ブギーマンは世界を大いに嗤う   作:兵隊

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Q なんでアルマをフィジカルゴリラにしたの?

A 物理は全てを解決するからです(建前)
  原作っぽいスキルや魔法を考えれるほどの力量が私にはないから、こんな設定になってしまった(本音)


第12話 炊き出しって食べ放題ってこと? ①

 

 ――――敵と識別するにはあまりにも強大で、化物と呼称するにはその言葉は陳腐すぎた――――。

 

 彼の者は初めから眼中になどいれていなかった。

 私など、道端に転がる石ころのように。何も警戒するに値しない羽虫のように、忌まわしき怨敵は私を戦力に認識していなかった。

 

 別に良い。

 それはそれで工夫のがいあるというもの。

 踏ん反り返って、慢心の上で胡坐を掻き、油断し切った顔に一太刀浴びせる。そして斬られるその瞬間、やっと自身の愚かさに気付くのだ。これほど滑稽な事はない。

 

 そのためなら私は何でもしよう。

 泥水を啜ってでも、地べたに這い蹲っても、侮蔑されようと構わない。

 私はあの女に――――【静寂】を殺すためなら何でもやる。

 

 そう意気込んでいたのだが――――。

 

 

『――――小娘、もう終わりか?』

 

 

 頭上からいけ好かない。

 阿婆擦れたる【静寂】の声が聞こえる。

 

 声を上げることすらできない。

 力を込めようとも立ち上がることが出来ず、私の愛刀すら握る事もできない。隣を見れば、仲間の小人族(パルゥム)が者を言わない姿で転がっている。かすかに息をしている事がわかるが、気にかけてやるほど私に余裕などなかった。

 

 全身に激痛が走る。まるで数十メドル上空から叩き落されたかのようだった。

 呼吸すら儘ならない状態で、僅かに顔を上げて、睨み付けることしか出来ない私はさぞ滑稽であっただろう。

 

 何せ、戦いにすらならない女が、怒りと憎悪だけは一丁前で、抵抗する事もできずに睨みつけているのだ。

 これを滑稽と言わずしてなんと居よう。

 

 しかし【静寂】は何も言わない。

 むしろ心地良い、と言わんばかりに、自身の振るった暴威によって静まり返った周囲を見渡し、音一つ聞こえない状況を楽しみながら。

 

 

『その憎悪が返答と受け取った。ならば襤褸屑となって死ぬがいい。金切り声など、間違えても上げてくれるなよ?』

 

 

 そういうと、静寂は口を開きかける。

 

 たったそれだけだ。

 一声紡ぐだけで、音となったそれは、対峙した邪魔者を蹂躙する。。

 それを証拠に、私は何も出来ずに潰れた蛙のような醜態を晒し、今でも睨み付けることしか出来ない。

 

 もはや戦いではなかった。

 必ず戦いになれば、どちらが優れているか、どちらが劣っているか、モノの優劣が生まれる。そこから駆け引きや、相手の思考を読み、創意工夫をし、戦いの勝敗が喫する。それが戦闘というものだ。

 

 しかしこれは違う。

 ヤツに工夫などする必要がなく、裂帛した気合もいらない。身を引き裂くような決断もなく、かと言って殺されるかもしれない、という恐怖すらない。もはや【静寂】に勝ち負けなど判りきっている、だからこそ緊張も疲労もない。

 

 あの女にとって、私など虫のようなもの。

 生かすも殺すも、生殺与奪の権を、全てあの女が握っている。

 

 なんという圧倒的な力なのだろう。

 一言呟くだけで、何もかもを消し飛ばし、思うが侭に力を行使するのは、さぞ気分が良いのだろう。

 

 

 ふざけるな。

 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。

 そんな理不尽があってたまるものか。血液が沸騰する、腸が煮えくり返る。憤死するかと思った程だ。

 こんな化物に、何も出来ずに死んでたまるものか。コイツだけは絶対に殺す、何が何でも殺す。死んでも殺す。こんな屈辱を受けたまま死んでたまるものか――――。

 

 

『よう、アルフィア』

 

 

 それは背後から。

 

 私の心中に渦巻く憎悪とは裏腹に、極めて明るい口調で、朗々と【静寂】を呼ぶ声が聞こえる。

 その顔を見ることが私には出来ない。少しでも動くだけで、私の身体は激痛が走る。

 

 顔は見えない。

 その人物は恐らく男。

 歩みを進めてくる気配を感じて、ソレは私の目の前で、まるで守るかのように立ち塞がった。

 

 

『……貴様、何をしに来た?』

 

 

 男の背中越しに【静寂】が問う。

 【静寂】の姿は突然現れた男で隠れて見えないが、声色はどこか困惑しているかのようだ。

 

 

『オマエとザルド、あと“――――”が暴れてるって聞いてな』

 

『そうか、見ての通りだ。邪魔をするなら消えろ』

 

『随分な言い草だな』

 

 

 辛辣な言い分に、特に気にすることなく男は続けて。

 

 

『オマエさ、オレと長い付き合いだろ。オレがこれから何をするかなんて、解るだろ?』

 

『……何をするつもりだ?』

 

『決まってる、邪魔してやるんだよ』

 

 

 そこまで言うと、男の気配が変わった。

 まるで本性を表したかのように、朗々とした口調から、どす黒く人間味のない冷たい声色で。

 

 

『――――“俺”は少し怒っている。オマエらさ、“俺”の世界で何を勝手なことをしてるんだ?』

 

『――――――――っ!』

 

 

 【静寂】が息を呑むのを肌で感じた。

 黒髪の男が駆けて、【静寂】が口を開く。

 衝撃が奔り、空間が揺れる。生憎、私はそれ以上見ることが出来なかった。

 

 悔しいが安心してしまったのかもしれない。

 突然現れた男の背中があまりにも頼もしく――――英雄(ヒーロー)に見えてしまったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、炊き出しよー!!」

 

 

 叫び声――――とまではいかないが、五月蝿いくらい大声を上げたのは【アストレア・ファミリア】の団長アリーゼ・ローヴェルであった。

 イエーイ、とご機嫌な調子ではしゃぎ小躍りする彼女。その姿は子供のそれ。ファミリアを率いる長の姿とは思えない浮かれっぷり。

 

 その姿を見た口元を隠している金色長髪のエルフ――――リュー・リオンはため息を吐いて。

 

 

「アリーゼ、少し落ち着いてください」

 

「あぁ、見苦しいったらないな」

 

 

 頷いてリューの言葉に同意するのは小人族(パルゥム)のライラであった。

 

 とはいっても、アリーゼが騒いでいるのはこれが初めてではない。むしろ毎日、年中無休で、偶にライラ達が理解が出来ない理屈を並べて、良く言えば和気藹々とアリーゼは騒いでいる。

 だが今日はどうも様子がおかしかった。まるで悪戯を企てる子供のように、これからの反応が楽しみで仕方ないと言わんばかりに、いつもの五割増で落ち着きがない。

 

 何やら嫌な予感がしたライラは、隣で立っている和服を着た黒い長髪の女性――――ゴジョウノ・輝夜へと話しを振る。

 

 

「輝夜はどう思う?」

 

「…………」

 

 

 返事はない。

 何事か、とライラは訝しむ様子で輝夜を見るも、どこか様子がおかしいことに気付いた。

 

 何やら、ぼーっと。

 心ここに非ずと言った調子で、アリーゼ達の喧騒を眺めていた。

 

 らしくない、とライラは思う。

 いつもの彼女であれば、猫を被りながらアリーゼに苦言の一つや二つ言っているところだ。

 

 だというのに何も言わない。

 むしろそれどころじゃないと言わんばかりに、考え事をし頬を赤らめて、幸せそうに何かを噛み締めている。

 

 ぶっちゃけ――――。

 

 

「気持ち悪っ」

 

 

 言葉に出てしまった。

 だが輝夜には聞こえてなかったようで、それが救いであったのかライラは改めて咳払いをして。

 

 

「――――輝夜?」

 

「ッ! ライラか。どうした?」

 

「どうしたも、こうしたも……」

 

 

 本当に様子が可笑しい。おかしいのではなく可笑しい。

 そんな可笑しい輝夜を見て、再度問いをライラは投げる。

 

 

「どうしたお前?」

 

「どうしたとは?」

 

「いや、様子が可笑しい。猫被りもしてないし」

 

「……そうでございましょうか?」

 

「そうでございますよ?」

 

 

 そこまで言うと、ライラは辺りを見渡した。

 

 

 彼女達が行なおうとしていたのは、アリーゼの言ったように炊き出しである。

 先の“大抗争”から月日は流れ、漸く落ち着きを取り戻しつつオラリオだが、その爪痕はまだ深く、今までの生活を取り戻すには時間がかかることだろう。

 

 だからこうして、ギルド主催で【デメテル・ファミリア】全面協力の下、冒険者達による炊き出しを定期的に行なわれている。

 こういった行事が行なわれるのは初めてではなく、彼女達【アストレア・ファミリア】が協力するのは当たり前と化しており、彼女達が居るのなら炊き出しにやって来る一般市民すら居るほどである。

 

 今回も彼女達は調理や配膳する為に、こうして集っていた。

 

 

「輝夜がどうしたの?」

 

 

 あらかた騒いで満足したのか、アリーゼはリューを連れてライラ達の下へとやってきた。

 ライラは端的に状況を団長へと伝える。

 

 

「輝夜がキモい」

 

「どういうこと?」

 

 

 ん、とライラが輝夜を指差す。

 対する輝夜は考え事をして、ライラの暴言など耳に入っていない様子である。

 

 ただ事じゃないと、リューは慄くように輝夜を見るが、アリーゼの反応は違うものだ。

 したり顔で、ニヤニヤ笑みを浮かべて。

 

 

「なるほどねー」

 

「えっ、解ったんですか?」

 

 

 リューは驚いた様子でアリーゼに問う。

 彼女は、もちろん、と頷いて。

 

 

「リオン、見なさい。アレが恋するメスの顔よっ!」

 

「だ、だだだだ誰が恋をしている、だ!」

 

 

 慌てた調子で輝夜は否定するも、顔を真っ赤にししている故にその姿に説得力がない。

 

 その姿を見たライラは薄ら寒そうに笑みを浮かべて。

 

 

「あー、なるほど」

 

「えっ、輝夜が? 誰にですか??」

 

 

 意外そうに眼を丸くして、リューは問いを投げるが誰も答えない。

 

 それよりも、とアリーゼは笑みを深めて輝夜の両肩を掴み。

 

 

「そんな輝夜に嬉しい嬉しいサプライズよ!」

 

「えっ?」

 

「今日の炊き出しに、スペシャルな助っ人を呼びました!」

 

 

 誰でしょう、とリューは首を傾げる。

 解るだろう、と呆れた目でリューを見るライラ。

 まさか、と、輝夜の顔は赤くなっていく。

 

 そんな中、アリーゼは笑みを益々深めて。それはもう、先程の騒がしい正体がこれだと言わんばかりに。サプライズが楽しみで、今まで我慢してきたがもう辛抱たまらない、とアリーゼは事実だけを口にした。

 

 

「今日は“何でも屋アーデ”さんと合同で炊き出しを開始します!」

 

 

 

 

 

 

 





 ▼アルマ「炊き出しってことは、タダって事だよな?」
 ▼アルフィア「阿呆か貴様。私達は食わせる側だ」
 ▼リリルカ「ここで名を売って、みんなに覚えてもらいましょうー!!」
 ▼アストレアは逃走した。
 ▼輝夜は慌てている
 ▼リューはいまいち解っていない
 ▼アリーゼ「愉悦」
 ▼ライラ「団長が一番悪い」



>>ゴジョウノ・輝夜
 静寂さんにボコボコにされてたのを黒いのに助けられる。
 背中が頼もしく見えた。ぶっちゃけ一目ぼれ。態度が思春期の男子みたいな感じになる。まともに喋れなくなる。
 ちなみに、黒いのは助けたとかそんな気はない。


>>アリーゼ・ローヴェル
 黒いのと気が合う赤いの。
 輝夜の恋路を応援する為に“何でも屋アーデ”に依頼した訳ではない。輝夜の見慣れない姿を見たいから依頼した。ぶっちゃけ愉快犯。一番悪い。
 むしろアストレア様の背中を押すために依頼したが逃げられる。


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