心臓に悪い。
ここで私が答えて、下手したら気を悪くしたナノちゃんに絶交される恐れもある。私だって好きな男の人が友人と付き合い出したら面白くない。そんな場面見たくもない。
でも……。
「変に隠したりするのもおかしいから正直に言うね。私は鷹山先輩に『好き』と伝えて、鷹山先輩も私の事を『好き』だって言ってくれたよ…」
それ以上に伝える事も、それ以外に付け加える事もない。私と鷹山先輩との話は変に誤魔化したり脚色する様な真似をしたくない。それは私に先手を譲ってくれたナノちゃんに対して、とても失礼な行為だ。
話がどう流れてもナノちゃんを傷つける結果にしかならないのなら、私には単刀直入に『結果』だけを伝える事しか出来ない。
それでナノちゃんに嫌われて関係が切られても致し方ない。
「…………」
私の話の間、ナノちゃんは下を向いて黙っていた。
私からのボールは投げた。ここでのナノちゃんからの返答次第で、私達の今後の友情の全てが決まる。
ナノちゃんに嫌われても受け入れる覚悟はしてきたつもりだけど、胸のドキドキは激しくなる一方だ。
やがてナノちゃんから鼻をすする様な音が聞こえてきた。やっぱり泣かせちゃったよね… でもここで謝るのも変な話だしねぇ……。
「ダメだなぁ私… 最初から結果は分かってたし、その覚悟も決めてきたと思ってたのに…」
泣き声と混じってやや不明瞭な語りではあったが、ナノちゃんはどうやら私の答えを予想していたらしい。私の気持ちはともかく、鷹山先輩の気持ちもナノちゃんには分かっていたのかなぁ…?
「ゴメンねイッチー… ちょっとだけ時間ちょうだい…」
ナノちゃんはそう言って持参したハンカチを顔に当て、努めて声が出ない様にさめざめと泣き始めた。
これが他の事ならナノちゃんを励ますべく「元気だしなよ」とか「気にしちゃダメ」とか言えるし、手を握るなり肩を抱くなりして無言でも元気づける事は出来る。
でも今ナノちゃんが悲しんでいる原因は私にあり、そんな悲しみの元凶から「元気出せ」とか言われても逆鱗に触れるだけでは無かろうか? そう思ったら私も怖くなって何も出来なくなってしまった。
「…うん、もう大丈夫。落ち着いてきた…」
時間にして2分くらいだろうか? ナノちゃんが涙を拭いていたハンカチから顔を上げた。表情はあまり大丈夫そうではない様に見えたけど、私とてそれを指摘するほど空気の読めない
「自分で『2人が付き合うなら祝福する』と言ってたのに、いざ失恋したとなると感情が抑えられなくなって… カッコ悪いね、私…」
自嘲気味に鼻で笑うナノちゃんがとても痛々しい。「そんな事無いよ!」と言ってあげたいのに、私も口が固まってしまったかの様に何も言えないでいた。
「実はね… 演劇部の合宿初日に、タカチャン先輩とミノちゃん先輩から貴女達2人を焚き付けろって指令を受けていたんだ…」
私が無言なのを良いことにナノちゃんは1人で語り始めた。でも待って。また
「私も恋愛とか疎いからさ、どうやって2人を焚き付けたら良いのかよく分からなくて… それで鷹山先輩の人柄を探ろうと勉強を教えてもらいに行ってたりしたんだけど…」
「それで仕掛け人の自分がターゲットを好きになっちゃった、と…?」
私の質問にナノちゃんは悲しみとは別の意味で、目線を伏せ顔を赤くして軽く頷いた。
…何だろう? この微妙にイライラする気持ち。演劇部の先輩達に対する怒りと同時に鷹山先輩に対する怒りも湧いてくる。
話を聞く限り鷹山先輩は悪くないよね。頼まれるままにナノちゃんの勉強を見ていただけなんだから。
それでも、それでもだ。私という者が居ながら、なんでナノちゃんからも惚れられるくらい優しくしちゃうのさ? もともと2人仲悪かったじゃん。何でナノちゃんから好かれてんのよ、この浮気者!
…いやいや分かってるよ? 合宿はまだお互いに恋心が固まる前の話だし、私のこのモヤモヤが理不尽な話だと言うことは。
それでもなんとなく嫉妬しちゃうのは私のワガママだよね。だからそれは口に出さずに心にしまっておく。
「失恋して悲しい気持ちはあるけど、それ以上に2人が付き合う事になって嬉しい気持ちもあるんだよ。だから2人でこれからも仲良くしてね!」
最後のナノちゃんの言葉は、決して無理して作った笑顔ではなくて、彼女の心からの微笑みに見えた……。