【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
夏休みが終わり、2学期が始まった。生徒会からの課題である比人研のレポートも、夏休み中にどうにか完成して無事提出する事が出来た。
演劇部のウマ娘どもに俺と水澤の事を冷やかされるかと思って身構えていたが、既に水澤から詳しく聞いていたらしく、俺へのイジりはほとんど無かったのが拍子抜けと言えば拍子抜けではあったな……。
後は三崎から比人研を退部する旨のメールが届いた。理由は「保健委員の仕事が多忙になり、比人研との兼部が困難になった為」との事なので、俺から何かを言える立場では無い。
俺としては夏休み合宿で三崎との距離が少し縮まった様な気がしていたのに、とても残念な気持ちである。約束していた水澤の情報も得られず終いだったしな。
まぁ去るモノ追わずだ。部の欠員については来年の春までにまた人を集めればどうにかなるし、
演劇部はタカチャン先輩が予定通り引退し、星埜が新部長に就任した。最初ミノタウロスが引き継ぐのかと思っていたが、「わたしは〜、演技も下手くそだし〜、脚本も書けないから〜、普通に部長は無理だと思うの〜」
発表会の時のミノタウロスの演技は言うほど悪い物では無かったと思うのだが、ミノタウロス自身が「ダメだった」と言うのであれば、それは「ダメだった」のだろう。
という訳で、演劇部は星埜部長による新体制で再スタートを切る事になった。俺はまた演出面でのサポートを期待されているみたいだが、俺にとっては比人研と勉学がまず大事だからな。その辺の線引きはしっかりさせてもらうぞ?
水澤との関係は、実はあまり変わっていない。これまで通り比人研の部室で、益体もない事を駄弁っているだけで、『彼氏彼女』という雰囲気はほとんど無い。
三崎が比人研を退部したので、部室は俺と水澤の2人きりになるパターンも少なくないのだが、まずロマンチックな雰囲気にはならないのがもどかしい。
まぁ俺も水澤も「そういう空気」はどちらかと言えば苦手な方なので、2人でテレビだのゲームだのの話をダラダラしている時間も、それなりに充実している、とは言えるだろう。
☆
そんなこんなであっと言う間に1ヶ月が過ぎ、秋のGⅠシーズンが始まろうという頃、俺宛てに一抱えほどの巨大な荷物が家に届いた。
身に覚えが無いので少々緊張しながら送り主を確認すると、そこには『ナズナ基金』と書かれてある。
ナズナ基金ってなんだっけ? と思いを巡らせる事5〜6秒。ようやく俺は怪我をしたスズシロナズナの治療費の為に小遣いをカンパしたのを思い出した。
どうやら爆発物や毒物では無いと分かり、包装紙を乱暴に破り取る。そこには全長30cmほどでウイニングライブのステージ衣装を纏った、スズシロナズナを模した『ぱかプチ』と呼ばれる2頭身のぬいぐるみが入っていた。
荷物にはぬいぐるみと一緒に手書き文字を印刷したメッセージカードが入っており、そこには「スズシロナズナです。皆さんのおかげでまた走れる様になりました。本当は皆さん1人1人にお礼を言いに伺わなくてはならないのですが、新たなレースを控えているのでそれも叶いません。代わりに私の分身 (非売品)をお送りしますので、仲良くしてもらえると嬉しいです」との文章が書かれていた。
なるほど、つまりクラウドファンディングの返礼品という事か。俺3000円しか寄付して無いのに、もっと高価そうでしかも非売品のぬいぐるみをもらってしまって良いのだろうか…?
ところでこの非売品というぱかプチをネットオークションに流したら結構な値がつくのではないか? と悪い考えに取り憑かれていたら、狙いすました様に俺の携帯に水澤からのLANEが届いた。
「ナズナのぬいぐるみが届きました! 超カワイイ! 先輩の所にも届きましたか?」
というメッセージと共に、水澤がとても嬉しそうにスズシロナズナのぬいぐるみを抱きしめている写真が送られてきた。
あ〜、これ「売ってもいい?」とか聞いたらめっちゃ怒られそうな気がするなぁ……。
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そして秋のGⅠレースも始まり、いくつかの熱戦が繰り広げられた。
スプリンターズステークスは『ジャパンダートダービー』を征したドキュウセンカンが勝利し、芝とダート両方のGⅠを獲得するという偉業を成し遂げた。
ティアラ路線の秋華賞は、桜花書とオークスを勝って3冠制覇に挑んだオオエドカルチャーを、クラッシック路線から転向したクリスタルセイバーが見事振り切り、最後のティアラを手にした。
クラッシック路線の菊花賞は、スズシロナズナを始めブラックリリィやイーグルダイブが怪我で欠場というトラブルや、路線変更によるクリスタルセイバーの不在を他所に、スメラギレインボーやフックトッシン、トッカンクイーンらが熱いレースを見せてくれた。
最終的にフックトッシンを差し切って1着になったのはスメラギレインボー。デビュー時は「今期実力No.1」と評された天才がようやく初のGⅠを手にする。
そして天皇賞 (秋)は、夏休みに俺達と面会して劇の事を褒めてくれた生徒会長のトウザイブレイカーさんが堂々と優勝を決め、秋天2連覇を成し遂げた。
直接会って話した人がGⅠレースを優勝するのって格別な気分だな。ちょっと震えたよ……。
☆
「先輩! ナズナの応援に行きましょう!」
11月になって早々、水澤がエライ勢いで部室に入ってきた。
「水澤くん、物事は順を追って話しなさい」
水澤は興奮冷めやらぬ感じで、俺の対面の椅子に腰を下ろす。
「ナズナのウマッター見てないんですか? ナズナの復帰レースは『マイルチャンピオンシップ』だそうです!」
いや、それくらいは俺もチェックしているから知ってるよ。俺が聞きたいのはその次の「応援」部分な。
「応援は良いけどどうするんだ? どこかのパブリックビューイングにでも出掛けるのか?」
俺の質問に対して水澤は得意げにドンと机を叩き、満面のドヤ顔を見せつけてきた。
「それがですね、母にナズナの復帰を話したら『是非応援に行ってきなさい』とレース前日からのホテルを手配してくれたんですよ。しかも2部屋!」
マイルチャンピオンシップは阪神レース場の開催だ。阪神レース場は兵庫県の宝塚市にあり、我々の住む東京から散歩感覚で行ける場所では無い。
レースの応援だとしても東京から兵庫へ日帰り旅は辛い。一泊二日に出来るならそれに越した事は無い。ただ俺達みたいな高校生カップルで泊りがけで出かけるのは公序良俗的によろしくない気がするよな。
まぁ俺も健全な男子だし、せっかく正式に交際する事になった水澤と2人っきりでアレコレしたい気が無いと言えば嘘になる。
「お、おう。そしたら親と行けば良いんじゃないのか…?」
ただあまりガッついた真似をして水澤に嫌われてしまっては元も子もない。という訳で常識的な返答を試みてみる。
俺の返答に水澤は困った様な表情を見せ、次に顔を赤らめながらトンでもない事を言いだした。
「いやあのそれが… 当日父も母も仕事が詰まってて、母が『鷹山さんと行ってきなさいよ』って…」
マジか… 高校生の娘に異性との外泊を勧めるとは、どういう母親なんだよ? 恐るべしオキアデルデアボロ女史……。