【完結】ようこそ、 比較人類研究部へ!! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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名家と乱入者

 メジロ家。『蝦夷富士(えぞふじ)』の別名で知られる北海道は羊蹄山の麓、洞爺湖町を拠点とする、何代にも渡ってレース界に一族の名ウマ娘を送り込んできた、大富豪としても世間に知らぬ者無しの名家中の名家だ。

 

 メジロ家のウマ娘は皆、白と薄緑のストライプという統一された色調デザインの勝負服を身に纏い、史上初の『ティアラ3冠ウマ娘』となったメジロラモーヌを筆頭に、春の天皇賞連覇を決めたメジロマックイーンやGIレース4勝を挙げたメジロドーベル、他にもメジロライアンやメジロブライト等といったGⅠホルダー達、後に『光の子供達』と称された数多くのスターウマ娘を輩出した。

 

 だがおよそ20年前、『メジロのお祖母(ばあ)様』と内外に呼ばれ親しまれたメジロアサマの死去を皮切りに、メジロ家のウマ娘はGⅠレースに勝てなくなっていく。

 記録を見るに、ここ数年はGⅠどころかGⅡやGⅢの重賞レースですら禄に勝てていない状況だ。

 

 更に世間の不景気に伴ってか、メジロ一族に新生児の出生が減り、更に子供が生まれても男の子だったりで、レース界にメジロ家の威光を取り戻すどころか、『メジロ家のウマ娘』そのものを見掛ける機会すら徐々に減っていった。

 

 心無いマスコミは「名家の没落」などと面白おかしく囃し立てるが、それを覆す程のパワーとポテンシャルが既にメジロ家に無かったのも事実だったのだ……。

 

 その中で『メジロアイリーン』として活躍を期待され、満を持して産まれたのが『北野(きたの) 愛璃(あいり)』会長という事らしい。

 余談だがメジロ家の和名は何故か「目白さん」ではなく全員「北野さん」だそうだ。

 

 しかしながら北野会長はウマ娘ではなくヒトとして生を受けた。一族の期待を一身に受けつつも、そのスタートラインにすら立たせてもらえなかった、悲劇の御方という訳だ。

 

 ☆

 

 ヒトとウマ娘の産み分けは現代でも技術として確立していない。

 

 母ウマ娘から仔ウマ娘が生まれる確率は、ヒト女性からウマ娘が生まれる確率の4〜5倍あると言われている。

 それでも家系にウマ娘を持たない一般女性がウマ娘を出産する事もあれば、ウマ娘を母親に持つ男性とウマ娘が結婚して子を成してもヒトの女の子が生まれてくる事もある。

 

 これは前述の『ウマソウル』がどういう条件で母胎に届くのかがまるで解明されていない事に起因する。

 そもそも有史以来『ウマソウルとは何なのか?』というレベルで全く研究が進んでいないのだから仕方が無い。

 ウマソウルは文字通り『魂』なので、個体から取り出す真似も出来ない。下手したら殺人事件になってしまう。

 

 そして先程の『産み分け』の話ではないが、胎児が安定期を迎えた頃を中心に、母親の頭に突如「ウマネームの天啓」が降りてきて、自らにウマ娘を授かったのだと認識出来る仕組みなのだそうだ。

 

 そしてごく稀にではあるが、その『天啓』が不発、というか母親の勘違いによって誤認されてしまう事があるらしい。 

『天啓』がいつ来るかは当の母親含めて誰にも分からない。中には眠っている最中や、家事や業務で忙しい時にポーンと閃かれても完全には覚えられない時もある。

 

 その様に、うっかり聞き逃したり忘れてしまって「おっとウマ娘が産まれちまったぜ」というパターンと同時に、日常で起きた聞き間違いや空耳を『天啓』として受け取ってしまい、『ウマ娘を授かった』と勘違いしてしまうパターンもあるそうだ。

 

 現代社会では一般にウマ娘の誕生は『吉事』として扱われ、自治体を始めとして周囲からは大いに祝福される。

 恐らくだが北野会長も母親が『メジロ家の為に優秀なウマ娘を産まなくては』と、心身を蝕む程の過度のプレッシャーを感じていたのでは無いだろうかと予想される。

 

 生まれる前から『メジロアイリーン』などと名前を付けられ、「ウマ娘では無かったから」と周囲から失望される。その人生の苛酷さは想像するに忍びない。

 

 同情すべき悲しい事態ではあるのだが、そんな境遇の人がウマ娘に対してどの様な感情を抱いているのか、野次ウマ的にとても興味がある。

 一歩間違えば水澤と意気投合してしまい、犯罪組織が結成されてしまう危険性があるので、水澤抜きで話を聞きに行くのも1つの手ではあるよな……。

 

 ☆

 

「おはよーございまーす」

「おう、おは… ってもう夕方なんだが?」

 

 時間間隔のズレた挨拶をして部室に入ってきた水澤にとりあえずツッコんでおく。お互いに昨日の事は特に何事も無かったかの様に振る舞い、口調は普通に挨拶を交わす。

 

「あはは… つい地元で走ってた頃のクセで…」

 

 なるほどやはり水澤もウマ娘、以前は走っていたようだ。いつかは水澤の子供時代の事も聞いてみたい物だな。

 

「あの、失礼します…」

 

 水澤の後ろから別の女子の声がした。よく見ると水澤の影に隠れる様に女生徒がもう1人いたみたいだ。

 黒髪ロングヘアでウマ娘特有の耳や尻尾は見当たらない。普通のヒト女性である様に見受けられた。

 

「私はイチ(この子)の友達で同じクラスの『三崎(みさき) 菜乃香(なのか)』っていいます…」

 

 ほうほう、水澤がクラスメイトを連れてきたという訳か。それはつまり……。

 

「うん、よろしく。俺は2-Aの鷹山、もしかして入部希望の…」

 

「違いますっ!」

 

 三崎が俺の言葉を遮ってピタリと否定してきた。ホント水澤といい三崎(この子)といい、人の話を最後まで聞かないで横入りしてきやがる。そういうのあまり感心しないぞ?

 

「『イッチー』が妙な部活に入ったって聞いたので、心配になって付き添う事にしたんです。何でも『ウマ娘を殺す為の研究と訓練をする所』だとか… そんな怖い部活を許すわけにはいきませんから!」

 

 おいコラ水澤、お前さん三崎(この子)に『比較人類研究部(うちの部)』の事、どんな説明をしてくれたんだよ…?

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