俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~ 作:岩重八八十
尚背中の裾を掴んで俺を引き留めようとするアリスに、伝える。
「今は、もう少しだけ無茶させてくれ」
「どうしてっ!? ハル君は十分がんばったよ!! ここは一旦逃げよう? もっと沢山、仲間を呼んで、それで――」
「ダメだ。あいつは。トーラは。一秒でも早く倒さなきゃいけない」
俺は強くない。弱くて、ちっぽけな石ころだ。
事実、強大な闇であるトーラを前にして、何も出来ずに倒れ伏した。
俺に出来る事なんて、そう多くは無い――。
だとしても。
「――俺は〝八天導師〟だから」
こんな俺でも助けてくれる人達が居る。
「策はあるッアリスはこのまま『ドリーム・ディメンション』を使って〝破滅の光〟をできる限り増幅してくれッ」
返事は聞かなかった。掴まれていた服の裾から、手が離れるのを感じたから。
俺は、走る。
「シジアンッ! まだ耐えられるかッ!?」
シジアンは俺よりもアリスよりも前に立ち、光の壁を展開してトーラの攻撃を一身に受けていた。暗紫色の魔力でできた槍を阻む度に、彼女の額に汗が滲み彼女が持つ本のページが端から少しずつちぎれていく。
「はいっ先輩ッ!!」
『一体、何をするつもりでしょーか? ファルマ君は見ていて飽きませんねー。でもトーラちゃん的には今回〝叶えられるべき願い〟さん達を全力で応援したいと思って居るので、邪魔させてもらいまーす』
暗紫色の槍の雨が、明確に俺を狙って降り注ぐ。
「させるものかッ!!」
それを、シジアンが光の壁で全て防いでくれる。
こんな俺でも、支えてくれる人達が居る。
「『マテリアライズ』」
俺は、この飢えた世界に漂う土塊と木々を無理矢理材料にして、小さな、一人乗りの船を作り出した。マテリアライズとマジッククラフトの応用だ。誰にでも、真似できるだろう。
「名付けるなら――『星の方舟』」
俺は船に乗り込む。船には『リア・スラスター』を発動してある。
背面から強く炎が吹き出し、船が空へと飛び出す!
『あはは、これでもけっこー本気なんですけどねー。魔力、風の魔法使いさんの方に回し過ぎちゃいましたかー。〝破滅の光〟、なーんか元の量より増えてませーん? 面白い魔法を使う娘がいらっしゃるようでー』
トーラの狂った笑顔は何処まで行っても崩れない。
『シジアンちゃんに、アリスちゃんって呼ばれてましたねー? キミ達もとーっても可愛くて面白いでーす。こーんなにたのしー気持ちは何千年ぶりでしょーか?』
船は凄まじい速度で空を駆けぬけて。向かう先は、ハルカとキータが眠る白い球体!!
『と、言う訳でー。ここからはほんとーの本気でーす。もっと、もぉーと、トーラちゃんを楽しませてくださーい』
トーラの身体からぶわりと、更に暗紫色の魔力が溢れ出す!
もう一歩でハルカ達が眠る白い球体に手が届く、その直前で壁となって俺の道を阻んだ。
「先輩ッ!?」
そんな俺をサポートしようとシジアンは〝破滅の光〟で出来た壁を俺の方へ送ろうとするが。
『させませーん』
トーラから溢れる〝拒絶の闇〟が行く手を阻む。
『星の方舟』と〝拒絶の闇〟は強くぶつかり。
「あと少し、ほんの少しなんだッ!!」
俺は持てる魔力を全て注ぎ込むつもりで『リア・スラスター』の炎を強く、強く焚いていく。
『すごい、すごーい! いくら片手間とはいえ〝破滅の光〟無しでトーラちゃんの〝拒絶の闇〟に対抗しますかー! 面白い、たのしー、くふっ、うふふふっ!』
トーラの笑い声が心に伝わって来る。人の生死がかかっているのに。世界の崩壊がかかっているのに。この人は本当に、まるで、ゲームで競い合う事を楽しむかのように今の状況を受け入れ笑っている。
そんなヤツに、負ける訳には、いかない。
俺は主人公じゃ無い。
こんな時、かっこ良く敵を倒してしまえるような、そんな、眩しい生き方は出来ない。
それでも。こんな俺でも、信じてくれる人達が居る。
「頼むッ届いてくれッ」
船の上で立ち、手を伸ばす。拒絶の闇が鋼鉄の壁のように堅く立ちはだかる。
強烈な競り合いの末、船が少しずつ、外郭から崩れていく。
俺の腕も〝拒絶の闇〟に刻まれ、一筋、また一筋と傷ついていく。
適わない、届かない。
そんな事、判ってるッ!!
だとしてもッ!!
諦める事なんてできない。これはもう、俺一人の戦いなんかじゃないんだ。
主人公になれなくても。
〝最弱の八天導師〟であるとしても。
俺は、戦わなければいけないッ!!
その瞬間だった。
俺を阻んでいた〝拒絶の闇〟が。
蜘蛛の子を散らす様に、退いた。
このとき、初めて。
『あうっ!? 痛たーあっちの方もけっこーやりますねー。現代(いま)の子達、ちょこーっとだけ舐めてましたー』
笑顔だったトーラの顔が、一瞬だけ歪んだ。
それだけで、俺は全てを察する。
――あいつもッ
アリスは俺を助けてくれた。
シジアンは俺を支えてくれた。
ドライズはいつだって、誰かの為に戦ってる。
〝破滅の光〟は、ルクシエラさんはいつだって俺の為に力を貸してくれる。
俺はちっぽけで弱いけど。
みんなが居てくれるから――特別じゃ無い俺をそれでも『特別だ』と言って、拾い上げて、受け入れてくれる人たちが居るからッ!!
「どんな闇だって怖く無いんだッ!!」
突き出した俺の拳が、白い球体の中へと届いた。