ブギーマンは世界を大いに嗤う   作:兵隊

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第一章 アイツのタイプってこんな女神なんだ
第9話 リリルカ・アーデは働き者である


 

 

 迷宮都市オラリオが最も栄えている場所といえば、やはり中央地域だろう。

 なにせその場所には、ダンジョンがあり、それを蓋をするようにして、巨大なる“バベル”が聳え立っている。

 

 バベル内部はさることながら、その周辺も多く流通が行き交っている。

 それもその筈だ。ダンジョンがあるということは、冒険者が自然と足を運ぶのは必定であり、その装備や消耗品を買いに来るのもまた必定。

 

 冒険者も命を懸ける職業だ。

 遊び半分でダンジョンに潜る人間はいないし、命が掛かっているのだから準備も怠ることはない。

 多少の値が張ろうと、命には変えられないのだから、財布の紐も緩むというモノ。

 

 そう考えれば、商人も戦っていた。

 冒険者の眼に留まるように露天として店を構えるのもいい。

 通常の価格よりも値を吊り上げて、商売するのも生きるためだ仕方ない。

 だが、ただ値を高くすればいいというものじゃない。

 

 商人は見極め、そして戦っていた。

 他の露天は同じ商品をどの値段で売っているのか、安かったら下げるが、それもただ下げればいいと言うものじゃない。少ない出費で、それ以上の利益を生まなければならない。

 だが利益だけを求めていたら、冒険者の心は離れてしまう。どこで冒険者に飴を与えて、どこで鞭を与えればいいか。商人はそれを見極めなければならないのだ。

 

 商人達は命を掛けない。変わりに己が評判を掛ける。評判が良ければ後に続くモノがあるし、悪ければ今後の商人生活に大きく響いてくるというもの。

 

 そして今日も。

 オラリオの中心部では戦いが始まっている。

 冒険者は命を掛け、商人は己の評判を掛ける――――。

 

 

「リリルカは働き者だな」

 

 

 ――――とは、全く関係のないオラリオ郊外に位置するあばら家。

 

 家と呼べるのかどうか怪しい家屋の中でアルマ・エーベルバッハは満足気に頷いていた。

 彼の視線の先には、忙しなく動く小さなメイド服の少女――――リリルカ・アーデの姿があった。サイズもピッタリ。長いスカートの裾が優雅にまい、その頭にはレース付きのカチューシャ、通称ホワイトブリムが装着していた。

 どうやら少女のために、アルマが新調し用意したようだ。スカートの丈が短いものではなく、長いのは彼のこだわりの一つである事が伺い知れる。

 

 それを証拠にもう一人のメイド――――アルフィアも同じスカート丈である。

 彼女は呆れた口調で。

 

 

「貴様も見習え」

 

「オマエこそ見習え」

 

「手伝おうとはした」

 

「邪魔って言われた癖に」

 

「邪魔とは言われてない」

 

「気を使われて遠回しに言われたろ」

 

 

 そこまで言われて、アルフィアは押し黙ってしまった。

 

 確かに彼女の言うとおり、邪魔とまでは言われていない。

 ただやんわりと、困ったような顔をされて、申し訳なさそうに、見ていてほしいとお願いされて現在に至る。

 彼女は他者からは、“才能の権化”“才禍の怪物”と恐れられているが、それはそれこれはこれ。掃除などやったことがないし、経験したことがないモノを最初から完璧にこなせるものなどいないのだ。

 

 

「まぁ、気を落とすなよ。オマエなりに歩み寄ろうとしたんだってことは伝わったからさ」

 

「……何の話だ」

 

「仲良くやろうとしてたんだろ? 怖がられて、地味に傷ついてたもんなオマエ」

 

 

 最初に紹介した日。

 豊饒の女主人にて初の顔合わせをしたときのことをアルマは思い出す。

 

 オラリオに住む者にとって、アルフィアという女子は今だに恐怖の対象であった。

 それはリリルカのような幼子も同じ事である。恐慌状態とまではいかないが、泣きそうな顔で怯え、直ぐにアルマの後ろへと隠れてしまった。

 

 リリルカはアルフィアが【静寂】として猛威を振るっていた姿など見た事がない。

 しかし噂として聞いていたようで、アルフィアのことはそれはもう、物語に語られる怪獣を見るような眼で怯えていた。

 

 アルフィアにとっては、それが心底堪えたようで。

 

 

「でもさ、あの時のオマエ面白かったなー。泣きそうになるとか、子供の頃以来じゃないか? オマエのあんな姿――――」

 

福音拳骨(ゴスペル・パンチ)

 

「危なっ」

 

 

 正にその速度は神がかり。

 握り拳を作ったアルフィアは、数寸の狂いもなくアルマの死角から後頭部目掛けて打ち抜こうとするが、なんとかそれを紙一重で回避する。

 

 全く躊躇など感じさせない。

 そのまま後頭部を打ち抜き、全力で以て気絶させようとするも、口惜しい事にそれは失敗と終わってしまった。

 

 突然振るわれた拳に、アルマは憤りはなかった。

 むしろ余裕の笑みで持って、アルフィアの凶行を咎めることなく。

 

 

「惜しかったな?」

 

「貴様、後で、絶対に、殴る」

 

「めちゃくちゃ怒ってるじゃないか。っていうか、何だ今の技? 新技か?」

 

 

 超短文詠唱よりも速い拳骨ってどうなんだ、とアルフィアという才能の出鱈目さに辟易した調子で言うと。

 

 

「そもそも、主人をぶん殴ろうとするメイドってどうか?」

 

「これも教育だ、ご主人様」

 

「殺意が篭った教育とか聞いた事がないが?」

 

 

 アルマの言う事も最もであるが、どういうわけか彼に正論を吐かれるのは気持ちのいい事ではない、とアルフィアは理不尽ではあると自覚しているものの、そう思わざるを得なかった。

 

 これ以上、意識にすら入れたくないと、アルフィアはリリルカに意識を向けて。

 

 

「貴様、リリルカと初めてあったのが歓楽街だといったな?」

 

「おぉ、ヘルメスと出掛けたときだな」

 

「貴様が誰と交流を深めようと、どこで何をしていようが私には関係ない」

 

 

 だがな、と言葉を区切り。

 

 

「――――歓楽街などに行く、本当の目的はなんだ?」

 

「――――――――」

 

 

 一瞬だけ、アルマは黙ってしまった。

 そして直ぐに思考を一巡させる。

 

 歓楽街だけではない。

 夜な夜なアルマが出掛けるのは、闇派閥(イヴィルス)の残党の調査に他ならない。蛇の道は蛇という言葉があるように、オラリオの裏側の世界に向かえば、闇派閥(イヴィルス)の情報があると踏んでの行動であった。

 結果は空振り――――とまではいかないものの、本当かどうかも怪しいものばかり。最近は【ロキ・ファミリア】の団長フィン・ディムナが闇派閥(イヴィルス)の神々を天界に送還させたと、アルマは耳にしている。

 

 もしかしたらそれで最後かもしれないし、違うかもしれない。

 どちらにしても、連中は巧妙に姿を隠しており、オラリオに居るのかどうかすら解っていない。

 

 それをヘルメスと共に調査していたのだが。

 

 

 ――アイツ、チクったのか?

 

 

 脳裏に疑念が過ぎるが、直ぐにそれは否定する。

 であるのなら、アルフィアは問答無用で問い詰める決まっているとアルマは断じた。

 確証がなく、証拠もなく、アルマが何をやっているのかわからないから、彼女は問うてきたのだろう、とアルマは瞬時に判断すると。

 

 

「勿論、麗しのイシュタルに会う為だが?」

 

「嘘を言うな」

 

「嘘じゃないよ。褐色で綺麗って聞いてな、どうしても会いたいんだが、あっちはオレを避けているみたいだしな。会えずにいるわけだ」

 

 

 それに、と言葉を区切り。

 

 

「ヘルメスが言うには、フリュネって女がオレの好みに近いらしい。それはもう会いたくもなるだろう?」

 

「貴様、いい加減にしろ」

 

 

 遮るように、アルフィアは静かに問いを投げる。

 

 

「忌々しいが、本当に嫌だが、貴様とは長い付き合いだ。その意味がわからん貴様でもあるまい?」

 

「……何が言いたいんだアルフィア?」

 

「――――私に隠れて、ヘルメスと何を企んでいる?」

 

「――――――――」

 

 

 ヘルメスはかつてアルマに、アルフィアには言わなくていいのか、と口にした事がある。

 アルマはそのときは、必要がない、と断言した。そして今回も必要がない事であると、アルマは迷わずに言い切る。

 

 必要のない事だ。

 闇派閥(イヴィルス)の処理など自分一人で充分であるし、何よりも闇派閥(イヴィルス)を率いて好き勝手行動した()()の後始末など、自分がするべき仕事であると彼は思っている。

 

 確かに、()()の元へと集った彼女にも責任の一端があるのかもしれない。

 闇派閥(イヴィルス)の件を伝えたものなら、彼女も協力を惜しまないに違いない。ヘルメスはその点も踏まえて、アルフィアには言わなくていいのか、とアルマに問うたのだろう。少しでも戦力があるに越した事がない、何ともヘルメスらしい俯瞰した意見である。

 

 別に間違っていない。

 ヘルメスの言いたい事もアルマには解っている。

 真にオラリオを、世界の平和を望むのであれば、アルフィアにも話し協力を請うべきなのだろう。

 

 

 ――いいや、ありえない。

 ――オレ一人で何とかなる。

 ――何よりも、また魔法を使う事態になったら死んじまうかもしれない。

 

 

 もはやアルフィアは限界である、とアルマは判断を下す。

 先の“大抗争”にて、彼と彼女らは戦い勝利する事ができた。血反吐を吐き、それでもと歯を食いしばり、鬼気迫る表情で自身を睨みつけていた彼女の姿を思い出す。

 

 ()()といい、ザルドといい、そして彼女といい、どうしてそこまで必死になるのかアルマには未だに理解が出来ない。

 そこまでして守りたい世界でもない、というのがアルマが評価するこの世であり、それは今も変わらない。リリルカのような弱者を見捨て、少女を虐げていたカヌゥのような連中が存在を許される世界など、誰が素晴らしく思えること出来るだろうか。

 

 アルマが闇派閥(イヴィルス)の排除することを決定させたのが、単純に邪魔だったから。

 ()()が命を懸けた世界の行く末を見届けるのに、邪魔な存在だったから程度の認識でしかない。

 その程度の連中に、アルフィアを関わらせるのも、アルマは気が進まなかった。

 

 

 ――結局は、オレのワガママだな。

 ――もしコイツが無茶をして、死んじまったら嫌だから。

 ――オレの世界からコイツがいなくなるのが寂しいから。

 ――その程度の理由だ。

 

 

 彼らしい。

 自分本位で、アルフィアのことなど考えていない、傲岸な願いであった。

 それが変わることは、ないことをアルマという不遜な男は自覚する。

 

 もしかしたら、アルフィアは勘付いているのかもしれない。

 ()()と神友でもあったヘルメスが関わっているのだから、単純に意気が合ったから共に行動している訳ではないと、分析し推理した上での問いだったのかもしれない。

 

 それでもアルマは、彼女に真実を口にする事はない。

 いつもの笑みを浮かべて、軽薄そうな声色で、アルマという男は嗤い。

 

 

「んなことより、麗しのイシュタルにいつ会えると思う?」

 





 ▼アルマ「麗しのイシュタルに避けらて辛たん」
 ▼リリ「お二人とも、なんのお話をしてたんですか?」
 ▼アルフィア「……気にするな。掃除は終わったのか?」
 ▼リリ「……あっ、終わりました」
 ▼アルフィア「……」@ちょっと泣きそう
 ▼アルマ「wwwwww」
 ▼アルフィア「福音拳骨(ゴスペル・パンチ)
 ▼アルマ「はやっ、これは無理だ――――」
 ▼おーっと! アルマくんがぶっ飛ばされたー!
 ▼リリ「しゃ、社長ー!!?」
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