――なぁ、アルマ――
――『なんだよ?』――
――お前さ、綺麗な女ってどう思う?――
――『どう思うって、良いに決まってないか?』――
――あぁ、良いとも。綺麗な女は良い。抱きたいよな?――
――『待てよ“――――”。俺はまだ子供なんだが?』――
――そう言う割に、意味が解ってるみたいじゃないか――
――『オマエと一緒に居ればね。抱くってのは、つまりセックスだろ?』――
――まぁ、そういうことだな。どうだ?――
――『好みだったら、抱くかな?』――
――正解だ。選り好みするのは間違ってない。大事だそれは凄く大事だ――
――『……嫌な思い出でもあるの?』――
――うん。フレイヤって女神なんだが、会ったら気をつけろ?――
――『悪い女神なのか?』――
――良いと思うよ。超美人だし、男からしてみたら超良い神さ――
――『というと?』――
――殆どの男性神と関係を持っていて、お眼鏡に叶ったら抱いてもらえる――
――『それはまた、凄まじいな』――
――だろ?――
――『でもそこまで突き抜けてると、逆に俺は好きだぞ』――
――マジ? やっぱりお前って変わってるね――
――『そういうオマエは? 殆どって事はさ、その中に含まれてるの?』――
――含まれてないさ――
――『え、どうして?』――
――引き篭ってたから、タイミングを逃した――
――『下界デビューかよ、“―――-”。ダッセェ』――
――そんな言い方ないだろう。神でも傷つくぞ?――
――『でも待ってくれ。オマエ、フレイヤと何もなかったんだよな?』――
――あぁ、そうだよ――
――『何で気をつけろって言ったんだ?』――
――お前がヤれて、俺がヤれないのって悔しいじゃないか――
――『……こんなのに育てられたのか俺』――
――そんな眼で見るなよ。ゼウスに言いつけるぞ?――
――『その前に、フレイヤに相手にされなかったって言いつけるが?』――
-―ははは、やめろ。そんなことされた日には、俺はオラリオ中の笑いものだ――
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そんなこともあったな、とアルマ・エーベルバッハは懐かしい過去を追憶して、テーブルを挟んで座っている美の女神と呼ばれる
なるほど、確かに、と。アルマは勝手に納得していた。顔が良いと言うレベルではない。美の女神と呼ばれるからには美しい事は予想はしていたし、超美人という前情報もある。ある程度、顔が整っていることは、アルマも解っていたが。
「何かしら?」
涼しげに、フレイヤはアルマに微笑を浮かべる。
まるで、アルマの考えている事が。いいや、男という生き物全員が何を考えて自分を見ているのか熟知しているというかのように、フレイヤは見透かしたような笑みを浮かべていた。
扇情で情熱な笑み。
普通の男であれば胸が高鳴るものであるが、アルマはどうやら違うようである。
へら、と。
どこか誇らしげに、気分が良さそうに笑みを浮かべて。
「いいや、オレの世界でアンタみたいな綺麗な女神がいると思ってなくてさ。世界は狭いと思っていたが、案外広いのかもな」
「……それは、褒められてるのよね?」
「勿論、良く来たなフレイヤ。オレは歓迎しよう」
遠まわしで、どこか自分本位な言い分に、フレイヤは少しだけ困惑する。
今まで自分を良く見せようとしてきた男は掃いて捨てるほど見てきた。だがこの男はそれとは違うようで、さも当然のように、世界が自身の所有物の一つであるように、言ってのける。
フレイヤを褒めているわけではない。
解りづらい言い回しであるが、彼は世界の広さに驚き感心していた。
それを理解した、フレイヤの両脇に控えていた男女の眷族が殺気を込めて、アルマを睨みつける。
上級冒険者すらも臆するほどの殺気を受けても尚、アルマは涼しい顔をして上機嫌に受け止めて、その後ろに控えていたアルフィアはため息を吐く。
――予想していたが、この男は本当に馬鹿か。
――相手はフレイヤとその眷族。
――フレイヤは兎も角、その眷族が受け流せるわけがない。
――彼奴には空気を読むという
そこまで考えて、アルフィアは首を横に振った。
なかった。そんな便利なモノがあるのなら、自分はこうしてここに立っていない、と彼女は匙を投げる。
ここで殺し合いになろうが、丸く収まろうが、どうとでもなる。心底気に入らないが、目の前にいる男はこの程度の難業、どうとでもなるとアルフィは確信していた
だから彼女は口を挟まない。
事の成り行きを見守る事に専心する事にしていた。
「それで、何をしに来たんだ?
「えぇ、そうね。私が困ったら、
「ふーん」
いよいよをもって、アルマは興味がなくなったようだ。
最初は始めての依頼人かもしれない、とテンションが上がっていたものの、違うと解った今となってはフレイヤはどうでも良く思ってしまっていた。
むしろ、今日の晩御飯は何にするか、と明後日の方へと思考が移っている始末。
対するフレイヤは。
「ふふっ」
優雅に笑みを浮かべて。
「面白いわね、貴方」
得物を見つめる肉食獣のような眼で、アルマを見つめていた。
彼女にとって初めての体験だった。
かの
しかし目の前の男は、そんな素振りすら見せない。靡かないどころか、眼中にすら入っていない。
捉えようによっては、不快なモノであり、自分本位であるアルマに嫌気が差すことだろう。
しかし、フレイヤの反応は全く異なるもの。ありえない状況過ぎて、逆に新鮮な気持ちでアルマを見つめていた。
その表情は、美の女神としての彼女ではなく、一人の女性としてのフレイヤとしての顔が見え隠れしている。
「オッタルを倒した者がどれほどの子か気になって来て見たけど噂以上。無駄足じゃなかったみたいね」
「ん、もしかして褒めてくれるのか?」
「勿論。貴方に興味が湧いてきたわ」
「おっ、そうか。褒められるのは好きだぞオレ。いいぞ、もっとオレを賞賛してくれ」
得意げに、両手を広げてフレンドリーに。
挑発のつもりは欠片もなく言い放つアルマに、フレイヤの両脇に控えている男女の眷族は益々殺気を放っている。
もはや抑えが効かない、っといった様子。
今からでもフレイヤに不敬を働いているアルマに飛び掛らんとしているが、アルマ本人は涼しい顔。むしろそれすらも、自分を賛美している声の一つであると言わんばかりに笑みを深めて言った。
「オッタルってアンタの眷族なのか?」
「えぇ、そうよ。強かったでしょ?」
「骨があるやつだったな。オレが戦ってきたヤツらで15番目くらいには強い。1番は勿論オレだが」
強いのかそうではないのかよく解らない順位に、フレイヤは苦笑を浮かべて。
「それって強いのかしら?」
「オレの二十本の指に入るんだぞ? 強いに決まってるだろう」
「基準が解らないわ……」
ふふっ、と自然な調子でフレイヤは笑みを零し、口元を緩めていた。
そこで、ふと。自分が笑みを零した事を意外そうに、緩めていた口元を押さえる。
調子が狂う。
純粋に笑ったのは何時ぶりだろうか、と。
もしかしたら、下界に下りてきて初めてかもしれない。
フレイヤの胸のうちは、新鮮な気持ちでいっぱいであった。
ここに来て、初めて【
――この子の魂。
――それは決して綺麗といえるものじゃない。
――黒く墨よりも黒く、何者にも染まらぬ黒。
――気高く、死ぬまで己を曲げずに、世界の頂点として君臨し続けるような色。
全く好みじゃない。
もっと綺麗な色のほうが惹かれる。
透明で純粋で、素朴で透き通った色の方が、フレイヤは好みであった筈だ。
しかしどういうわけか、フレイヤは目の前の男から眼が離せなかった。
今まで見たことがない男。彼が何を思い、何を感じて、何を目指し、どこから来てどこへ行くのか。フレイヤは興味があった。
今回、訪れたのは様子見。
味見のつもりであったが、彼女は自然と口にしていた。
思考が追いつかない。
このまま誰かに取られてしまうくらいなら、自分の手元に置いておこうと、思ったら言葉はいつの間にか紡がれていた。
「貴方、私の眷族にならない――――?」
「いいのか?」
口火を切ったのはアルフィアだ。
家とも解らないあばら家にいるのはアルマとアルフィアのみ。
フレイヤ達は先の言葉への返答を聞いた後、ここから既に去っている。
アルフィアの問いの意図が読めないといった調子で、彼女に視線を合わせることなくアルマは天井を見上げながら。
「何がだ?」
「フレイヤの眷族の話しだ」
そこまで言うと、アルフィアは続けて。
「何故断った?」
アルマは断っていた。
バッサリと。考える素振りすら見せずに、嫌だ、と。
男性に断られるなど初めての体験だったのか、あんな顔をしたフレイヤは見た事がないとアルフィアは思い出しながら。
「癪であるが、本当に認めたくないが、貴様なら冒険者として大成するだろう」
「本当に嫌そうに言うなオマエ」
「私は貴様が嫌いだからな」
事実だけを口にして、アルフィアは元冒険者としての立場から、俯瞰的な視線を持って告げる。
「今のような貧困に陥る事もなく、貴様は偉業をなし、万人から賞賛されることだろう。もしかしたら英雄にすらなれるかもしれない」
「まぁ、そうだろうな」
「否定しないのか」
「応とも。オレはあらゆる難行を乗り越えて、偉大な冒険者になれるだろう。オレがなれると信じたのだから、それは絶対だ」
アルフィアは苦虫を噛み締めた顔で表情を歪めるものの、否定はしなかった。
この男が口にしたのは、大言壮語などではなく真実である事は、アルフィアは嫌って程理解している。口だけの男ではなく、本当に成し遂げてしまうほどの力を持っていることを知っているから。
故に、アルフィアは否定をしない。
口惜しくも、彼の言う言葉は真実であるから。
「オレは嫌だな。偉大なオレよりも、今のオレの方が何倍も良い」
「それは、何故だ?」
「別にオレは金がなくても良い。万人に賞賛されなくても良い、それこそ英雄になんてなりたくもない」
「褒められる事が大好きの癖にか?」
意地の悪い口ぶりで問うアルフィアに、アルマは退屈そうな口調で。
「オレは気に入ったヤツから賞賛を受けたいのさ。何でも屋なんてやるのもそれが理由だ。オレは気に入ったヤツだけに手を貸したいんだ。英雄になんてなっちまったら、それこそ全員を救わないとならないだろ?」
アルマの脳裏に蘇るのは懐かしき問答。
冗談じゃない。
オレはオレのままがいい。
英雄になんてなりたくもないし、自身にはそんな資格がないと断じて。
「気に入らないヤツは気に入らないし、嫌なヤツは嫌なヤツ。英雄はもれなくそんなヤツらも助けないとならない。オレにはそれが耐えられない。英雄なんてのは、度が過ぎた善人が成るべき役割だ」
「随分と冷たい男だな貴様は」
「それがオレだ。オレが良いことをしたいのも、何でも屋をやるのも、趣味だからだ。気に入ったヤツに手を貸して感謝されて、オレが満足したいんだ。眷族になんてなっちまったらさ、趣味に没頭出来ないじゃないか」
それに、と言葉を区切り。
「オレが行ったら、オマエは一人になっちゃうだろ?」
「――――――――」
アルフィアは言葉を失った。
アルマにとって、その言葉は特別なものではない筈だ。
気取った調子でもなく、思いつめた様子もなく、その言葉はそう思ったから口にした。その程度のものでしかない。
現にアルマの関心は既に他に移っている。この会話は、彼の中では既に終わった事であることが解る。
アルフィアは違った。
心は吹きすさぶ嵐の如く。
何が一人になっちゃうだろうだ、と。
今も昔も、こちらの調子を乱すアルマという男が気に入らない、といった調子で。
「私は貴様が嫌いだ」
「あぁ」
「無茶苦茶なところが嫌いだ」
「そうだな」
「昔から、貴様のそういうところが大嫌いだ」
「解ってるよ」
でもそれよりも、と心の中で区切り。
言葉とは裏腹に、口元を緩めて、頬を紅く染めて。
――――貴様の言葉を嬉々として受け止めている、私が大嫌いだ――――。
>>“――――”
アルマを拾った天邪鬼の男で名付け親
四文字。元引きこもり。下界デビュー。
>>フレイヤ
エロい。
何かおもしれー男がいると聞いて足を運んだ。
予想よりもおもしれー男だった。靡かないとか本当?
>>フレイヤの眷族
アルマ「アンタは綺麗だけど、好みじゃないんだ。褐色が良いんだオレ。ゴメン」
こんな事を言われたらしい。
そりゃフレイヤも見た事がない顔にもなる。告白もしてないのに、好みじゃないとフラれた。
おもしれー男。フレイヤのやる気が上がった。