ブギーマンは世界を大いに嗤う   作:兵隊

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 頭のいい人がいると話しがスムーズに進むな、って思った話です(なお表現出来ているとはいってない)


第18話 考察するのは親指カムカム

 

 迷宮都市オラリオの北部。

 広大な土地に建てられた、強大な建造物。まるで城のような外観で、荘厳な印象を感じさせる。

 

 そこに建つは、オラリオ内にて二大派閥と呼ばれる一翼、【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)である“黄昏の館”である。

 その中の一室、フィン・ディムナを筆頭とする三幹部が雁首を揃えていた。

 

 彼ら三人はソファーに座り、厳しい面持ちで。

 難しそうな顔でガレス、眼を瞑り思案するリヴェリア、そしてフィンといえば――――。

 

 

「駄目だ」

 

 

 有無を言わさない迫力。

 何があっても意見を曲げないような、【ロキ・ファミリア】の頂点たる威厳を見せながら、彼は一言だけ口にしていた。

 

 明確な否定。

 それを受けて、彼らに訴えるために訪れた二人の片方。狼人(ウェアウルフ)の男――――ベート・ローガが食い掛かる勢いで叫ぶ。

 

 

「何でだよッ!」

 

「どうしてもだ。ベート、方針を曲げる気はないよ」

 

 

 フィンはそういうと、端的に続けて。

 

 

「何度も言う。今回の件、アルマ・エーベルバッハに【ロキ・ファミリア】が介入する事は、断じて許さない」

 

 

 今から数時間前。

 深夜にてオラリオで死体が発見された。

 単純にして明快な事実が、オラリオが激震することとなる。“大抗争”をから2年が経ち、オラリオは平穏を取り戻しつつあった。そこで、よりにもよって、傷跡が癒えている最中にて、凄惨な事件が起き、オラリオは陰鬱な状況へと追い込まれていた。

 

 被害者は4人。

 二つ名などない、名も聞いた事がない冒険者であった。

 

 事件が起きた場所は住宅街。怪しい商売をしていたわけでもなく、問題とされていた闇派閥(イヴィルス)が根城としていたわけでもない。

 手紙で呼び出しを受けて、指定場所に赴いたものの差出人は現れず、出掛けていた住人が帰宅し、鍵を閉めたはずが開いていたため、急いで二階に上がると――――そこにいたのは二人の人影。

 暗かった事もあってか、二人が誰なのか住人には解らず、腰を抜かして気絶していたと住人は語っていた。

 

 そして一夜明けて、ギルドより指名手配されるは――――アルマ・エーベルバッハ。

 

 オラリオの住人は、やると思った、そんな事をする人には見えなかった、と二分していた。

 いうなれば、混乱していると言ってもいい。

 

 ファミリアでも彼に対する対応がバラバラであった。

 とりあえず話を聞こうとする者達、彼と言う武器を手にしようと囲おうとする者達、犯人だと決め付けて討伐しようとする者達と、対応も様々。

 

 そんな中で、【ロキ・ファミリア】の方針といえば――――放置であった。

 むしろ、自分達がアルマ・エーベルバッハに関わる事を禁じており、アルマが犯人であるという前提で話しを進めていた。

 

 

 

 そしてその方針に異議を唱えるのが、ベート・ローガともう一人であり、現在に至る。

 

 フィンは意見を曲げない。冷静な口調で、真偽は定かではなことに無闇に介入するべきではないと俯瞰的な視点で告げる。

 対するベートは青筋を立てながら、苛立ちを抑えきれずに。

 

 

「だから! あの野郎が、あんなつまらねぇマネするわけねぇだろ!」

 

「そこまで言うのなら、根拠はあるんだろうねベート」

 

「ねぇよ!」

 

 

 あまりにも感情論。

 清清しいほど気持ちよく答えるベートに、フィンはため息を吐いて。

 

 

「話にならないな。今のオラリオは混乱している。そこに僕達が介入してはどうなる? 悪戯に状況を掻き乱すだけだと、どうして解らない?」

 

「それは……」

 

「僕達はオラリオの二大派閥の一角だ。個人に介入する事など、愚かにも程がある。再三告げるが、【ロキ・ファミリア】は彼に介入する事は断じて許さない」

 

 

 フィンは暗に語る。

 これ以上は為す事はない、と。苦虫を噛み締めたような表情であるベートから視線を移し、抗議に来たもう一人の少女――――アイズ・ヴァレンシュタインに視線を向けて。

 

 

「アイズも彼がやってないと思っているのかい?」

 

「うん」

 

「根拠は?」

 

「ない、けど……」

 

「けど?」

 

 

 アイズは真っ直ぐにフィンを見つめて。

 

 

「黒い人が、リリルカを悲しませる事をしないと思うから」

 

「だから殺してないと?」

 

「うん」

 

 

 迷いなく、はっきりと、少女は頷いて見せた。

 ベートとは違った意味での感情論。根拠はなく、そうであったほしい、という願望でしかない。

 

 人の殺意など一時で簡単に変わる。

 我慢して我慢して急に牙を剝く事もあれば、我を忘れて支配される事だってある。その点だけ考えれば、アイズの口にしたモノは根拠にすら満たない。

 

 これ以上、フィンから言う言葉はない。

 しかしアイズは違うようで、おずおずとした様子で。

 

 

「フィンは、黒い人が犯人だと思ってるの? 友達じゃないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と、手厳しく言いおったのう?」

 

 

 ベートとアイズを下がらせて、今まで黙って静観していたガレスが口を開いた。

 非難する口調ではない。むしろ異議がないからこそ、今まで彼は静観に徹していたのだ。

 

 フィンはガレスの言葉を苦笑いで応じて。

 

 

「あぁでも言わないと、引き下がらなかったからね二人とも」

 

「だろうな。特にベートよ、いつから懐いておった?」

 

「懐くとは違うんじゃないかな。自分が認めた男が、そんなつまらないマネをしたら許さないといった感じだと思うけど」

 

 

 さて、とフィンは言葉を区切り。

 

 

「二人はこの件、どう思う?」

 

「妙だと思うが、どうじゃろうな。リヴェリア、お主はどう思う?」

 

「茶番、だろうな」

 

「茶番とな?」

 

 

 ガレスの訝しむ返す言葉に、リヴェリアは応対しない。

 むしろ何か難しそうに、心ここにあらずといった様子で、思案に耽っていた。

 

 フィンは疑問に思わない。

 リヴェリアが何を考えているか理解しており、彼女も苦労するな、と憐憫な感情を向けて。

 

 

「その前にガレス。今回の件で不可解なことが少なくとも3つある」

 

「ほう? 聞かせてもらおうか」

 

 

 フィンは頷き、人差し指を立てて、

 

 

「1つ目は、殺された冒険者がどこのファミリア所属なのか解らないということだ」

 

「そういえば、公表されておらんかった。まだ解らんのか?」

 

「あぁ。ギルドが言うには、遺体の損傷が激しく、どこのファミリアなのか判別がつかないといった理由であるらしい」

 

 

 そこで、と言葉を区切りフィンは人差し指の他に中指を伸ばして。

 

 

「2つ目だ。どうして殺された冒険者の主神は何も言わない?」

 

「確かに言われてみれば妙じゃな。自分の眷族が殺されたとあっては、神会(デナトゥス)でも開いて騒ぐ筈」

 

「だがそれがない。殺された冒険者が、誰の眷族なのか解らないのはおかしい」

 

「他の神が神会(デナトゥス)を開く気配は?」

 

「今のところなしだ。いずれは開かれるだろう。退屈を嫌う神々が、見逃すわけがない」

 

「ほう? フレイヤ辺りが開くと思っておったが、何もせんのか?」

 

 

 ガレスも何度か耳にしている。

 あの美の女神が、“何でも屋アーデ”に何度も足を運んでいると。

 それが事実であれば、明らか彼女はアルマに執着しているということになる。あの女神が、自ら足を運ぶなど異常過ぎる行動と言っても過言ではない。フレイヤの性格からして、男の方から来るように仕向ける筈である。だがそれがどういうわけか、健気にも彼女から足を運ぶという事実。

 フレイヤと言う女神がどのような神物か理解すればするほど、ありえない行動であった。

 

 だからこそ、ガレスは疑問に思う。

 あの執着対象が妙な事に巻き込まれているのだから、介入する筈であると。

 

 しかし予想に反して、フレイヤとその眷族達は、【ロキ・ファミリア】と同じく行動せずに今だに静観を保っている。

 

 

「僕もてっきり、彼女が最初に動くと思った。何もしないのなら、それでいいけどね」

 

 

 女神フレイヤが動くという事は、つまりそれはオラリオの二大派閥である【フレイヤ・ファミリア】も動くということに他ならない。

 混乱しているオラリオが更に混乱してしまうことは目に見えており、大人しくしてくれているのであれば、それ以上にありがたいことはないだろう。

 

 それだけ考えて、フィンは人差し指中指に続いて、親指を立てて。

 

 

「最後に三つ目だ。どうしてギルドは異例の速度で彼を犯人だと断定したのか」

 

 

 殺人が起きて、その数時間後の明朝には指名手配されていた。

 それは明らかに異例であり、まるで最初から彼を犯人に仕立て上げようとしていたとしか思えない。

 

 

 ――事件の現場を、満足に検分もしてないだろうに。

 ――第一、目撃者にも聞き込みもなしだ。

 ――焦っていた?

 ――彼を嵌めた人物と、指名手配した人物は同一人物か?

 ――同一人物にしては、拙策過ぎる。

 ――あまりにも雑すぎる。

 

 

 そこまで思案して、フィンは一つの可能性を考えて。

 

 

 ――いいや、これは口にするべきじゃない。

 ――何よりも証拠がない。

 ――しかしありえる事でもある。

 ――ギルドにアルマを処理したい勢力がまぎれている。

 ――つまりは、闇派閥(イヴィルス)

 

 

 闇派閥(イヴィルス)にとって、アルマ以上に厄介な存在いないに違いなかった。

 ファミリアに所属してないから団体で動く事もなく、一人で動けるからこそ隠密さに優れ、おまけに冒険者すらも歯が立たないほどの武力。そんな手合いに眼をつけられるなど、闇派閥(イヴィルス)にとっては悪夢でしかない。

 

 ならば何が何でも、排除しようとするに違いなく、だらこその今回の雑な策だったのだろう。

 そう考えれば、ギルドの思惑も見えてくるというもの。此度の件は、ギルド内部に蔓延っていた膿が原因となっている。それを考えれば、フィンはギルドが何をしたいのか、手に取るように読めてくる。

 

 フィンは難しそうな顔で思案しているリヴェリアに話しを振る。

 

 

「その点はギルド、いいや、ロイマンか。彼の思惑もあるのだろうけど、リヴェリアはどう思う?」

 

「だから言っているだろう、茶番だと」

 

 

 ため息を吐いて、リヴェリアは続けて言う。

 

 

「事の顛末によっては、私はアルマ・エーベルバッハに借りを作ることになる」

 

「それはご愁傷様というしかない」

 

「あー、なるほど。そういうことか。エルフの王族とやらも、大変じゃのう?」

 

 

 ガレスもフィンと同じ見解に至ったのか、哀れみの視線をリヴェリアに向ける。

 

 

「五月蝿い小僧共」

 

「なんじゃ、年増。儂ら当たっても仕方あるまい」

 

「しょうがないさガレス。ロイマンが悪い」

 

 

 さて、とフィンは立ち上がり。

 

 

「僕は散歩に出掛けようと思う」

 

 

 その意図を汲んだのはリヴェリアだ。

 この状況で散歩。混乱しているオラリオを練り歩く。迷宮(ダンジョン)に赴かずに、敢えてオラリオを散策するという事。それはつまり――――。

 

 

「……待て。お前先程、【ロキ・ファミリア】は介入しないと言わなかったか?」

 

「言ったさ。【ロキ・ファミリア】は介入しない」

 

 

 そのまま悪戯を成功させた子供のような笑みを浮かべて。

 

 

「個人が何をしようが、僕は関与しない。何をやっても自由だ」

 

 

 そこから続くのは大きな物音。そして続くのは二つの足音だった。歩幅もバラバラであり、足音も均等性のない二つの足音。バタバタと慌てて走るそれを耳いれて。

 

 

「――――聞かれてたみたいだね」

 

「何を白々しい。ワザとじゃろう」

 

 

 ガハハハ、と居丈高に笑うガレスと、頭を抱えるリヴェリア。

 対照的な二人を見て、軽く笑みを浮かべてフィンは言う。

 

 

「それじゃ行って来るよ。“豊饒の女主人”にでも行けば会えるかな」

 

「会うとはエーベルバッハか?」

 

「いいや、アルフィア達さ」

 

 

 リヴェリアの問いにフィンは答えて。

 

 

「彼ならきっと、ギルドに直接出向いてるんじゃないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ▼ベートは走っている
 ▼アイズは走っている
 ▼フィンは散歩している
 ▼リヴェリア「フィン、変わったか?」 
 ▼ガレス「解りやすくはなったのう」

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