ブギーマンは世界を大いに嗤う   作:兵隊

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 ~ぶぎーまん小ネタ話~

アルマ「アルフィア、聞いてくれ。リリルカがやばくて、何ていうかめっちゃやばくて、やばさ加減がもうやばい。もうなんだろう、凄くヤバイ何だかヤバイ」
アルフィア「結論から言え馬鹿者」
アルマ「リリルカがプリキュアになった」
アルフィア「そうだな。途中過程も言え」


第15話 頼もう byアイズたん

 

 【アストレア・ファミリア】と【デメテル・ファミリア】主催の炊き出しから数日後。

 “何でも屋アーデ”への依頼が僅かであるが増えていた。それもこれも地道な宣伝活動、そして先の炊き出しへの協力が功を為したのは明確であった。

 

 等級でいえばBランクであるものの、オラリオの中では【アストレア・ファミリア】は名の知れたファミリアである。

 そこからの依頼となれば、名が知れ渡るというもの。

 

 とはいえ、それでも劇的に変わるわけではない。

 依頼が全くなかったのが、一週間に数回に増えた程度。

 内容も規模の小さいもの。子供の面倒を見るといったモノであったり、手が離せなくなったから買物を頼まれたりと、主に雑務であった。決して、冒険者依頼(クエスト)のような規模の大きなモノではない。とても小さな、冒険者からして見たら些事とするような。極めて小さく、小さすぎて誰にも見向きされないような内容のモノであった。

 

 だからだろうか。

 報酬も格安。規模が小さい依頼故に、報酬も小さいこともあるが、原因はまだある。

 “何でも屋アーデ”の会計兼財務担当のリリルカ・アーデが少しでも利益を出そうと報酬を依頼主と交渉するも、

 

 

『それなら無料(タダ)でもいいんじゃないか?』

 

 

 と、邪魔をする男――――アルマ・エーベルバッハの存在であった。

 いいや、当人としては邪魔をする気など毛頭ない。そもそも、何でも屋なんてアルマが趣味で始めたモノだ。その辺り商売として考えてないからか、今だに利益第一に考えずに依頼を受けて、リリルカに叱られている。

 何度、少女が『社長はアホですか!?』と怒られたか解らない。それは現在進行形で――――。

 

 

「社長ー!!!」

 

 

 バン! と。

 あばら屋で今でも崩れそうな木造建築のドアを力いっぱい開けるリリルカ。

 揺れたな、とぼんやりと感想を心の中で呟き椅子に腰掛け、足を伸ばしていたアルマは何事かと問う。

 

 

「どうしたどうした?」

 

「またタダで依頼を受けたでしょー!!」

 

 

 何やってるんですかー! と、小さな身体を目一杯使って抗議するも、アルマはへらっと気の抜けた笑みを浮かべて。

 

 

「流石に子供からヴァリス受け取るのは、なぁ? カッコ悪くないか?」

 

「親からぶん取ればいいんですよー!! その為の親でしょう!!」

 

「――――オマエ、天才か?」

 

「いや、鬼かお前達」

 

 

 アルマの後ろに立って静観していたアルフィアが続けて言う。

 

 

「貴様が出掛けていたときに、シルという女が来ていたぞ」

 

「誰だそれ?」

 

「従業員として雇ってほしいとか言っていたな」

 

 

 アルフィアはどうするか聞かない。

 アルマの反応を見るように、様子を見守っていた。

 

 対するアルマは少しだけ考えて。

 

 

「んー、今は必要ないな」

 

「何故だ?」

 

「人数的に充分だし、嫌な予感がする」

 

「チッ、懸命だ」

 

「何で舌打ちした?」

 

 

 まぁいい、とアルフィアの不遜な態度を咎めることもなく、椅子に座ったまま天井を見上げて。

 

 

「あれ、もしかして今日って暇なのか?」

 

「そうなりますね」

 

 

 リリルカは懐から手のひらに収まるような小さな手帳を取り出し、予定を確認し始めた。

 カバーは牛皮。使い込めば使い込むだけ味が出るような、少女が持つには渋い代物であった。

 

 そこでアルマに疑問が過ぎる。

 今まで、リリルカは手帳を手にしていたのは記憶にある。だがいつからアレを使い始めていたのか、と。

 

 どうでもいいといえば、どうでもいい。

 だがあまりにも暇な状況故なのか、アルマは疑問をそのまま口にしていた。

 

 

「オマエ、そんなの使ってたっけ?」

 

「ライラさんに頂きました」

 

「ライラだと……?」

 

 

 反応したのはアルフィアだ。

 彼女はライラがリリルカに悪知恵を授けているのを知っている。それが面白くないのだろう。リリルカが悪い子になったらどうする――――と過保護を決めるつもりはないが、アルフィアとしても思うところがあるのか、あまり肯定するつもりもないようである。

 

 それを何となく理解しているアルマは敢えて無視することにした。

 リリルカが嫌でないのなら、交友し見識を広めるべきだと思った上で、そうか、と笑みを浮かべて。

 

 

「オマエとアイツは気が合いそうだしな。仲良くしろよ?」

 

「はい!」

 

 

 花の咲いたような満面の笑みを浮かべる。

 リリルカとしても、同じ小人族(パルゥム)であり、何よりも経験豊富なライラと話すのは楽しいのだろう。

  

 まるで見違えるようだ。

 少し前まで笑わず、世界に絶望し諦めていた少女と同一人物とは思えなかった。

 

 こうして人は成長する。

 自分と考えの違う人間に触れ、世界を見て、そして己を作り変えていくのだ。

 

 従業員の成長を嬉しく思ったアルマは立ち上がり、意気揚々とした口調で。

 

 

「いいぞ、リリルカ。何かオレもテンションが上がってくるな。参ったな、どうする。これから皆で遊びに行ってしまおうか?」

 

「仕事しろ阿呆」

 

 

 はぁ、と深くため息を吐いてアルフィアは入り口へ視線を向けて。

 

 

「その前に来客のようだ」

 

「ぬ?」

 

 

 言われてみれば確かに。

 何やら“気配”をアルマは感じた。

 

 頻繁に襲撃してくるベート・ローガでもなく、偶に襲撃してくるオッタルでもない。ましてや友人のフィン・ディムナでもなかった。

 初めてではない気配。はて、誰であろうか、とアルマは思い出していると、入り口のドアが開いた。

 

 

「お邪魔します」

 

 

 その人物は少女であった。

 十代前半の小さな体躯。長い黄金の頭髪に、黄金の双眸の少女――――アイズ・ヴァレンシュタインであった。

 

 アルフィアは眉を潜め、リリルカは意外な人物を目にしたように、アルマは別に驚いた様子はない。

 三者三様、の反応を見せる中。

 

 

「間違えた」

 

 

 それだけ言うと、アイズはドアを閉めて出て行く。

 

 謎の行動に、三人は顔を突き合わせて首を傾げる。

 それから間もなく。

 

 

「頼もう」

 

 

 と、やり直すように、アイズが再び入ってきた。

 いまいち要領の得ない状況に、リリルカはおずおず、と様子を伺うように。

 

 

「あの、どういうおつもりですか?」

 

「戦いを挑むのなら、正式な挨拶をするべきだってガレスが行ってたから」

 

「あぁ、頼もうってそういう――――って、うちは道場じゃないのですが!」

 

 

 うん、知ってる、とアイズはリリルカのツッコミに応対して、少女二人のやり取りが面白かったのか笑みを浮かべているアルマに向かって一言。

 

 

「私に稽古をつけて」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……社長とあの子ってお知り合いなんですか?」

 

 

 そう呟いたのはリリルカだ。

 少女とアルフィアがいるのはあばら屋の外。芝生の上に腰を下ろし座りながら観戦していた。

 

 視線の先にはアルマとアイズの姿。

 アイズが軽快な歩法で一瞬で距離を詰め手に持つ得物――――デスペレートでの刺突。まだまだ荒削りであるものの、精密無比なその一撃。並大抵の者であれば串刺しにされるソレを、アルマは右手に持つ何の変哲もない片手剣程の長さの()()()で苦もなく捌く。

 

 リリルカの眼では満足に追う事はできない。

 ただ、アルマが楽しそうであることだけは解る。

 それを証拠にアルマは、リリルカでは捉える事ができない必殺の刺突を全て捌き切り、アイズの首元に木の棒を当てて。

 

「おーっと、アルマ選手。11点目のリード!」と楽しそうにアルマが大人気なく告げて。

「……待って。まだ10点」と不貞腐れた様に言うアイズの姿。

 

 見ようによっては遊んでいるように見えるが、片方の持つモノは歴とした武器そのもの。人間の英知の結晶であり、人間を簡単に殺せるものだ。

 だというのに、アルマの持っているモノはどこにでもある木の棒のみ。それがアルマとアイズがいる空間を妙なものに変えている。

 

 少しでも手元が狂えば大怪我に繋がるというのに、何とも緊張感がなく、楽しそうに戯れているようにも見えて、どこかリリルカは不服そうに見つめていた。

 端的に言うのなら、少女に嫉妬していた。リリルカから見たらアイズはいきなり現れた歳の近い同性。そんな存在が、自分が慕っている男と楽しそうにしていたものなら、嫉妬もするというもの。

 

 

「知り合いといえば知り合いか?」

 

 

 リリルカの問いに答えたのはアルフィアだ。

 彼女の言葉はどこか曖昧なもの。少し前までアルマはアイズの名前すら知らずに、何か偶に来るベートのところの奴、程度の認識しかなかった。

 それを知り合いというなら、知り合いの定義は大きくなるというもの。

 

 

「社長、楽しそうですね……」

 

「……あの馬鹿者は、自身に挑んでくる者には大抵あのような対応だ」

 

 

 そういうとアルフィアは視線をリリルカからアルマに向ける。

 今度はアルマがアイズの得物を持ち、そして振るう。アイズに向けてではなく、虚空を突くように。アイズはそれを横で見ており、どうやらアルマはアイズに手本を見せているようだ。

 

 それからアイズに返してやってみるように促し、アイズは素直に頷き見様見真似でアルマと同じ動作をする。

 満足そうに頷き、アルマは木の棒を再び持ち、稽古が再開されるのを見て、リリルカへと視線を戻して。

 

 

「だから気にするな」

 

「別に気にしてません……」

 

「そうか?」

 

「そうです」

 

 

 ムスッと。

 面白くなさそうな不機嫌な口調で。

 

 

「あの子が来なければ、三人で遊びに行ってたのに……」

 

「……そうか」

 

 

 しっかりしていても、まだまだ遊び盛りの子供。

 アルマの遊びに行く発言を真に受けてしまう程度には、まだまだリリルカは純粋であった。

 

 不真面目、とアルフィアは断じるつもりはなかった。

 むしろこれが、子供としての純粋な反応であると思いながら。

 

 

「遊びに行くとして、リリルカはどこに行きたい?」

 

「リリは大賭博場(カジノ)に行って見たいです」

 

 

 訂正、不真面目どころじゃない。

 子供の概念が崩れかねないほどの場所をリリルカは口にしていた。

 誰が余計な知識を植えつけたのか。

 

 

「社長が楽しいところだと言っていたので」

 

 

 敵は身内にいた。

 あの戯けは何をリリルカに吹き込んでいるのか、とアルフィアは原因の男を思いっきり睨みつける。

 

 睨みつけられたアルマといえば、なぜ睨みつけられているのか解らず首をかしげながら、見学していた二人に近付き。

 

 

「リリルカ、ちょっとアイツに水でも渡してやってくんない?」

 

 

 アイツとはアイズの事を言っているのだろう。

 どうやら休憩のようで、肩で息をしながらアイズは座り込んでいる。片やアルマといえば、汗一つ掻いておらず涼しい顔。

 

 

「……どうしてリリがそんなことをしなければならないのですか?」

 

「おっ、どうした。何を怒ってるんだ?」

 

 

 もしかしてもう反抗期が来たか、と的外れな事を呟いてアルマは続ける。

 

 

「夜、楽しいところに連れて行ってやるからさ。頼むよ」

 

「……本当ですか?」

 

「本当本当。エーベルバッハ、嘘言わない」

 

「……約束ですよ。雨水で良いですよね」

 

「いいよ。弊社にはそれしかないし」

 

 

 渋々といった調子で、リリルカは重い腰を上げて早足であばら屋へ戻っていった。

 それを見送ったアルフィアはポツリと冷たい声色で。

 

 

「クズめ」

 

「何だいきなり。オマエも反抗期か」

 

「あの子に何を吹き込んだ」

 

「……困った。心当たりがありすぎるな」

 

 

 一体どれの事を言っているのか少しだけ考えるが、今に始まった事でもないと直ぐに話題を切り替えて、アルマはアルフィアの横に座り込み、飄々とした口調で。

 

 

「にしても、アイツ筋が良いな。フィンのところの奴だろ?」

 

「……ダンジョンの娘か」

 

 

 どこか忌々しげに呟くアルフィアに、アルマは問いを投げた。

 

 

「何だそれ?」

 

「興味があるのか?」

 

「いいや、実のところ全く。アイツが普通じゃない事は何となく解るけどな」

 

 

 それっきり、アルマから続く言葉はなかった。本当に興味がないのだろう。

 アルフィアもそれ以上口を開く事はない。アルマの性格を理解しているからだろうか、彼が本当に興味がないことはアルフィアも解っていた。

 

 それよりも二人は水を持っていくリリルカに視線を向ける。

 ぶっきらぼうに、リリルカは水を差し出し、アイズはそれを、ありがとう、と素直に礼を述べて受け取った。

 対するリリルカは、何やら妙な反応。ばつの悪そうな表情になりながら、自身のあまりな態度に謝罪の言葉を述べて、アイズの隣に座り対話を始めた。

 

 子供同士ということもあってか、仲良くなるのが大人の比じゃないな、とアルマはぼんやりと眺めていた。

 

 そこでアルフィアに視線を向ける。

 何やら神妙な顔立ち。何もかもが億劫そうないつもの表情ではなく、眼を細めて眩しいモノを見るような眼差しで、何者かと照らし合わせるかのように見ていた。

 

 

「会いに行けよ」

 

「何?」

 

 

 突然の言葉にアルフィアは二人へと向けていた視線を、アルマに移した。

 彼は呆れた目を向けて言う。

 

 

「ザルドも言ってたけど、馬鹿の息子ってアレだろ。メーテリアの子供の事だろ?」

 

「……そうだ」

 

「ソイツと、アイツらを、オマエはだぶらせて見ている、と」

 

 

 長い沈黙。

 風が吹き、両者の間を流れて凪いで。

 

 

「……………そうだ」

 

「そこまでソイツが気になるなら、会いに行けば良いだろう」

 

「……合わせる顔がない」

 

 

 アルフィアにしては珍しく弱々しい声。

 

 どの面を下げて、今更会いに行けば良いのか彼女にはわからなかった。

 時代に繋げるために、命を投げ捨てて、数多の人間を傷つけてきた。無様に生き残ってしまったこの身で、どのような顔で最愛の妹の息子に会えば良いのか解らなかった。

 

 そんな苦悩を、勝手に救った黒い男はケラケラと笑みを浮かべて、これまた勝手なことを口にする。

 

 

「馬鹿だなオマエ。簡単だろ。合わせる顔がないのなら作れよそんなもの」

 

「……馬鹿は貴様だ。そんなこと、出来るわけがないだろう」

 

「出来るさ」

 

 

 間髪いれずに、否定された言葉を更に否定して。

 

 

「歳が近いってだけで、ダブって見えちまうんだろ? それくらい大事に思っているって訳だ。だったら会いに行けよ、んでもって抱しめちまえば良い。簡単な話なんだよ」

 

 

 それに、と言葉を区切りアルマは続ける。

 

 

「別れってのは突然やって来る。あの時こうしておけば良かったとか、後悔は後からいくらでもやって来る。だから今からやれることは、今やっておくべきなんだよ」

 

「…………」

 

 

 それは誰に向けての言葉なのか。

 アルフィアに向けられたモノなのか、それとも自分に言い聞かせるモノなのか。

 

 問いを投げたところで、その者が還ってくるわけでもない。

 アルマにとってはそれは過ぎた過去であり、アルフィアにとってはこれから先の未来の話しなのだから。

 

 そこでふと、不自然なくらい会話が途切れる。

 アルフィアは意識と視線をアルマへと向けた。

 

 彼は明後日の方向へ視線を向けていた。

 向ける先はオラリオ中心部付近。視線を外さずに、照準を定めるように、思い出したかのように呟いた。

 

 

「へぇ、フィンが言ってた奴ってコイツか」

 

「なんだ?」

 

 

 アルフィアは問うが、いいや、とアルマは首を横に振るも視線を外す事はない。値踏みしながら睨め付けて。

 

 

「良い機会だ。オマエとリリルカでメーテリアの子供に会って来いよ」

 

「……貴様、何のつもりだ? 何を隠している?」

 

「何も。いいじゃないか。気分転換に旅行して来いよ――――」

            「――――社長命令だ。ちょっとオマエ達、オラリオから出ろ」

 

 

 

 

 

 

 

 




>>「……ダンジョンの娘か」
>>「アイツが普通じゃない事は何となく解るけどな」
 もうお前等知っていること全部吐け


>>「ザルドも言ってたけど、馬鹿の息子ってアレだろ。メーテリアの子供の事だろ?」
 幕間 フレイヤ様が見ているを参照(ダイマ)

>>「へぇ、フィンが言ってた奴ってコイツか」
  第14話 炊き出しって食べ放題ってこと? ③参照(ダイマ)

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