ブギーマンは世界を大いに嗤う   作:兵隊

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第13話 炊き出しって食べ放題ってこと? ②

 

「【静寂】、まだ生きていたのか」

 

「そういうお前もな。吹けば飛ぶ紙屑なりに、丈夫であるらしい」

 

「ほう、これは意外だ。紙屑の顔を覚えていたか」

 

「覚えているとも。不恰好に地に伏すお前の姿は滑稽と言う他なかったからな。あんな姿を見せられては、嫌が応にも覚える」

 

「それはそれは、大変申し訳ない。ならばあの借りを、今ここで返してやろうか糞婆」

 

「訂正しろ。私はまだ26歳だ」

 

「とてもそうは見えなかった。しかし、26歳か。良くそんな格好で外を出歩けるな?」

 

「しょうがあるまい。あの()()が私のために、何せ“私のため”に誂えた一品物だ。それを着てやらねば女が廃るというモノだろう?」

 

「……似合わないな女王様」

 

「そうか? そうは思わんがな。それを証拠に、あの()()は大層気に入っているようだぞ? これしか着せて貰えないからな。()()は私を物のように、着る服すら私に自由はない。同情してくれよ、なぁ輝夜?」

 

「あぁ、同情しよう。そんなに嫌なら剝いてやろうか? ただし、真っ二つだがな」

 

「出来るのか、【大和竜胆】。Lv.もアレから上がってないようだが?」

 

「試してみるか、糞婆」

 

「やってみるがいい、小娘が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あんなムキになってるアルフィアさん、リリは初めて見ました……」

 

 

 どこか怯える様子で、遠巻きにみていたメイド服を着た小人族(パルゥム)の少女――――リリルカ・アーデは隠れるようにして観察していた。

 少女の視線の先には、自身と同じくメイド服を着たアルフィア。そして、長い黒髪に艶やかな着物が絵になっている人間の女性――――ゴジョウノ・輝夜の姿。

 

 二人はどういうわけか、睨み合っている。

 いいや、そんな生易しいものじゃない。殺気を容赦なくぶつけ合っている――――つまりは、メンチを切り合っているような状況。

 一触即発。寧ろ既に爆発した後というべきか、それとも表面張力によってギリギリ零れない状態を保っているというべきか。どちらにしても、些細なことで爆発し、二人は殺し合いを始めるような。そんな緊迫とした雰囲気を、彼女達は惜し気もなく、周囲に気を配る事もなく、嫌悪と言う嫌悪を振りまいていた。

 

 メイド服をプレゼントされている程度で驕るな年増が、と輝夜。

 悔しかったらまともに会話が出来るようになれ青二才、とアルフィア。

 やんのかコラ、上等だコラ、と両者一歩も譲らない。むしろ譲れない、そんな凄みが二人にはあった。

 

 

 リリルカにとって、そんなアルフィアを見るのは初めてであった。

 いつもは、何でも屋アーデの社長たるアルマ・エーベルバッハの思いつきのような無茶な物言いも、呆れながらも冷静に捌いている。その口調は理性が在り知性があり、何よりも余裕がある。大人の女性とは、アルフィアのことであるとリリルカは思っていた。

 

 だが今のアルフィアは、そんなリリルカにあった大人の女性であったアルフィア像とは程遠い。

 

 別に幻滅したわけではない。

 寧ろ意外な物を見たと。珍しい光景を見れたことで、若干気分が高揚していた。

 もしかして、アルフィアさんって面白い人? と、少しだけ失礼な事を考えてリリルカは観察を続ける。

 

 そんな少女に。

 

 

「あー、少し良いか?」

 

「はい?」

 

 

 リリルカは振り返る。

 そこには気まずそうに、頬を片手に人差し指で掻いている軽装な格好をした桃色の髪の小人族(パルゥム)――――ライラが立っていた。

 

 

 同族ということもあり、声をかけてみたはいいが、少女はライラよりも遥かに歳下であり、子供の相手など慣れていない彼女からしてみたら何て切り出せばいいか解らずにいた。

 これが団長(アリーゼ)や敬愛する主神アストレアであったらどうするか、と少しだけ考えてライラは言葉を選びながら口を開く。

 

 

「お前、アレだろ。【抑止力(ジョーカー)】のとこの小人族(パルゥム)でいいんだよな?」

 

「はい。リリは社長の従業員ですが……」

 

 

 どこか警戒するように、リリルカはライラの出方を見る。

 警戒心が強く、幼いながらもその行動には賢しさがあり、ライラはどこか自身と似た気配を感じる。

 

 ともあれ、一方的な親近感など迷惑なだけだと、ライラは今は警戒心を解くことに専心することにする。

 もっと言えば、慣れない愛想笑いを浮かべて、自分は無害である事を訴えながら。

 

 

「アタシはライラ。【アストレア・ファミリア】の――――」

 

 

 冒険者だ、と口にしかけるが遮るようにしてリリルカはライラに詰め寄り。

 

 

「――――冒険者さんですねっ!」

 

「お、おぉ!?」

 

 

 ライラは思わず、仰け反り一歩後ろに後退するも、それよりも早くリリルカは小人族(パルゥム)特有の小さな手で、ライラの両手を握る。

 

 先程の警戒心はどこへやら。

 リリルカはニコニコ満面の笑みで続けて言う。

 

 

「リリはリリルカ・アーデといいます! “何でも屋アーデ”の経理担当です。今後とも“何でも屋アーデ”をどうぞよろしくお願いします!」

 

「よ、よろしく――――って経理? お前が?」

 

「はいっ!」

 

 

 ライラは一度離れて、上から下まで。頭の天辺から、足のつま先まで観察する。

 小人族(パルゥム)の実年齢は解り辛い。成人したとしても身長は100セルチがあれば高身長の部類であり、自身もそれ以下である。だがどうみても、リリルカは幼子であり、ライラよりも遥かに歳下であった。

 そんな子供が経理担当。つまりは会社の財務を管理するという事に他ならない。

 

 

「……リリって言ったな。お前、歳は?」

 

「10歳になりました」

 

 

 マジか、と。

 今も尚、輝夜とメンチを切り合っているアルフィアに視線を向ける。

 

 何をやってるんだよ【静寂】、と呆れた表情で見るが、直ぐにライラは認識を改める。

 アルマという人間がどのような人間かいまいち把握できないが、アルフィアはある程度ではあるものの解っているつもりだ。

 あのプライドの高い女王様が、財務関係といった企業の急所を任せるのだ。それなりにリリルカという少女は優秀なのだろうとライラは推察する。

 

 おまけに愛嬌も良い。

 満面の笑みで今も尚、ライラを見つめるリリルカ。

 相手を不快にさせないように、幼子という最大限のアドバンテージを生かした振る舞いといえる。次に繋げるように、また雇ってもらえるように、少女は“何でも屋アーデ”がどれほど使えるのか、アピールしているのだろう。

 

 ライラは笑みを浮かべる。

 満面の笑みとは程遠い。口元を吊り上げるような、意地の悪い笑み。

 とはいえ、表情とは裏腹に悪い気はしなかった。【勇者(ブレイバー)】といい、自身といい、目の前の少女といい、同じく知恵を振り絞って生きる者。つまりは同じ穴の狢。どこか親近感をライラは抱いていた。

 

 

「悪くねぇ。だが、まだまだ。猫を被るなら徹底的にやりな」

 

「……どういう意味でしょうか?」

 

 

 ライラはクツクツと喉を鳴らすように笑みを浮かべて。

 

 

「動揺したら終わりだ」

 

「……」

 

 

 もはや演技は通じないと理解したリリルカは、直ぐに表情を変えた。

 どこか拗ねたような、歳相応の子供のような表情でリリルカは口を開く。

 

 

「……こんな直ぐに見破られるとは思ってませんでした」

 

「年季が違うんだよ年季が。しかもお前、冒険者嫌いだろ?」

 

「……はい」

 

 

 隠すことなく素直に肯定するリリルカに、悪い気をしていないのライラは更にご機嫌な調子で言う。

 

 

「アタシが【アストレア・ファミリア】の冒険者だと解って、私情を捨てたのは立派だが、ちょっとリアクションがオーバー過ぎたな。アレがなかったらアタシもまだ騙されてたかもしれねぇ」

 

 

 だが、と言葉を区切りライラは出来の悪い生徒を注意するかのように朗々と続けて。

 

 

「筋は悪くねぇ。荒削りだが素質もあるし、おまけに頭の回転も速い。リリって言ったっけ? 気に入ったぜ」

 

 

 いきなり褒められたリリルカは、いまいち要領の得ない表情。

 それが尚更面白かったのか、ライラは笑みを深めて

 

 

「小狡い小人族(パルゥム)同士、仲良くやろうや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん! 皆仲良さそうで、私も嬉しいわ!」

 

「いいや、アリーゼ。この惨状を見て、どうしてそう思えるのですか?」

 

 

 居丈高に暢気に、長い赤髪を後頭部で一つにまとめて垂らした髪型の女性――――アリーゼ・ローヴェルは満足そうに何度も頷く。

 対して困ったように呆れたように、自身の所属しているファミリアの団長の感性に疑惑の眼差しを向けているのは金色の長髪で口元をマスクで隠しているエルフの女性――――リュー・リオンだ。

 

 リューは周囲に視線を向ける。

 今だにいがみ合っているアルフィアと輝夜。

 そして、そんなことに無関心を貫き、小さな身体を寄せ合って何やら良からぬ事をリリルカに吹き込んでいるライラ。

 

 統率など取れているわけがない。

 各々好き勝手に行動し、何だったらこれから殺し合いでも始めかねない者達が存在する。

 

 本当に、これから炊き出しなんて出来るのか、とリューが困惑し始めるのも無理はない。

 むしろ、想定される最悪。輝夜とアルフィアが殺し合いを始めたときのために、備えていたほうが良いのではないかとリューが考えていると。

 

 

「大丈夫だろ」

 

 

 リューの心を見透かしたように、アリーゼと同じく暢気な調子で見物していた黒髪黒眼の男――――アルマ・エーベルバッハが続けて言う。

 

 

「いざとなったらオレがどうにかするし」

 

「……どうにか出来るのですか貴方に」

 

「応とも。その辺りは心配しなくて良い。何せオレだからな」

 

 

 根拠もない自信、と彼を知らない人間が聞けばそう思うが、リューはある程度アルマのことは解っている。

 とはいっても、こうして直接話すのは初めてであるし、彼の実力を知るのは噂程度でしかない。【静寂】と【暴喰】と同時に相手取り撃滅したと耳にしたが、本当かどうかも疑わしいもの。

 

 そんな疑惑が、表情として出ていたのか、アルマはリューの視線に気付いて。

 

 

「まぁ、信じろというのが無理だわな」

 

 

 アルマの表情は不快に歪んだモノではなかった。

 むしろ嬉しそうに、朗々とした口調で続けて。

 

 

「しかし、アンタは楽しくなさそうだな? 少しでも笑ったら可愛げあるのに勿体無い」

 

「…………」

 

 

 特に感情が乱れる事はない。

 初対面の異性に、そんなことを言うアルマになんて軽薄な人間なのだろう、と若干の軽蔑な視線を送っていると。

 

 

「なになに、【抑止力(ジョーカー)】君。うちのリオンをナンパしてるの?」

 

 

 面白そうに割り込んでくるアリーゼ。

 リューを助けた、という事ではない。ただ単純に、面白い展開になりそうだから口を挟んで来たという認識でしかない。

 

 アルマは、いいや、と首を横に振って。

 

 

「ケツも良い形だし、スタイルもいいんだが、ちょっとオレの好みから外れるからなぁ」

 

「――――――――――は?」

 

 

 苛ッ、と。リューは口を出した。

 別にこの男の好みじゃないことに苛立っているわけではない。だが何と言うか。ここまで無下にされるのはどうか、と。初対面であり、あまり良い印象を抱いていない男に、ここまで言われるのはそれはそれで、面白くないというリューの全うな乙女心。

 

 当の張本人であるアルマは、もはやリューなど気にしていなかった。

 アリーゼに気安い口調で。

 

 

「アリーゼって言ったよな。どうしてウチを使ったんだ?」

 

「どうしてって?」

 

「炊き出しだ。今までだって、アンタ達でも回せただろ? 人員不足ってわけでもないし、ヴァリスまで払ってまでどうしてウチを使ったのかなって思ってな」

 

「あぁ、なるほど」

 

 

 アルマの言わんとしている事を納得したアリーゼは極めて明るい口調で。

 

 

「輝夜へのサプライズ。あとはアストレア様の背中を押してあげようと思って」

 

「アストレア?」

 

「私達の主神よ」

 

 

 アリーゼはあまりにも堂々と、そして何かを企てている意地悪い笑みを浮かべて続けて言う。

 

 

「君の事を気にしてたみたいだから」

 

「待ってくださいアリーゼ、それは初耳だ。アストレア様がこんな男を気にしておられたとは、どういう意味ですか?」

 

 

 真剣な表情で詰め寄るリューに、アリーゼは若干気圧されながらも。

 

 

「ちょ、ちょっとリオン。落ち着きなさいって」

 

「いいや、落ち着いてなんていられない。アストレア様をこんな得体の知れない男からお守りするべきです」

 

「酷い言われようだな」

 

 

 対するアルマは特に気にする事もなく、むしろリューの反応が新鮮と言わんばかりに笑いながら。

 

 

「それでアストレアってのは何処に居るんだ?」

 

「それが直前で逃げちゃって。ここにはいないのよね」

 

 

 そうか、と呟いてアルマは納得するように。

 

 

「それは残念だ。オレもアストレアと話してみたかった-―――」

           「――――多分そいつが、ヘルメスの言ってた女神なんだろうからな」

 

 

 

 





>>リュー・リオン
 箱入りエルフ。
 黒いのが気に入らない。というか嫌い。デリカシーの欠けるところが。
 ツンツンリューさん。これからデレることはあるのだろうか。

>>ライラ
 腹黒さでいえば年季が違う。
 リリの演技を一発で見破る。流石ライラ姉さん。
 リリを気に入る。よくない知識を伝授するだろうことが予想される。
 ますますリリが悪い子になる。


>>メンチ
 負けられない女の戦い。
 輝夜としても、一目ぼれした男に付き慕うがいけ好かない女には負けられない。
 アルフィアさん、嫌いと言ってたのにどうしてムキになってるんです?

>>「ケツも良い形だし、スタイルもいいんだが、ちょっとオレの好みから外れるからなぁ」
 よろしい、ならば戦争だ

>>ヘルメスの言ってた女神
 第5話参照


 ▼アルフィアと輝夜が料理対決し始めた
 ▼リュー「何故?」
 ▼ライラとリリが意気投合している
 ▼リュー「何故??」
 ▼アルマとアリーゼが気が合っている。
 ▼アルマ「アリーゼは面白い女」
 ▼アリーゼ「アルマ君は愉快な男」
 ▼リュー「もしかして、私がしっかりしないと駄目ですか?」
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