俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
「部長さんっ走りながらだけど聞いていいかな!?」
永久の森を目指すボクの背中へ、アリシアさんの声が飛んで来る。
「構いません、どうぞ」
「ハル君に救援が必要なのは判ったんだけど、どうして私なのかな!? 先生とかに頼った方が良いんじゃ無いの!?」
永久の森まではまだそれなりに距離がある。戦いで冷静さを欠いてはいけない。アリシアさんの問いかけに答えれば、少し落ち着けるかもしれない。
「まず現在の学園全体の戦況ですが、膠着状態にあります」
孤児院由来の生徒のイーヴィル化と、不自然なイーヴィルの大量発生、この対処に学園の生徒と教員全員が動員されているが現状では戦力が拮抗している。
「孤児院の子供がイーヴィル化したイーヴィルが強力であり教員か八天導師を交えなければ対応できない事、クラスは低くとも無制限に発生しているイーヴィルも数が多すぎて討伐速度と拮抗している事などが挙げられます」
「う、うんそれはなんとなく判ってる」
「戦力的にはカツカツなのです。特にイーヴィル化した生徒の制圧に高い戦力が必要になります」
討伐と制圧は違う。ただ倒すだけならばもっと簡単な話なのだが、イーヴィル化した生徒をそのまま殺す事などできない。テラ様の方針もそうだ。
「イーヴィル化した生徒一人に教員か八天導師一人をあてがって更に4年生以上の生徒達の戦闘支援を含めてギリギリ採算がとれている状態です。先輩が交戦しているのはハルカさんとキータさん二人、計算上は八天導師であるボクが救援に向かう事でバランスがとれ、悪い言い方をすればそれ以上の戦力は回せない状態です」
「つまり追加の救援は一般生徒の私じゃないとダメなんだね!!」
アリシアさんが嬉しそうに言う。先輩の力になれる事が喜ばしいのだろう。
が、ボクは本当の事を彼女に伝える。
「と、言うのは全て建前ですがッ!!」
「えええええ!!?」
そう、今述べたのは全部建前だ。
「もっともらしい理屈を並べて、貴女を引き抜いてきました!」
「ど、どどど、どうして???」
「貴女自身は自覚していないようですが先輩が新しく開発した貴女の魔法『ドリーム・ディメンション』はとても強力な魔法です」
「そ、そうかな? 流石に先生や八天導師の人たちが使う魔法と比べれば劣ると思うんだけど……」
疑問符を浮かべているアリシアさんに提示する。
「ご自分で言って気付きませんか? 『ドリーム・ディメンション』を作ったのが誰なのか」
「あっ!? 〝八天導師〟のハル君だ!?」
「先輩はまだ自覚していませんが、マジッククラフトに関しては一般のプロフェッショナルと同等の技術を持っています! 技術というのは記憶では無く指先が覚えているものなので! 加えて、先輩を取り巻く環境――即ち。マジッククラフトの原料たる魔力・魔法陣・魔石等素材も八天導師が絡み一流を超えるモノが揃えられていますしなんならボクが厳選しています!」
つまり、一般プロの先輩の技術で八天導師由来の素材を組み合わされて作られるマジックアイテム――先輩が作るモノは〝八天導師〟の名を背負うに恥じない性能を持っている。
「『ドリーム・ディメンション』には『ナイトメア・ダークマインド』程の権能はありません。比べれば大きく弱体化しています。が、それは『ナイトメア・ダークマインド』が規格外だっただけです」
「って言っても現実に出来る夢ってそんなに多く無いよ? せいぜい『ミラーズ・ミラージュ』の鏡像に実態を持たせるとか第三階級の基礎魔法の行程を無視するくらいしか……。逆に現実を夢にして無かった事にする方の効果はホントにちょこっとの事しかできないし」
と、『ドリーム・ディメンション』の権能を自身で確認するアリシアさんの言葉を訂正した。
「いいえ、そこの認識が違います」
「え、そうなの?」
「どちらの効果を使う場合でも現実と夢のギャップがある程、必要な魔力が多くなる他適応可能な最大効果範囲は大幅に縮小しています」
例えば『ナイトメア・ダークマインド』ではアリシアさんが所持していない属性の第四階級の基礎魔法を発動できたりもしたが、『ドリーム・ディメンション』ではそこまではできない。
「そんな状態で尚、高性能で引き出せる効果があります」
「わかんないよぉ~! 部長さん、もっとヒント欲しいな!」
「現実とギャップが少ない魔法ならば、『ナイトメア・ダークマインド』の様に貴女自身の魔力や才能を遥かに凌駕する魔法が発動できるということです」
「現実とのギャップが少ない魔法? でも私、回復魔道士(ヒーラー)だから使える魔法なんて回復――えっ? ええっ!!? そういう事なのかな!?」
漸く、アリシアさんは理解した様だ。
「理解したみたいですね。そうです『ドリーム・ディメンション』は『回復魔法』に関してだけは『ナイトメア・ダークマインド』と同等のポテンシャルをもって効果を発動できるのです!!」
「ちょ、待って、それ凄すぎない!? だって『ナイトメア・ダークマインド』って夢だからって言ってわりかし何でも出来る魔法だったんだよ!? 回復魔法限定とはいえそれがそのまま『ドリーム・ディメンション』にも適応できるなら――」
それが先輩が模倣し、作り出した大魔導『ドリーム・ディメンション』の真価。
「はい。現在貴女も、周囲の誰も認知してしませんが。今の貴女は間違い無く、八天導師よりも、教員よりも遥かに抜きん出た学園で〝最強の回復魔道士〟になっていますッ!!」
「うそぉ!!?」
恐らく後方ではアリシアさんが目を点にしているだろう。
いきなり自分が最強クラスの能力を持っているだなんで宣言されれば無理も無いか。
「先輩は自身の事を過小評価していますが、本当はお強い方です。あまり良くない事を掘り返してしまって申し訳ありませんが、実際に戦った貴女にも判りますよね?」
「う、うん」
「その先輩が、救援を求めています! 恐らく歴戦の直感が働いたのでしょう。ハルカさんとキータさんは想定外の強さを持ったイーヴィルになってる可能性が高いです!」
「だから私の回復魔法が必要なんだね?」
「はいッ! 正直ボク自身も計算と勘が半分半分くらいです! 学園の貴重な生命線を独断で先輩の為だけに引き抜いて来た事はほんのちょこっとだけ反省しています、が用心に超した事は無いと思うのです」
先輩が簡単にやられる訳がないとは思いつつも、先輩はいつも無茶をして戦う人だから心配にもなる。
「それから、いくら何でもアリに近い回復魔法が可能とは言え流石に死人の蘇生は出来ないと思われますから、急ぎましょう!」
話しているウチに永久の森に到着したが、その様子は明らかに先程までと変わっていた。
ゴォウと低いうなり声の様な音が深部から聞こえてきて、風が常に永久の森の奥へとながれていっている。
「何これ、奥で何かが起こってるっ部長さん!!」
「っ」
尋常じゃ無い気配を察したボクもアリシアさんも息を呑んだ。
「走るのはやめて、警戒しつつ早足で歩きましょう」
「了解したかな!」
二人で警戒しつつ、森の奥へと進んでゆく。
進めば進む程に、森の奥へ向かう風が強くなっているのを感じた。
そして――
「な、何これぇッ!!?」
ボク達の視界に入ったのは、視界を覆い尽くす程に強大な暗黒の球体――『第三暗黒魔法(ブラックホール)』に似た何かだった。
風は球体に向かって吹いている。漸く判った。これは風では無く〝引力〟だ。
周囲の木々、土、あらゆるモノをこの球体が吸い込んでいる。
「先輩ッ!!」
ボクは思わず飛び出した、が。
「ちょ、部長さんストォップ!!」
アリシアさんに背中の服を掴まれて止められた。
「明らかにヤバいのにいきなり飛び込むのは不味くないかな!? ハル君があの中に居る保証も無いよね!? どこかに逃げてる可能性も――」
「先輩はあの中にいますッ!!!」
ボクはアリシアさんの方を向いてその目を見つめ力強く断言する。
「なんでそこまで断言できるの?」
「あの中から先輩の匂いがするからですッ!!!」
「この状況で匂いどうこうが判るのおかしいんじゃ無いかなぁっ!!?」
「そんな事無いと思います! ボクは先輩が0.1秒でも通りがかった場所なら先輩の匂いを感じ取る自信がありますから!」
「部長さん、今は緊急事態だからスルーしてあげるけどかなりヤバい事言ってるからね!!?」
ボクは一旦深呼吸して、改めて巨大な黒い球体を見る。
「アリシアさん。ボクは八天導師の一翼〝黒天〟です。そして貴女は、まだ戸惑っているかもしれませんがこの学園で〝最強の回復魔道士〟です」
「う、うん」
「不測の事態もある程度は対処出来る筈です! ここは臆さずに進みましょう、これだけの規模で問題が発生しているのは大きな計算外、先輩の安否が心配です!!」
流石にハルカさんとキータくんのイーヴィルがここまで強大だというのは考えて無かった。何か良くない事が起こっている気がする。
「……判った。腹は括ったからね。一緒にハル君を助けよう、部長さん」
アリシアさんは覚悟を決めた様子だ。ボクを信頼してくれている様だし、ボクと同じように先輩が心配な気持ちもあるだろう。
ボク達は意を決して、黒い球体の中へと飛び込んだ。