【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

82 / 86
アクシデントと問いかけ

「はい、ご予約の水澤様ですね。ダブルルームで承っております」

 

 スズシロナズナの走る『マイルチャンピオンシップ』応援の為に兵庫入りした俺と水澤だが、水澤の母親が予約したホテルのフロントで、2人して固まる事になった。

 

「おいどうなってんだよ? シングルルームを2つ予約したって言ってたじゃないか?!」

 

「私だって知りませんよ! ちょっと母に確認するので待ってて下さい…」

 

 水澤は取り出したスマホで慌ただしく母親へと電話を掛けていた。この様子だと本当に水澤本人も、部屋の予約が1つだったのを知らなかったみたいだな。

 

「あ、お母さん? ホテルの部屋の事なんだけど…」

 

 通話が繋がったらしい母親と水澤の会話が始まった。通常ウマ娘は我々ヒトとは耳の位置が違うので、携帯電話で話す時はスピーカー通話が一般的なのだが、秘匿通話を望む際は顔の横に携帯電話を貼り付ける見慣れた通話も行われる。

 

 ぶっちゃけウマ娘は耳が良いから、スピーカーと耳の位置が遠くても音声は聞き取れるし、まれに骨伝導式の携帯電話を使っているパターンもある。

 

 と言う訳で水澤は俺に背を向け、母親と電話越しにバトっている。とりあえず話が終わるまで俺は待ってるしか出来ないよな。

 

「え?! ちょっと待ってよ! そんなんダメに決まって… いやそれはそうだけどさ…」

 

 どうにも雲行きが怪しいぞ。雰囲気的に何かの手違いでは無くて、水澤母が意図的に部屋を1つしか取らなかった可能性が出てきた。

 

 電話が終わって水澤が俺の所に戻って来る。この世の終わりみたいな顔で、生気が全く感じられない。

 

「やっぱり母の差し金でした… あの人は昔から全然私の言う事を聞いてくれなくて、今回も『娘が当てにならないなら孫に期待』とか…」

 

 そこまで言って水澤はハッとした表情で己の口を両手で押さえる。

 

 孫がどうこう聞こえた気がしたが、もしかして高い素質があったにも関わらず、走りを放棄して親を失望させた(イチ)では無く、早々にウマ娘の孫を産ませて走らせようという魂胆なのか…?

 

 なんとも気の長い話だが、まさか水澤母公認でこんなにも早く「子供を作れ」という展開は、さすがの俺でも予想外にも程がある。

 

 まぁイヤじゃないよ? 仮にも彼氏彼女の関係なのだから、逆に『2人で外泊』して『何も無し』ではあまりにも救いが無い。

 かと言って高校生同士で子供を作っても責任取れないからなぁ。どうすりゃ良いんだ…?

 

「あの… 私とりあえず部屋の交換が出来ないか交渉してきます!」

 

 まだ少し顔を赤らめたままの水澤がフロントへ走り去って行った。

 

 ☆

 

「ごめんなさい… 粘ったんですけどもう他の部屋が全然空いてなくて…」

 

 水澤が奮闘してくれた物の、阪神レース場のGⅠを見に来た客は俺達以外にも大量におり、彼らの分でこのホテルは既に満室となってしまっていた。

 

 スズシロナズナ効果とでも言うべきか、例年よりも県外からの応援ツアーが多いらしい。やっぱり現地で応援したいのは皆一緒なのだろう。

 

 近隣のホテルも大体同様で、今からこのホテルをキャンセルしたら、俺達はまず間違いなく野宿する羽目になる。11月の寒空にそれは避けたい。

 

 結局ダブルルームに通された俺達は、窓際に備え付けられた茶飲み用の小テーブルに俺、ベッドの片隅に水澤と言う、部屋の対角線的なポジションで互いに腰掛けて話をしている状態だ。

 

「仕方ないよ。諦めて一晩だけ我慢してくれ…」

 

「そんな、我慢だなんて。先輩がイヤじゃ無ければ私は別に…」

 

 そこで俺と水澤で視線が合う。「別に」何なのだ? 不純異性交遊は『アリ』と言う事なのか? それなら俺も覚悟決めて、行くとこまで行っちゃうぞ?

 

「あ、やっぱりダメです。先輩、目が怖いです。狩人(ハンター)の目ぇしてます」

 

 そんなお前… じゃあどうすれば良いんだよ? どうせ普通の男じゃウマ娘には力で勝てないんだから、無理やり襲うなんて無理ゲーだし、第一俺にはそんな度胸も無いよ……。

 

「えっと… 私、先輩のこと好きです… でもまだ『子供』とかそんな事まで考えられなくて… その、何て言ったら良いのか…」

 

 まぁそれは俺も同じだ。俺だって急に『子供』とか言われても混乱するだけだし、女の子の水澤なら余計頭がグチャグチャになるよな……。

 

「良いって、気にするな。俺もお前が好きだから『お前に触れたい』って気持ちがちょっと掛かり気味で出てきちゃったよ…」

 

 それを聞いた水澤の表情が一気に和らいだ。緊張だけならまだしも、怯えさせてしまってはせっかくの応援旅行も台無しだ。

 

「先輩… 隣で話しませんか…?」

 

 水澤は座っているベッドの隣の位置をポンポンと叩いて、俺を招いてくれた。

 

 ☆

 

「と、とりあえずこれ以上変な雰囲気にならない様に、ナズナに見張っててもらいましょうかね…」

 

 水澤が鞄から例のスズシロナズナのデカパカぷちを取り出して枕元に置く。スズシロナズナって地味に目つきが悪いから、例えぬいぐるみでも本当に監視されていそうで少し怖い。効果抜群じゃねぇかオイ。

 

「…でもスズシロナズナは本当に復活出来て良かったよなぁ。少しでもカンパした甲斐があったよ…」

 

「そうですね… あの時は私も目の前が真っ暗になりましたから… ホント良かった…」

 

 あの時… 日本ダービー当日、俺達は客席から間近でスズシロナズナの劇的勝利とライブでの昏倒と言う、明暗分かれた二重の衝撃を受けた。

 

 一時は選手生命をも危ぶまれたスズシロナズナが、見事復活してトゥインクルシリーズに帰ってきてくれた事は、レースの神様にいくら感謝してもし足りないだろう。

 

 ところでスズシロナズナの事はさておき、俺はどうしても水澤に聞かなければならない事がある。

 それはこの夏休みから3ヶ月にも渡って聞くタイミングを計っていたにも関わらず、ついぞ聞き出せなかった事だ。

 

「なぁ水澤… 敢えて今もう一度聞くけど、『スズシロナズナは復活した』、お前は… 『アビスビースト』はもう走らないのか…?」

 

 夏合宿の時に、俺の軽挙によって水澤を混乱させ、トイレに籠城までさせてしまった無神経な質問だ。

 

 あの時は単なる先輩後輩だったし、水澤も発情期でしかも抑制剤が効いていない状態だった。冷静な思考など出来なかっただろう。

 

 だが今は『子供』はともかく、共に同じ将来に向けて話をしても憚られない関係にまで辿り着いている。少なくも前回の様に部屋を飛び出して何処かに籠城する事は無いと思う。多分……。

 

「山で遭難した時、最後の踏ん張りでお前は『ウマ娘のアビスビーストだ!』って言ってただろ? アレがずっと気になっててさ…」

 

 もし水澤がまた『走り』に復帰したいと言う事であれば、俺もそのサポートをするにやぶさかでは無い。「今から地方のトレセン学園に転校する(さすがに中央はどう考えても無理だろ)」、等という事態になってもフォロー出来る様にありたいと思う。

 

 水澤はキョトンとした顔で不思議そうに俺を見つめている。やがてフフッと吹き出して幸せそうな笑顔を浮かべる。

 お、少なくとも前回の様に走って逃げ出す事は無さそうだな……。

 

「そうですねぇ… 何から話せば良いかなぁ…? ね、先輩。私って『可愛い』ですか…?」

 

 何やらイタズラめいた顔をして水澤は逆質問を返してきた。

 

 水澤はもちろん『可愛い』よそりゃ。普通に美少女だと思うし、今となっては目まぐるしい程にクルクル変わる表情も愛らしく思える。

 

 惚れた弱みだとは思うが、質問の意図が分からない以上すんなり「可愛い」と答えてしまって良いものか悩むよなぁ……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。