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~ぶぎーまん 前回のあらすじ~
リヴェリア「あ、アイズは無事なんだな?」
アルマ「応とも」
アルフィア「騒がれるのも面倒だからな。少し大人しくさせている」
リヴェリア「な、なんだと!? まさか手荒な真似を――――」
アルマ「リリルカと一緒にカニを食べさせている」
リヴェリア「厚遇、だと?」
夜といっても差し支えのない時刻。
昼間では一般人が食事処として繁盛していた“豊饒の女主人”。夜になり客層も、
かんぱーい! とご機嫌に木製のジョッキをぶつけ合う一団もあれば、ご機嫌な調子で食事を楽しんでいる卓もあり、来店したばかりなのか店員に注文をしまくる者達もいる。
つまりは酒場。一日の疲れを酒で癒すように、日頃の鬱憤を騒いで晴らすように、美味い物を食し次の日に備えるように、冒険者は各々好きに飲み食いしていた。
そんな中、“豊饒の女主人”の片隅で、これまた妙な組み合わせの二人組が存在していた。
一人は人間。
黒髪黒眼の男はご機嫌に、次から次へと運ばれる食べ物に手を出し、余すことなく平らげていく。
美味い。これも美味い。アレも美味い。そんなことを言いながら食べる姿は圧巻の一言。男の姿は中肉中背。どこにそんな量が収まっているのか、疑問が尽きない。
対してそれを見ているのは一柱の男神であった。
今となっては空になっている木製の木皿が山となっているのを見てか、それとも運ばれてくる食事を一定の速度で口に入れる男を見てか、はたまた食事の量を見てか。
長い頭髪、眼を覆う前髪から見て、男神――――ソーマは圧倒されるように、木製のジョッキを両手で持ち、入っている酒を口に含み飲み込んで。
「相変わらず、よく食べる」
感心するように、呆れるように、現状を正しく認識するように、ソーマは引き気味に口にしていた。
向けられた言葉は黒髪黒眼の男――――アルマ・エーベルバッハであった。
その言葉に対して、アルマは首を傾げてなんでもない口調で。
「まだ腹六分目だ」
「……食べすぎは身体に悪い」
「酒造りが趣味のオマエが言うのかそれ?」
だが確かに、とアルマはソーマの言い分を認めて、一端食事をする手を止めて口を開く。
「オマエが飲んでるの酒?」
「そうだ」
「実際どうなんだ? 自分の造った酒と比べて。美味いもんなのか?」
アルマも何度かソーマの酒を口にした事がある。
失敗作でも高値で取引されるのも頷ける程度には美味であった。今まで飲んできたもので、アレ以上のものはないだろうと言い切れる。
だが同時に、酒としてどうなのか、とアルマは苦言を口にしていた。
酒とは、飲んで高揚し楽しむものであるとアルマは考えている。正気を失って、酔いしれるだけのもモノを、果たしてそれは酒と呼んで良いものなのだろうか。
そういう意味では、失敗作の方がアルマとしては好ましい。
――それを伝えたときのソーマの顔っていったらもう。
――面白いリアクションだったから、腹を抱えて笑ったが、悪い事をしたかもしれないな。
――コイツにとって酒造りは、コイツそのものと言ってもいい。
そこまで思い出し、アルマはふと思い出し口にする。
「アレ以降か。酒を造っては、オレに飲ませて感想を聞きに来るようになったのは……」
「何だ?」
「いいや、気にするな」
それだけ言うとアルマは、木製のジョッキを片手に持ち、入っていた酒を飲み干した。
胸の辺りが熱くなり、気持ちが昂ぶるような高揚感を覚えるものの、それに溺れることなくアルマは再びソーマに同じ内容を尋ねる。
「それで、美味いもんなのか?」
「無論だ。みんな違って、みんな良い」
「へぇ、そういうもんか」
「それに、俺が造ったモノとは全く別物であるからこそ、学ぶべき点がいくつもある」
そういうと、ソーマは饒舌となっていく。
普段は何もかもが億劫であるかのような陰険な口調であるが、酒ととなると話は別だ。若干早口になりながら、それでいてどこか弾むような口調で続ける。
「そもそも、酒は色々な種類がある。原材料が果実でありそれが発酵されると
「あー、それは――――」
「――――そうだ。極めてもキリがない。酒造りを専門としている俺でも、学ぶモノがまだまだあるということだ」
「いいや、オレ何も言ってないんだが?」
ソーマが意気揚々とこちらの話を全く聞かずに力説し始めているのは、きっと酒造りの話題を振った自分の落ち度であるとアルマは半ば諦めることにした。
それよりも聞きなれない酒がソーマの口から告げられた事を思い出す。
あまり飲んだことがなかった、とアルマは
「しかし、
「……飲ませたことなかったか?」
「ないよ。確かオマエの他に、
「――――アルマ」
遮るように。
ソーマは先程饒舌になっていた様子とはまた違う、有無を言わせない雰囲気を纏っていた。
もしかして地雷でも踏んだか、とアルマはぼんやり思っていると、ソーマは重々しく口を開く。
「俺の方が、上手く、造れる」
「そうなのか?」
「あぁ。だから、俺が造った酒から飲め。俺が必ず満足させてやる」
「それはいいけど、オマエの情緒どうなってるんだ?」
ソーマは答えない。
何やら没頭し始めてしまい、ブツブツ、と呟き始める。どう上手く発酵できるか、果実は何を選ぶべきか、思考が口から漏れているのに気付かず。彼が持ち得る酒造りの技術の全てを用いて
アルマは首を傾げて、そこまで他の神を引き合いに出されたのが気に入らなかったのか、と考えていた。
つまりはそのとおりだ。ソーマにとってアルマは希少な人間。ある日、突然現れて、眷族やファミリアの内情に口を出し、酒造りを褒め、あまつさえ図々しく飲ませろと勝手な注文までしてきた。ソーマは趣味に没頭する神である。対神関係は疎く、それは人間に対してもそうだ。ソーマと言う男神は、他者とコミュニケーションをとることを苦手としている。
そんな中、突然現れた妙な人間。
酒を飲ませ美味いと称え、でも失敗作のほうが好きだ、と堂々と口にする。それは真実であった。臆面もなく言い切るアルマに、ソーマが興味を示すのはは時間の問題だったのかもしれない。
そして興味は次第に、好感へと変わり、いつの間にか酒を造り、アルマに感想を聞くようになっていた。
正気を保ち、褒める部分は絶賛し、口に合わなければ容赦なく駄目出しをする。そんな裏表のないアルマに、ソーマは好感を持っていた。
そんなアルマが、他の神の酒を飲みたいというのだ。
ソーマにとって、それは大変面白くない言葉であった。
対するアルマはそんなソーマの心境に気付く事なく、美味い酒を飲ませてくれるならそれでいいと断じていた。
深く考えれば、アルマも何となく察する事を、彼は思考を放棄する。何やらやる気になっているし、水を差すのも悪いだろう、という程度の理由でソーマを放置する事にしていた。
そうしていると。
「はい、アルマさん。お待たせしましたー」
愛想の良さそうな、可愛らしい声が耳に入る。
咄嗟に、アルマはその声に応じた。
「悪いな、フレイ――――」
そちらに目を向けると初対面の少女。
薄鈍色の髪の人当たりの良さそうな笑みを浮かべる、豊饒の女主人のウェイトレス。見たことがない人間の少女がアルマに木製のジョッキを差し出していた。
先程、注文した酒を届けに来てくれたのだろう。
ウェイトレスとして、それは全うな接客である。
愛想笑いを浮かべて、極めて明るい声。アルマの名前を知っているのも、彼がここでは“厄介な常連”として、名が知れ渡っており、彼女がアルマの名前を知っているのも納得がいく。
それでも、アルマは腑に落ちない様子で、少女の顔をジッと見つめる。
問題の少女は、頬を紅く染めて、モジモジとエプロンを握り締めて。
「あ、あの。そんなに見つめられると……」
「あぁ、ごめんな」
アルマは素直に謝罪の言葉を述べて、木製のジョッキを受け取り。
「何か知り合いの女神に似ててさ。……んー、勘違いだよな。でも何だか、んー?」
「そんな、女神だなんて、照れちゃいますよ……」
「あー、そういう意味で言ったわけじゃないんだが」
そこまで言うと、アルマは言い淀む。
少女が女神と言うわけではない。知り合いの女神に良く似ていると言ったつもりなのだが、どうやら少女は違う意味で受け取ったようだ。
ご機嫌な調子で、見る限り浮かれており、頬を紅潮させている。
ここで思いっきり否定してもよかったのだが、気を良くしているのだから敢えて言うのも意地の悪い事だと、アルマはとりあえず放置する事にした。
「それよりも、アンタ名前は何ていうんだ?」
「あれ、アルフィアさんから聞いてませんか?」
アルマは首をかしげながら、ジョッキの中に入っていた酒を飲む。
ここでどうしてアルフィアの名前が出てくるのか、本当の意味で解らなかった。
そんなアルマを、ジッと見て、嘆息をして。
「私、貴方のお店に面接に行ったのですが……」
「おぉ? 聞いたことがあるな」
待て、と。
自分の手のひらを少女に向けて、彼女の言葉を遮る。
喉の奥辺りまで出掛けているのに思い出せない。
アルフィアは忌々しげに、退屈そうに、不機嫌そうに、あの時なんと言っていたか。アルマは思い出しながら。
「シル。そうだった、シルって名前だったか。そうか、オマエがシルって奴か」
「はい! シル・フローヴァですっ!」
少女――――シル・フローヴァはアルマに向かって花の咲いたような満面の笑みを向ける。
名を思い出し、その名を呼んでもらう。それこそが至高の喜びと言うかのように、シルは浮かれていた。
アルマとしては、どうして彼女がここまで喜んでいるのかいまいち理解が出来ない。
それよりもどうして、自分はシルをフレイヤと間違えてしまったのか腑に落ちない表情で再度問うた。
「なぁ。オマエってフレイヤって奴と関係ある?」
「フレイヤ様と私がですか?」
シルは困った笑みを浮かべて。
「あるわけがないですよ。しがない人間ですよ私は」
「んー、そうか。おかしいなぁ……」
「……どうして関係あると思ったんですか?」
「何でってアレだ。雰囲気かな?」
それと、と言葉を区切りアルマは言葉を続ける。
「後は眼だな」
「眼、ですか……?」
「ん。目つきなんて全然違うんだけど、眼の奥がそっくりなんだよなぁ。何か、我が強くて強欲と言うか、でもしっかりオレを見ていて、綺麗な色でオレが好きな眼をしているんだ」
「――――――――――ッ!?」
ぐるり、と。
眼も止まらぬ速さで、シルはアルマに背を向けた。見てみれば、耳まで真っ赤に染まっていた。
アルマは首を傾げる。
まるで本気で照れているような、どうしてシルがそんな反応をするのか解らない。
そこでアルマはソーマに話しを振る事にした。
ブツブツ、と今だに自分の世界に浸っている彼にアルマは口を開く。
「なぁ、ソーマ。シルって似てるよな?」
「……誰とだ?」
「え、なに。オマエ全く話し聞いてなかったのか?」
「あぁ」
あまりにもマイペース。
もしかしたら、自分よりも上なのではないかとアルマは溜息を吐いて。
「シルとフレイヤだよ。似てないか?」
「似てるも何も、俺はフレイヤに会った事がない」
「そうなのか?」
「あぁ」
「どうして」
「普段、出歩かないから」
「そういえば、オマエも
呆れた口調でソーマを見る。同じ、つまりは引きこもり。そんな男が他の神と交流がある筈もない。
会った事がないのなら仕方ない。となれば確かめようがなく、この話しはこれでおしまい。アルマはそう勝手に切り上げて、再び木製のジョッキに入っていた酒を口に含む。
どれだけ飲むのか、とソーマはアルマを観察しながら、ふと疑問が浮かび問う。
「こんなところで油を売ってていいのか?」
「というと?」
「お前のところの従業員が迎えに来るんじゃないか?」
「良くぞ聞いてくれたなソーマ」
ふっふっふ、と含み笑いを浮かべて、アルマは居丈高に告げる。
「今、アイツらは旅行中だ。つまり、オレは今や自由。なんと清清しい。思う存分、羽を伸ばせるというもの!」
「いつも伸ばしているだろう」
「おーい、ミアー! おかわりくれよー!」
ソーマの言葉など華麗に無視。
アルマは上機嫌に豊饒の女主人の店主――――ミア・グランドに注文をする。
だがミアの反応はない。
むしろどこか剣呑で、客であるというのにアルマを睨みつけて、低い声で以て口を開く。
「アンタ、ヴァリスは持ち合わせてるんだろうね?」
「愚問だな。オレだぞ? 今日もツケで頼む」
「死にな」
大きな舌打ち。それに伴い、右手の親指を下に向ける。
憎悪増し増し、非難轟々、殺意熱々。とてもではないが、客に向けて良い感情ではない。だがそれも当然だ。金銭を払わないのだから、アルマはもはや客でもなければ人でもない。ただの畜生に人らしい感情など向けられる筈もない。
ミアだけではない。豊饒の女主人の従業員全員がブーブーとブーイングをアルマに向けている。
それを一身に浴びて、アルマはやれやれ、と首を横に振り。
「怒られちゃった」
「当然だろう」
一連の流れを見て、ソーマは一言で済ませた。
あまり外に出歩かず、一般常識が疎い身であると自覚している彼でも解る。今のはアルマが全面的に悪いと。
それでもアルマは響かない。
にんまりと破顔一笑に付して自信満々に言う。
「まぁ、待て。宛てはあるんだ」
「誰に借りるんだ?」
「仕事だよ仕事。これからでかい仕事があってな」
「これから? 今夜か?」
そうだ、とアルマは頷いて、今だに顔を赤く染めて固まっているシルに向かって。
「おい、シル。そろそろ帰ってきて欲しいわけだが」
「は、はいっ!!」
なんでしょうか、とシルは振り返り、アルマは彼女に二つに折った羊皮紙を手渡す。
「アルフィア達がここに来たら渡してほしいんだ」
「それはいいですけど……」
「気になるんなら見ても良いぞ」
シルは頷いて、恐る恐る見る。
羊皮紙に書かれてある内容を見て首を傾げて。
「何ですかこれ……」
「アレだ。リリルカに習って、念には念をって奴だ」
「大事だろ、ほうれんそうってやつ」
>>ソーマ
アルマの友達。
自慢の酒を褒めて褒めて、駄目な部分を指摘をされる。
要約すると、オタクに優しいギャルムーブをされて、アルマに懐く。
なんでさ。
>>シル・フローヴァ
豊饒の女主人の従業員。嘘を見抜く程度の能力をもっている。自称一般人。
“何でも屋アーデ”に面接しに行ったら、アルフィアにお祈りメールを直接言われる。ある意味で、アルフィアに最も警戒されている人。
アルマが関わると偶にポンコツになる。
>>ソーマの酒
神すらも酔わせる代物。
正気を保てないとか、飲んでてもつまらなくないか、とは黒いのの言葉。
失敗作の方が美味い、というのも黒いのの言葉。
>>「俺の方が、上手く、造れる」
割と重い感情を持ってるソーマ概念
>>「綺麗な色でオレが好きな眼をしているんだ」
袖にして、好みじゃないとか言っておきながら、こんなことを本心で言うのだから情緒も滅茶苦茶にもなる。
>>「怒られちゃった」
反省なんてするわけがない